大谷選手の成功の要因
いきなりですが問題です。大谷翔平選手が成功している戦略の起点は、何でしょうか?
この質問をすると、大抵の人が、大谷選手が幼少のときに父親と交換していた「野球ノート」の存在や、目標を立てて努力する姿勢と答えるはずです。間違ってはいませんが、戦略の観点からみると、大谷選手が成功しているのは、ハンドボールや水球ではなく野球を選んだからです。
日本のNPB(プロ野球)を考えても年俸が一番高いスポーツですし、MLB(メジャーリーグ)に行くとさらにその金額が上がります。年棒が高いということは、それだけ人気があり、ファンが多いということになります。これは、私たちが使うTAM(Total Addressable Market)= "ある事業が獲得できる可能性のある全体の市場規模"が大きいということになります。
なぜこのような話をするかと言うと、キャリア開発でも同じだからです。もうかる仕事を選択することが、キャリア戦略上での大事な一歩になるのです。もちろん、そこで仕事のスキルを高めていく必要があります。
テクノロジー分野の15のトレンド
マッキンゼーが毎年発表しているレポートに、「Technology Trends Outlook」があります。この分析では、関心、イノベーション、投資を定量的に調べて、各テクノロジートレンドの"勢い"を測定しています。このレポートのユニークな点は、それぞれのトレンドで求人の数、および、人材が不足しているか余っているかを評価している点です。グットニュースとしては、すべての分野で人材は不足しています。みなさんチャンスです!
このレポートの2023年版を見ますと、そこには15のトレンドがあります。昨年の14のトレンドは勢いと投資は変化しつつも、すべてリストに残っております。そして、ご想像のとおり今年は「生成AI」が新しくトレンド入りしています。ですから、テクノロジーは急速に進化するといえど、トレンドはそんなに急速には変わらないということです。
人材面でみますと、特にクラウドコンピューティングや機械学習の産業化などのトレンドで顕著な人材不足があります。また、未来のモビリティや量子コンピューティングなど専門家を雇用する分野でも大きな課題があります。筆者も頑張って量子コンピューティングを学ぼうと思ったのですが、挫折しました。
15のトレンドは以下の通りです。
・応用AI(Applied AI)
・AIの産業化
・生成AI
・次世代のソフトウェア開発
・トラストアーキテクチャおよびデジタルID
・Web3
・先進のコネクティビティ
・没入型リアリティ技術(Immersive-reality technologies)
・クラウドおよびエッジコンピューティング
・量子コンピューティング
・未来のモビリティ
・未来のバイオエンジニアリング
・未来の宇宙テクノロジー
・電化と再生可能なエネルギー(Electrification and renewables)
・今後の気候テクノロジー(Climate technologies beyond)
参考までに、世界経済フォーラムの最新の「The Future of Job Report」において「テクノロジーの採用では、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、AIが採用される可能性が高くなります。75%以上の企業が、今後5年以内にこれらのテクノロジーの導入を検討しています」と述べられており、同じような傾向を示しています。
この中でも、今年のトレンドは、なんといっても生成AIです。これほど急速に普及したテクノロジーはまれであり、筆者が購読している海外のビジネスコンサルティングのメールのタイトルは、生成AI(Gen AI)が多くを占めています。ガートナー社の先日発表した「生成AIのハイプ・サイクル:2023年」でも、二年以内に普及する(白い〇)生成AIの技術が多くあります。これはちょっとした異常事態です。
逆に気を付けないといけないのは、生成AIの普及のスピードが速いので競争が激しく、レッドオーシャン化して人材の配給も今後充足される可能性が高いテクノロジーであるとことです。生成AIへのAIベンダー以外の急速な適応力をみても、技術的な敷居は低そうです。
現に、マッキンゼーのレポートを見ると、生成AIのその下位テクノロジーである機械学習と開発言語のPythonの人材はかなり充足されており、規制コンプライアンスの人材が圧倒的に不足しているのが分かります。ニュースでも、著作権 商標権などの権利侵害やフェイクニュースの懸念から、法規制をどうするかが話題になっていますからね。
機械学習では、分散型イベントストアおよびストリーム処理プラットフォームであるApache Kafkaや、Hadoopの上に構築されたデータウェアハウス構築環境であるApache Hiveなどの技術スキルを持つ専門家を必要としているそうです。昔、ストリーム処理プラットフォームを勉強した時期があるので、なんか嬉しいです。
そのような専門家には、これまで以上にソフトウェア・エンジニアリングのスキルが必要となっていきてるとのことです。これには、MLOpsが影響しています。MLOpsとはDevOpsと同様に、機械学習(ML)と運用(Operations)を組み合わせた造語で、機械学習の開発段階で、モデルの実行、監視、再学習などの運用サイクルまで考える開発手法になります。ちょっとニッチですが、おいしそうな市場です。
今後のキャリア戦略を描くために
そして、まだまだ人材が不足しているのが、クラウドおよびエッジコンピューティングと次世代ソフトウェア開発です。長い間この分野に関わってきているので、クラウドおよびエッジコンピューティングが今もトレンドというのはちょっと驚きですがね。
クラウドとエッジコンピューティングは、多くのデジタルソリューションの中核技術として君臨しています。クラウドおよびエッジ関連の求人情報は、ソフトウェアエンジニアとネットワークエンジニアが特に多く、非技術系のプロジェクト管理およびプログラム管理のロールは2021年と比較して緩やかに増加しているようです。
次世代ソフトウェア開発は技術トレンドの中で最も採用需要が劇的に伸びており、2018年以降、求人情報は6倍に増加しているそうです。デジタル化の波は止まることなく、ソフトウェアエンジニア、開発者、データエンジニアの求人情報は2020年以降大幅に増加しており、2021年以降ではソフトウェアエンジニアとデータエンジニアの職種で最も高い伸びを示していています。
日本では人口減や高齢化社会の問題で、今後、深刻な事態になる可能性があり、AIのさらなる適応が期待されます。ここでは、継続的インテグレーション(Continuous integration)、Amazon Web Servicesの人材が不足していると指摘しています。継続的インテグレーションって、筆者は初めて聞きました。 DevOpsソフトウェア開発の手法の一つで、開発者が自分のコード変更を定期的にセントラルリポジトリにマージし、その後に自動化されたビルドとテストを実行することみたいですね。
AIに負けないキャリア選択
今後のキャリアを考える上では、生成AIや機械学習を含むAIの利点を生かせる職集を考えることが重要になります。要するにAIを使う側か、AIによって置き換えられるのではなく生産性が高まる職種を選ぶべきだということです。経済協力開発機構(OECD)は2023年7月に、AIは労働市場に影響を及ぼす可能性が高く、AIへの懸念が労働者の間で高まっていると発表しています。
一方で、実際には企業でのAIの適応による自動化が劇的には進んでいないので、悪影響は今のところ見られないようです。上記の「The Future of Job Report」でも、「企業は以前の予想よりも遅いペースで業務に自動化を導入しています。今日の組織は、すべてのビジネス関連タスクの34%が機械によって実行され、残りの66%が人間によって実行されていると推定しています。これは、2020年版のFuture of Jobs Surveyの回答者が推定した自動化レベルをわずか1%上回ったにすぎません」と自動化の遅れを指摘しています。
ただ、今後は、AIに代替される職種も出てくると筆者は考えています。AIは社会のムリ、ムダ、ムラに対しては、効果的なソリューションを提供します。
皆様のキャリア戦略上でも、将来のもうかる市場を見極めて、それに向かいリスキリング、アップスキリングを頑張ってください。常に自分を戦略的にアップデートです。AIに負けるな!