数年前から、B to Bの外資のIT企業では、「Go To Market戦略」を策定する動きが活性化しています。それに伴い、Go To Market戦略を統括するCRO(Chief Revenue Officer)の職が置かれるようになってきています。筆者は2015年くらいから、これに関わっています。なお、Go To Market戦略は略してGTM戦略ともいわれます。
Go To Market戦略は、単なる売り上げの目標だけでなく、マーケティング、ビジネス開発を行うBDR(Business Development Representative)、インサイドセールス、セールスなどのリソースを連携させて、狙ったところで案件を作り、導入のリソースまで含めて、どのように市場に行くかの戦略を練り上げるモデルです。
営業戦略にかなり近いですが、営業戦略にはない、セールス、マーケティング、セールスサポート、実装部隊のリソースやそのレディネス状況までカバーして、スキルが足りない場合は今はやりのイネーブルメントを実施するところまでプランします。
B to CとB to Bの違いから戦略を考える
そもそも、消費者向けのB to Cと、法人向けのB to Bの違いは何でしょうか?B to B、つまりBusiness To Businessでは、企業向けソフトウェアやPC・タブレットのようなIT、産業用機器、産業用素材、自動車部品、オフィス用家具・機器などを扱います。企業が日々のビジネス活動の中で使う製品・サービスを提供するビジネスです。
B to Bの製品やサービスの金額は高額なものが多く、低額な商品でもまとめ買いをするので、やはり取引が高額になります。機械や機器の償却期間は、耐用年数にもよりますが、5年から10年で、それ以上に長期にわたり利用されることも多いです。ITや産業用機械などは設置やインストール作業があり、また、台数が多くなり、導入に時間がかかります。基幹業務システムなどは、数年の開発期間が必要な場合もあります。
よって、B to Bの製品やサービスの導入の意思決定は複雑になり、複数の意思決定者により製品・サービスが選定され、稟議や取締役会で役員の承認を得る必要があります。導入、利用、保守の予算の計画は年度が始まる前にきっちり立てて、年度が始まるとそれを執行します。
複雑な製品やサービスとなると、利用するエンドユーザーに教育や日々のサポートを提供する必要があります。同様に、故障すれば企業活動に大きく影響しますので、故障時の迅速なサポートや、事前に故障を予測して保守をするサービスを追加で毎年購入することになります。逆に、B to B企業からすると、保守サービスはもうかります。スマイルカーブなるものがありますが、カーブの右側は保守で、そちらの利益が高いと表しているのです。
B to B、特に複雑な製品の特徴をまとめると、以下のようになります。
ずらっと列挙しましたが、B to BはやはりB to Cに比較してかなり複雑です。筆者としては、この複雑さがあるので、マーケティング素材としてはB to Bにやりがいを感じます。
Go To Market戦略の策定方法
複雑なB to B製品を売るためには、明確な市場戦略が必要です。それがGo To Market戦略なのです。Go To Market戦略とは、企業がどのような市場でどの製品やサービスで売上を上げたいのかを表す戦略です。“あの市場に行くぞ”という戦略なのです。
ビジネスの世界にはSTPという言葉があります。S=「市場の細分化(Segmentation・セグメンテーション)」、T=「ターゲット層の抽出(Targeting・ターゲティング)」、P=「競合との差別化(Positioning・ポジショニング)」を表した言葉ですが、Go To Market戦略はこれを利用します。STPの結果によって、どの市場に対しどのリソースで攻めるかを考えるのです。具体的には、次のような順番で進めることになるかと思います。
1. 製品やサービスの優先順位の設定
まず、売りたい製品とサービスについて、製品ポートフォリオから優先事項を設定します。競合を含めた市場の状況や現在の案件状況も考慮します。優先順位を決めるには、数字的な戦略だけなく、戦略に色を付ける必要があります。そのためには、古典的なやり方ですが、SWOT分析は有効な手段です。また、当該製品やサービスが属する市場は、どれくらいの規模で、その中でマーケットシェアは今どれくらいなのか、競合する他社はどういう状況なのかの分析も行います。
2. ターゲットセグメント・ポジションの設定
次に、その製品やサービスをどこで売りたいかを考えます。B to Bでよくあるのは、縦の軸として業種や副業種、横の軸としてどれくらいの売上規模や従業員がある企業かという企業サイズを示して考えることが多いです。STPおけるセグメンテーションとターゲティングをするのです。ビジネスは継続しているので、現在、どれくらの商談やパイプラインを抱えているかも見る必要があります。それらが多ければ、その領域で、より多く販売できる可能性があるということです。
そのセグメントにおける自社の実力を見る必要もあります。その後、セグメントは、セールスにテリトリとして割り当てられます。セールスはさらに、戦略アカウントはどこか、育成するアカウントはどこかなどで、優先順位を付けて営業活動を実施していきます。
3. リソースの設定
続いて、どのような社内リソースやパートナーなどの社外のリソースを使って売るかを決めます。戦略とはある意味、優先事項に対してどのようにリソースを割り当てるかです。企業の資産は、人、物、金、そして最近ではデータも含められますが、データ以外は限りある資産であり、どのように優先事項に資産を割り当てるかが大事です。
人とは、セールス、マーケティング、セールス活動をサポートする技術者、実装するコンサルティング、サポート要員などです。その際、人についてはスキルの評価も重要で、スキルが不足している場合は、教育したり採用したりする必要があります。人やスキルが不足していると、もちろん製品・サービスは売れません。人については、ケーバビリティとキャパシティの両面で考えるということです。
4. 担当・役割設定と教育
ポジショニングから導き出されたメッセージをもとに、マーケティングキャンペーンの準備や、セールスやBDR向けの営業資料作成、営業教育を実施します。B to Bでは、マーケティングやセールスが単独で戦略を立てることは避けなければいけません。Go To Marketはある意味、青写真や航海図なのです。
その位置を見ながら戦術を行使していくと、部門が分かれていてもブレが少なくなります。部門間のインタフェースの設計も重要です。また、Go To Market戦略の一環で、「1.製品やサービスの優先順位の設定」で決めた売りたい製品やサービスについてのトレーニングを実施します。その製品やサービスの内容もありますが、B to Bでは顧客に提供できる価値が大事なので、その価値が何かを実際の事例などで学びます。
そして、組織が一体となって、Go To Market(市場へ行く)するのです。
B to Bのソリューション提案の重要性
売り物の製品とサービスについては、ソリューションが軸となります。私たちはB to Bの世界で、簡単に「ソリューションを提案する」と言いますが、そもそもソリューションとは何でしょうか?ここでは次のように定義したいと思います。
ソリューションとは、「顧客のチャレンジであるペインポイント(痛みのポイント)を基準に、自社の製品を基盤として、その上でビジネスを解決するサービスを組み合わせる」ことです。
サービスには自社が提供するものだけでなく、他社が提供するものもあります。製品に大きな差別化があればよいのですが、それが無ければサービスで差別化を作り上げます。価格を抑えたプリンタと、繰り返し購入されるインクの関係のようなものですね。
そして重要なのは、さまざまな企業で繰り返し提案できることです。そうでないと、ビジネスに拡張性が持てません。ですから、共有のペインポイントをもち、繰り返し提案できるようになると、業種や業務の視点でターゲットセグメントを決定することが多くなるのです。
B to B企業は、セールス組織が業種と規模で構成されていることが多いと思います。デマンド・ジェネレーションを担当するマーケティング組織も特定の営業組織ごとに構成して、ゴールを共有化するのが望ましいです。これによって、一心同体でゴールに向かいます。
また、共通のメッセージを使うことで、マーケティング活動と営業活動がスムーズに連携できます。このためにも、最初にGo To Market戦略が必須です。そして、戦略に向かって戦術を実行していくには、オペレーションがカギになります。
いくらGo To Market戦略が素敵でも、戦術の実行にはブレやギャップが生じます。それらを解消して、全体最適化をCRMなどを使ってデータを用いながら行うのがオペレーションの役割となります。
Let's Go To Market!