星の輝き、それは永遠…じゃないんですね。最期があります。で、その最期はというと、たいてい大爆発…ではない、のでございます。今回は、夜空をながめながら、星の行く末に想いをはせてみましょー。
卒業。引退。定年。正月気分が抜けると、こんどは何かと、終わりを意識する時期でございますな。そして、一方、空を見上げれば、星がキレイな時期でもあります。冬の空には、明るい星が多いからなんですなー。なかでも、三つの星がならぶ「オリオン座」がめだっています。とりあえず、ワタクシのへたくそな絵で失礼します。
オリオン座の写真は、ネットでもたくさんでてきます。たとえばNASAの「天文学、今日の一枚(Astronomical picture of a day)」なぞキレイですなー。オリオン座は、東京や大阪などの都会でも簡単に見えますので、ぜひ探してみてください。
ところで、このオリオン座ですが、1000万年後には、消滅してしまいます。というか、オリオン座の骨格になる、明るい星は、ことごとく最期を迎えてしまうのです。まあ、それ以前に、星がそれぞれ勝手に動くので、数万年くらいで形はくずれるのですが、それはまあ「移動」ですよね。星そのものがなくなるというのは、なかなかショッキングでございます。
では、星はどうやってなくなってしまうのでしょーか。オリオン座の明るい星の場合は、かなりキョーレツで大爆発をしてなくなると考えられています。これは、II 型の超新星爆発といわれるもので、星全体がふっとび、その時の明るさは、絶対的な数値では1億個の太陽よりも明るくなります。とはいうものの、星は遠いので、実際には太陽ほども明るくは見えません。100万年以内にも爆発をするとされているオリオン座のベテルギウスなどは、ピーク時で、5m先のLED電球と同じくらいの明るさになると考えられています。星としてはとても明るいですけど、まあ、その辺の街灯とかわらんというところですな。
さて、このような超新星爆発は、我々の銀河系では平均で100年に1回ほど起こっています。まあ、最近は400年起こっていませんが、ざっくり100年ごとに1つ星が爆発四散して消えていくという感じですね。1万年だと100個、1億年だと100万個、100億年で1億個の星が爆発して銀河系から消えていく計算です。銀河系の年齢がざっくり100億年ですから、いままで1億もの星が超新星爆発したってことですな。ほえー。
そういうと、夜空の星はどれもこれも、爆発して消えてしまう。太陽だってそのうち爆発して消えてしまうと思いたくもなります。そう書いちゃっているWebサイトもよく見かけます。でも、実際は、ちがうのですな。超新星爆発する星はかなーり、限定的なのです。
ここで、超新星爆発はナゼおこるかということを考えます。これは、星が「核融合反応」をしてエネルギーを作りながら、身体の一部を鉄に変えてしまうことが引き金になります。鉄はエネルギーを出せないので、鉄がたまると星が一気につぶれ、その反動で星全体にモーレツなエネルギーを与えて暴走させる、それが超新星爆発なのですな。
で、鉄ができる核融合反応というのはなかなかなのです。
実は核融合反応がスタートするときは宇宙に一番ありふれている水素がヘリウムになります。鉄にはいきなりなりません。核融合反応がすすんで燃料に使える水素がなくなってはじめて、ヘリウムが炭素になっていきます。同様に炭素が酸素になり、酸素がケイ素になり、ようやくケイ素が鉄に変わっていきます。で、鉄どころか、ヘリウムを炭素にするところまでしか、ほとんどの星はたどりつけません。我らが太陽を持ってしても、炭素、酸素までしか持って行けないのですな。まして、ケイ素を鉄にするような核融合反応は、太陽の10倍もの重さを持つ星でないと不可能なのです。つまり、星のなかでも、太陽の10倍以上の重さがあるエリート星だけが、超新星爆発を起こすのですね。
では、そんなエリートはどれくらいあるか? ということです。ちょっと星に詳しい人は「太陽はありふれた平凡な星」と覚えているかもしれません。んが、太陽はまあアッパークラスの星なのです。たとえば、太陽の周囲30光年以内を見渡すと、現在までに300ばかりの星が発見されています。そのうち、太陽よりも重い星は、14~15個しかないのです。そしてそのなかには太陽より10倍も重い星はふくまれていません。
太陽の周囲30光年以内で、一番重いのは、織姫星(ベガ)です。明るさこそ太陽の50倍もあるのですが、重さは太陽の2.6倍にすぎません。もちろんこの重さでは鉄は作れず、超新星爆発は起こしません。そして、半径30光年以内の300個のうち、9割以上が太陽よりも軽い星なのです。そういうと太陽はかなりアッパークラスだと思いますよね。
ただ、それは太陽の近くがショボイ星がおおいからじゃないの? という疑問もわきます。太陽からあまり離れると、暗いショボイ星が捕捉できなくなりますが、重い星が見落とされることはありません。オリオン座の星は500~1500光年かなたにある星なのですが、肉眼で見えています。一方で、太陽は50光年も離れて見ると、暗くて、もう肉眼ではとらえられなくなります。その太陽がアッパークラス、上位10%に入る星なのでございます。
ということで、おわかりでしょう。宇宙の星の9割いや、99%は一生の最期に爆発して四散なぞしないのです。ただ、星は小規模な表面の爆発はよく起こしていて、身体を少しずつ宇宙にふきとばしてはいます。これは小さな軽い星でも起こります。ただ、くしゃみするようなもので、星の身体がなくなるようなことはありません。
にもかかわらず、星には最期がおとずれます。太陽の場合は、爆発ではないけれど、身体の大部分ががフワーとはがれて宇宙にひろがっていってしまうと考えられています。風船が空気をはきだしながら縮むといったイメージにちょっとだけ似ています。そんな星がはきだしている現場もとらえられていて、惑星状星雲といわれています。これがなかなかに美しいのですが、星の最期と思うとちとさみしいですな。そうそう惑星状星雲はやはりNASAのサイトからこちらをごらんくださいませ。
著者プロフィール
東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。