新型コロナウィルス感染症の感染拡大は私たちの日常生活のみならず、ビジネス活動に大きな影響を与えてきました。今年1月には2度目の緊急事態宣言が政府によって発令され、今までの生活だけでなく働き方にも急激な変化を与え、テレワーク、リモートワークへの取組みは多くの企業にとって喫緊の課題になりました。そのような中、DX(デジタルトランスフォーメーション)によるビジネスや業務の変革が大きな注目を集めています。
また、DXと同じくらい日本企業にとって重要な課題となっているのが、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に象徴されるような、持続可能な事業活動への取組みではないでしょうか。特に、脱炭素やカーボンニュートラルという言葉が多くのメディアで目にする機会が増え、さまざまな企業が脱炭素化に向けた長期的な目標を公表し始めました。
昨年9月に発足した菅新政権においても「DX」と「脱炭素」が政策の柱として掲げられたこともあり、今後の事業活動においてこのDXと脱炭素は切り離せない課題であると考えられます。
DXと脱炭素を実現するために
実は、DXと脱炭素は一見すると無関係な課題に見えます。しかし、デジタル化の加速により、特にデータセンター(DC)のように大量のIT機器が稼働する施設において消費電力が増加し、その結果CO2の排出量が増加してしまう、というように2つのテーマには関連性があります。その一方で、IT技術を有効に活用することで電力やエネルギーの無駄を省き、CO2の排出量を抑制することも可能になります。
本連載では、一般的なビジネス環境や製造現場におけるデジタル化と、DCにおけるサステナビリティをテーマにグローバルでビジネスを展開する知見をもとに、DXと脱炭素について紹介します。
第1回目となる今回は、企業がデジタル化を推進するとともに困難な時代に対応していくために必要な要素の1つである、エッジコンピューティングの重要性を説明します。
新型コロナウィルス感染症の感染拡大をきっかけに、DXを実現して仕事や学習、生活をどこからでも継続できる環境の重要性が、声高に叫ばれるようになっています。特にビジネスの継続性を確保するには、コロナ禍における社会環境(ニューノーマル)へいかに適応するかが重要です。
例えば、消費者向けに商品やサービスを提供する企業(小売りやサービス業の企業)では、変化し続ける顧客のニーズや購買行動にマッチした最適なサービスを提供すべく、事業の運営方法を常に変化させる必要があります。一方、製造業においては製造ラインのリモート管理やサプライチェーンの混乱といった固有の課題に直面しています。
インダストリー4.0から見る、OTとITのシームレスな統合の実現
これらの課題に対応するには早期のデジタル化が不可欠となります。自動化や予測型メンテナンスなど、すでにインダストリー4.0の技術を採用している製造企業は、生産性の向上や成長に向けた取り組みを強化することを可能としています。同様に、小売やサービス業の企業もデジタル化を進めることで、コロナ禍が拡大する状況にあっても、顧客ニーズに合わせた自社サービスの提供に集中できます。
デジタルジャーニーのどの段階にいたとしても、企業は常に将来を見据えながら、ビジネスの継続性と回復力の確保を念頭に置いておかなければなりません。今こそ、将来に向けた持続性を備えたビジネスの追求を本格化すべき時であり、そして何よりもそれを効果的に実践する必要があります。
製造企業と販売企業はいずれも、デジタルジャーニーを進む中でさまざまな障壁に直面することになりますが、これらは運用技術(OT)とITの効果的な統合で乗り越えることができます。
スマートテクノロジーが普及していくにつれ、製造業はインダストリアルIoT(IIoT)とコネクテッドマシン、ロボット、センサ、スマートデバイス、リアルタイムデータ分析を組み合わせ、製造システムのさまざまなタスクの統合と自動化を進めています。
しかし、OTとITの統合が別々に行われ、一元管理されていない場合も少なくありません。IIoTデバイスのデータをエッジで処理することで、工業プロセスの合理化やサプライチェーンの最適化、ひいては「スマートファクトリー」の構築が容易になります。
爆発的に増加するデータの管理
KPMGの調査によると、2018年の時点で124億ドルとなっている企業の技術に対する支出は、2025年には2320億ドルに達すると予想されています。人工知能(AI)や機械学習、ロボティックプロセスオートメーション(RPA)技術に投資する企業数は今後数年間で爆発的に増え、2025年にはおよそ半数の企業がこれらの技術を大規模に利用していることが見込まれています。
これらの技術がさらに進化して導入が拡大していけば、データも爆発的に増加することになります。IDCでは、2025年にコネクテッドデバイスの数は800億台となり、それらが新たに生成するデータは1年で180ZB(ゼタバイト)に達すると予測しています。
マシンが生成する膨大なデータは、すべてリアルタイムで収集と集計、分析を行い、データから価値を引き出せるようにしなければなりません。インダストリー4.0の真価を発揮させるには物理的な資産の情報を十分に活用し、情報に基づく意思決定を推進することが重要です。
コネクテッドデバイスが普及し、その機能が拡大することに伴い、クラウドへのデータ送受信時における通信遅延に影響されることなく瞬時にデータを処理して、リアルタイムに意思決定を行う必要性も出てきます。
データの発生源に近い場所でコンピューティング処理が実行できる環境があれば、クラウドにデータを送信する前にデバイスやプラットフォームがリアルタイムに必要な分析を行えます。こうした環境を「エッジ」と呼び、Gartnerでは2025年には全データの75%がエッジで処理されると推測しています。
迅速にデータの可視性を強化
産業施設または製造施設でデータを生成する機械は、すべてが効果的に制御および管理され、運用の中で価値を生み出せるようにする必要があります。
このプロセスはセンサが機器や環境からデータを収集した時点から始まり、センサのデータはOTシステムに入力され、そこでデジタル化されます。デジタル化されたデータはIT側に渡され、処理された後にDCに送信されます。そこで活躍するのが、膨大な分析処理を行うエッジコンピューティングシステムです。
一般的にエッジコンピューティングのITシステムは、データ発生源であるOTシステムに最も近い施設または場所に設置されます。これは、データを外部のDCに送信して処理すると通信時間がかかるからです。
IIoTへの投資対効果としての価値は、収集されたIoTデータからリアルタイムの実用的なインサイトを得ることで実現されますが、そのためにはデータソースのあるエッジ環境に置かれた高性能な分析プラットフォームとインフラの存在が不可欠となります。
小売業やサービス業、製造業など、いかなる業界であっても企業が市場のニーズに応え、競争力と回復力を維持していくためには、DXを推進していかなければなりません。インダストリアルエッジで得られる低遅延、および信頼性に優れたコンピューティング能力を生かし、あらゆる施設内で「常時オン」のエコシステムを構築すれば、ビジネスの継続性を効果的に実現するソリューションとなるでしょう。