5Gの本領を発揮する上で移行が必須とされているスタンドアローン(SA)運用。英OpenSignalは2025年7月31日、日本の5G SAネットワークにおけるユーザー体験のレポートを発表しています。5G SAの本格拡大は進んでいるのでしょうか。→過去の「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の回はこちらを参照。
動きは遅いが徐々に進む5G SAへの移行
日本では2020年に提供開始されたモバイル通信の新しい規格「5G」。国内では一部で利用者が5割を超えるという調査も見られるなど、5年が経過したことでスマートフォン向けの通信手段として着実に普及が進んでいるようですが、ビジネス向けの通信としてはいまだに利用が広がっていないのが実情です。
そのビジネス活用を加速する切り札とされているのが「5G SA」です。SAとはStandalone(スタンドアローン)のことで、5G SAとは一般的に、5G専用の機器だけで構成されたネットワークのことを指しています。
現状、国内における5Gネットワークのほとんどは、1つ前の世代の通信規格「4G」のコアネットワークの中に、5Gの基地局を設置して5Gの高速大容量通信だけを実現する、NSA(Non Standalone)で運用がなされているため、5Gの本領が発揮できません。
そこで、5GのNSAからSAへの移行を進めることで5Gの性能をフルに発揮できるようにし、ネットワークを仮想的に分割してモバイルで専用線のようなサービスを実現できる「ネットワークスライシング」など、企業が求める機能を提供できるようにすることが期待されているのです。
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5G SAの整備を進めるKDDIは2025年4月17日、5G SAの商用ネットワーク上で、ネットワークスライシングを活用したソリューションを放送事業者向けに提供開始したことを発表。第97回選抜高等学校野球大会の中継にも活用されたという
しかし、携帯電話会社からすると、5Gで新たなビジネス開拓につながらなかったこと、とりわけ国内では菅義偉元首相の政権下で進められた携帯料金引き下げにより、経営に大きなダメージを受けたこともあって、投資意欲が大幅に減衰。5G SAに移行する機運があまり高まっていないのが実情です。
ただ、決してスピードは早いといえないものの、国内でも5G SAへの移行を進める動きが徐々に進みつつあるようです。実際、英国の調査会社であるOpenSignalは2025年7月31日、「5Gスタンドアローンは、日本で期待に応えているのでしょうか?」というレポートを公開し、日本における5G SAの通信品質調査を実施しています。
同調査では日本における携帯3社の5GのSAとNSAのパフォーマンス、そして携帯電話会社同士の5G SAネットワーク品質比較をしています。ただNTTドコモの5G SAはまだエリアカバーが狭いことから、前者の比較にデータを加えている一方、後者の比較には対象として加えていないとしています。
パフォーマンスは高いが普及にはまだ時間が
実際、レポートの内容を見ると、分析したすべての指標で5G SAのパフォーマンスが5G NSAを上回っていることが分かります。5G SAの方が通信速度が高速というだけでなく、平均遅延が25%短縮されており、ビデオ通話やゲームなどで高いパフォーマンスが得られるとしています。
かねてから、5Gはネットワーク遅延が小さいことが特徴の1つとされていた一方、その実力はSA運用に移行しなければ発揮できないとされていました。それだけに今回の調査では、5G SAが低遅延に強みを持つことを明確に示したといえます。
他方、携帯電話会社同士による5G SAのパフォーマンス比較では、au(KDDI)がほとんどの指標でソフトバンクを上回っているとの結果が出ています。
KDDIが優位性を発揮しているというのは、ここ最近のOpenSignalの調査で共通しているものですが、同社では「サブ6」に分類される3.7GHz帯の基地局を他社より多く設置し、SA化していることがKDDIの品質向上に影響したとみているようです。
もちろん、現時点ではそもそも5G SAが利用可能なサービスを契約し、端末を持っている人も多いとは言えないだけに、NSAのネットワークと比べ混雑していないこともパフォーマンスの高さに影響している可能性も考えられます。
全国で比較できるネットワークが2社のものに限られるという点を見ても、日本における5G SAの本格展開はまだまだというのが正直なところではないでしょうか。
ただ、ここ最近は携帯各社が5G SAの拡大に向けた動きを積極化しつつあることも確かです。OpenSignalのレポートが発表された2025年7月31日には、エリクソンがソフトバンクの4G/5Gネットワーク機器の導入に係る新たな契約を締結したと発表、契約の中にはソフトバンクの5G SAのカバレッジ拡大を推し進めることも含まれており、5G SAの全国展開に力を入れようとしている様子がうかがえます。
また、楽天モバイルも同日に5G SAの実装に向けたパートナーとしてシスコシステムズ、ノキア、F5の3社を選定したことを明らかにしています。まだ5G SAを展開していない同社ですが、今回そのネットワーク整備に向けて具体的なベンダーを発表したことで、今後大きな動きを見せるものと考えられます。
とはいえネットワーク機器ベンダーの選定や機器調達から、実際の整備に至るまでには時間を要するのもまた確か。それだけに5G SAが国内で本格的に利用できるようになるまでには、少なくともあと1~2年はかかってしまうのではないかというのが筆者の見立てです。


