今回は、まったく新しい見方のための思考方法である、「ラテラル・シンキング(水平思考)」について考えます。ラテラル・シンキンングは、1970年に創造的教育の研究者エドワード・デ・ポーノ博士が提唱した発想方法です。従来の、原因から結果が生まれるという前提に立った「直線的な」因果関係思考へのアンチテーゼとして生まれたそうです。ロジカル・シンキングやクリティカル・シンキングの手法と組み合わせることで、より広い視野での思考が可能になります。
AI時代にも必要な「ラテラル・シンキング」
話は少し飛躍しますが、現在のAI市場を達観していると、筆者がマイクロソフトに勤めていた時代に見た、ワープロ専用機の衰退を思い出します。日本独自のワープロ専用機が1970年代に登場して、仕事に家庭に普及して、そして2000年頃に生産終了しました。いわゆるガラパゴスの典型的な製品です。筆者は最初の会社が富士通だったこともあり、OASYSの親指シフトを愛用していました。
ワープロ専用機が急速に失速した大きな原因は、グローバル化が押し寄せてきたことだと考えています。ワープロ専用機は、標準のIBM互換のPCとMicrosoft Windows、そして、Microsoft Officeに取って代わられました。インターネットの普及により、Microsoft Wordのファイルフォーマットが普及したこともその要因だと思います。ワープロそのものは、Microsoft OfficeやGoogle Docsで生き残っています。
AI市場も同様に、巨大なグローバル企業が席巻し始めています。今まではローカルでもAIベンダーはそれなりに繁栄していました。ただ、AIの代表的なサービスであるAI OCRの規模といっても、せいぜい数百億円くらいの小さな市場です。開示情報を見ると、マイクロソフトの日本の売上はなんと1兆円を超えているのです。単体でですよ。
AIインフラ、AIモデルの部分、および、その上位であるAIアプリケーションの一部も、グローバルベンダーが急速な勢いで市場を拡大し浸透しています。AIエージェントが最近の話題ですが、グローバルベンダーはすでに多くの製品で対応しており、そのスピードにローカルベンダーは追従できていません。巨大でありながら速いという、敵にするにはとても恐ろしい相手です。動物のサイみたいな存在なのです。
おそらく、大半の日本のAIベンダーの勝ち筋は、AIアプリケーションでローカルのニーズにきめ細やかに応えていくニッチ作戦になると思います。そのニッチにはアイデアがとても大事です。他の産業も同じような構造があるかと思います。そこで、ラテラル・シンキングの出番なのです。
ラテラル・シンキングに必要な4段階の手法
ラテラル・シンキングは、水平思考とも言われていますが、イノベーションを実現するための思考方法です。イノベーションというと日本では技術革新と訳されることが多いですが、著名な京都先端科学大学大学院 の名和高司教授が「イノベーションの本質は『発明』ではなく、『社会実装』と『スケール化』させることにある」とおっしゃっている通り、イノベーションとは新しいスケーラブルなモデルの実装になります。
イノベーションとは、新しいものを世の中に出していくことで、今がAだとすれば、それとは異なるBへの水平移動になります。DX(Digital Transformation)のTransformationも本来、同じ意味です。日本人が結構不得意なところです。多くの場合、AからA’への変化や改善に陥っています。DXという言葉の大半は不幸にも、日本ではそのような使われ方をしています。
書籍『ラテラルシンキング入門 発想を水平に広げる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン 著者:ポール・スローン)では、多くの水平思考の方法が紹介されています。例えば、「前提を疑う」「掘り出すような質問をする」「奇妙な組み合わせをしてみる」「アイデアの量を増やす」などです。以下に簡単に解説してみます。
「前提を疑う」では、次の思考を推奨しています。ついつい自分の今の常識が凝り固まって、疑うことを忘れている場合が多いのではないでしょうか。In-Outではなく、Out-Inの発想です。
・定義の中に含まれる前提を疑う
・経験や事実からの推測を疑う
・当然と思っている日常の物事を疑う
・過去にうまくいったことが現在もうまくいくと思うな
「掘り出すような質問をする」では、"どうすれば"という質問が有効だと述べられています。ムーンショット的(飛躍的)なゴールで考えよということです。
・どうすれば、他社との市場シェアの差を4倍にできるのか?
・どうすれば、コストを半減できるのか?
・どうすれば、新しい見込み顧客を10倍に増やせるのか?
おかしかったのは「宇宙人だったらどうやってこの問題を解くのか?」という質問も有効だと述べられていることです。宇宙人になるのは、なかなか難しいですね。
「奇妙な組み合わせをしてみる」は、まさにイノベーションです。シュンペーターは、著書『経済発展の理論』(岩波書店)において、イノベーションとは「新結合」であると述べました。例えば、史上最大の発明の1つであるグーテンベルクの印刷機は、コインの刻印機+ブドウの絞り機の新結合で生まれています。身近なところでは、目覚まし時計があります。これは、アラームと時計の新結合なのです。ライザップ社のチョコザップ(chocoZAP)だってそうです。ジムに、コンビニ、美容、アミューズメントを新結合しています。やりますね。
「アイデアの量を増やす」は、まずは徹底的にアイデアの数を出すことから始めます。アメリカの発明家であるトーマス・エジソンは、数々の失敗を経験しながらも諦めず目標に向かって取り組み続けたことで成功を収めました。電球の発明には約2000回の試行錯誤と失敗があったと言われています。竹のフィラメントを発明するのに1万回失敗したと言われています。びっくりですよね。
現在の常識に行き詰ったら、ポール・スローン氏の書籍を読むことをお勧めします。筆者の大好きな曲の1つにDREAMS COME TRUEの『何度でも』があります。その歌詞の中で、「10000回だめで、へとへとになっても 1001回目は何かが変わるかもしれない」と歌っています。それを聞きながらかんばろう!