5月末、フランス・ドービルで主要国首脳会議(G8)が開催されたが、今年は初めての試みとして、G8に先立ってハイテク/インターネットにフォーカスした「e-G8 Forum」が開かれた。インターネットが及ぼす影響は経済だけでなく、「アラブの春」に代表されるように政治や社会に広がりつつある。これを受け、議長国フランス大統領のNicolas Sarkozy氏が開催を呼びかけた。開催地のパリには、FacebookのCEO、Mark Zuckerberg氏、Google会長のEric Schmidt氏らネット界を代表する顔ぶれが揃い、ネット時代の著作権、ネットワーク中立性などをテーマに話し合った。

5月24日と25日、e-G8 Forumの会場となったパリ・チュルリー公園には、わずか8週間前の告知にも関わらず、錚々たる顔ぶれが集まった。Zuckerberg氏、Schmidt氏、AmazonのCEO、Jeffrey Bezos、News CorpのCEO、Rupert Murdoch氏、Bharti EnterpriesのCEO、Sunil Bharti Mittal氏など産業界からの参加に加え、インターネットと法に詳しいハーバード大の法学教授Lawrence Lessig氏などの識者も参加。日本からは楽天の代表取締役社長、三木谷浩史氏が出席している。

e-G8 ForumにはFacebook CEOのMark Zuckerberg氏ら、錚錚たるメンバーが参集

同フォーラムはSarkozy氏の起案を受け、「World Economic Forum(WEF: 世界経済フォーラム)」のオーガナイザーとして知られる仏Publicis Groupeがコーディネートした。スポンサーは、Google、Microsoft、仏Orange、仏Alcatel-Lucent、仏Vivendi、英Thomson-Reuters、中国Huaweiなど。

テーマは、経済(経済成長、雇用創出、価値創造など)と社会に与える重要性に加え、プライバシー、著作権などの知的所有権、人権、情報の民主化などの問題も含む。現在、これらの"課題"については各国ばらばらに取り組んでいるが、インターネットという国境のないサイバー空間では物理世界以上に協調が必要というのがSarkozy氏の考えだ。もう少し言えば、フランスは"Hadopi"こと違法音楽ダウンロード取締り法、ネット上の児童ポルノコンテンツ規制など、自由でなんでもアリのインターネットに厳しい姿勢で挑んでいる(Sarkozy氏はこれらを、「インターネットをシビライズ(文明化、教化)する」と呼んでいる)。e-G8により、世界に対しては自国の取り組みを認識させ、国内に対しては技術リーダーとしての国際的地位を確保して支持獲得につなげる狙いが見え隠れする。

だが、こと規制となると米国のネット界のリーダーたちは反対を示したようだ。Googleは検索での独占だけでなく、「Google Books」など仏政府との衝突が多く、Sarkozy氏からは「法やモラルのルールのない別の世界にいる」と非難されたが、Schmidt氏は、「技術は政府よりも速く動く。だから、技術がもたらす結果を理解するまで、規制を急ぐべきではない」と返した。

FacebookのZuckerberg氏は、「アラブの春でFacebookが大きな役割を果たしたことに賞賛を受ける一方で、これが可能となるような共有や、人に関する情報の収集は怖いといわれる」と述べ、両面が必要だとと強調する。「インターネットのよいところだけを切り離し、よくないところをコントロールすることなどできない」とZuckerberg氏は述べた。

このほか、ハーバード大の法教授でBerkman Center for Internet and Societyの共同ディレクターを務めるYochai Benkler氏は、オンラインでの著作権保護に対するフランスのアプローチを「間違ったやり方」と非難した。ブログbuzzmachine.comで知られるジャーナリスト、Jeff Jarvis氏は、「インターネットは第8の大陸だ」とインターネットを政府がコントロールすることに強い反対を述べた。

2日間のパネル、ワークショップを通じて、ネット業界側と政府側の溝が埋まったわけではないが、e-G8 Forumの代表者は2日間の話し合いの内容をドービルのG8会場に届けた。異論のないインターネットの重要性はもちろん、未解決の議題については、強要なき保護、インターネットが土台とする自由を汚すことのない規制について話し合いをした、という報告にとどまったようだ。

e-G8に集まったのはネット界を代表する大企業ばかりで、小規模企業や個人は参加していない。WEFのスイス・ダボス会場の横でアンチ派のデモがつき物のように、e-G8 Forumでも抗議があった。Hadopiへの反対で知られるフランスのインターネット活動団体La Quadrature du Netは政府と企業がインターネットをコントロールしようとする動きだと声高に非難している。

e-G8 Forumが今後継続するかどうかは今後の議長国の決定となるが、Publicisは2回目に期待したいと述べている。