2016年のノーベル賞受賞者が発表されました。日本の大隅さんも「オートファジー」で医学・生理学賞受賞が決定しましたね。いやー、めでたい。ところで、このノーベル賞ですが、毎年有力候補というのがあがっています。マスコミ系と、あと日本科学未来館も予想していますね。もちろんそれぞれの科学分野へのリサーチ力があってのことで、簡単にはマネできそうにもないですな。ただ、まあ「予想ごっこ」くらいならやれるかなーというお話でございますよー。

ノーベル賞は、ダイナマイトの発明者として知られるアルフレッド・ノーベル(写真)の遺言に従って1901年から始まった

毎年10月の初旬はノーベル賞週間でございます。スウェーデンのノーベル財団が、その年のノーベル賞の受賞者を発表するのですな。特に、科学3賞といわれる、医学・生理学賞、化学賞、物理学賞は、日本人の受賞者が近年多いということもあり、注目されますねー。で、2016年は細胞が飢餓状態になると、細胞内の物質を分解して再活用するという「オートファジー(Autophagy:自食)の仕組みの解明」で大隅先生が受賞でしたね。この受賞になった論文は、奥様も共著だそうで、大隅夫妻で受賞でもよかったんじゃね? キュリー夫妻みたいで、と思いましたが、まあ、それはできすぎというものですかね。

ところで、このノーベル賞週間になると、マスコミが「ノーベル賞シフト」に入るんですな。特に日本人で受賞しそうな人のところには、取材スタッフが貼り付くのだそうで、受賞を知らせる電話(電話なんですよ、これが)がかかってきて、受け答えする、受賞決定の第一声を「絵」にするのをねらっているわけです。反対に、科学に強い、数少ない記者が出払っちゃうのが、この時期なのでございます。

この「ノーベル賞シフト」の成果として思い出すのが、2008年の益川さんの物理学賞決定のときの映像です。このとき益川さんが「大してうれしくない」「バンザーイ、なんてやらないよ」とおどけてみせたのが放送されましたね。あれは、ノーベル財団からの電話が、益川さんからしたら「無礼」だったので、ぶちゃくれていたから、だそうです。しかし、あれですな、電話を受けて「ありがとうございました」から「1時間後に発表」なのか。ともあれ、あんなのは、取材スタッフが貼り付いてないとできないことでございます。

さて、このスタッフ貼り付きを可能にするのが、ノーベル賞受賞者の予想でございます。ノーベル賞は、本当に、直前まで当事者にすら知らされないわけですが、まあ、下馬評というのがいろいろあがるんですな。

もちろん、マスコミや科学技術振興などを業にされていらっしゃる方々は、専門家を雇ったり、依頼したり、独自の取材をしたり、まあ、テマ、ヒマ、オカネをかけてやっていらっしゃるわけです。んが、フツーの人には、そんなことはできません。せいぜいが、新聞の「予想」を見て、そうなんやーというのがセキの山でございます。ただ、それだと、なんというか、「世界のスゴイ研究」や「日本のスゴイ科学者」がなかなかわからないわけですな。もうちっとなんとかならんかね。というわけで、テマ、ヒマ、オカネがないワタクシ流の、予想ごっこをちょいとご紹介いたしますねー。

予想ごっこその1: コプリメダル受賞者をチェック

ノーベル賞を受賞するような研究は、たいていノーベル賞以前に著名な賞を受賞しています。

著名な賞というと、たとえば英国の18世紀からあるコプリメダル(Copley Medal)があげられます。20世紀に始まったノーベル賞以前は最も著名な賞でございました。ノーベル賞以前からあったので、ベンジャミン・フランクリンとかマイケル・ファラデー、チャールズ・ダーウィンなどの古い著名科学者が受賞しております。

ただ、あまり権威がありすぎますかね。たとえば、1997年のノーベル賞のウォーカーが、2012年のコプリメダル、2010年ノーベル賞のアンドレ・ガイムが2013年にコプリメダル、2013年にノーベル賞のヒッグスが、2015年にコプリメダルという「これじゃ、ノーベル賞がコプリメダルの予想じゃん」ということが起こっております。

ま、ノーベル賞をとってない人で、最近のコプリメダルの受賞者だと、ブラックホールの特異点のロジャー・ペンローズとか、スティーブン・ホーキングがおりますな。ただ、二人とも実証が難しい理論を作った学者なので、その点はしんどいかもしれません(ノーベル賞は理論が実証されると受賞される、ヒッグス粒子のヒッグスさんがそうだった)。

ほかに、コプリメダル受賞者のリスト(Wikipediaが日本語で読めるので便利ですな)を見ると、2016年コプリメダルのリチャード・ヘンダーソンさん(超低温での電子顕微鏡を使ったタンパク質の粒子単位の構造解析)なんか、とれそうな感じですな。2014年コプリメダルのアレック・ジェフェリイズさん(感染追跡にも使えるDNA指紋法の開発)も有望そうにみえます。

予想ごっこその2: トムソン・ロイター引用栄誉賞をチェック

ノーベル賞受賞者予想で、よくとりあげられるのが、トムソン・ロイター引用栄誉賞です。米国の調査報道会社が2002年から、ノーベル賞の発表の直前の9月下旬に発表し、露骨にノーベル賞予想をねらった感じの賞になっております。ただ、これ独立した学術賞なんですけどね。で、こちらは、科学論文がどれだけほかの論文からチェックされているかを統計的に調べ、価値ある論文を発表しているってなもんです。グーグル検索で上位にくるというのと、まあ似てますな。ただ、上位0.1%でも700人にもなる(化学分野)なので、そこから絞り込んで受賞者を決めるのは、目利きなみなさんがやっているようでございます。

2011年のノーベル賞は受賞者すべてが、それまでにトムソン・ロイター引用栄誉賞を受賞していましたし、今回の大隅さんも2013年のトムソン・ロイター引用栄誉賞を受賞していますし、iPS細胞の山中さんも2010年に受賞しています。いらんことで世間にも有名になった、理化学研究所の竹市さんも2012年のトムソン・ロイター引用栄誉賞の受賞者です。ただ謝っているだけの先生じゃなく、世界的な研究者だってことはこういうのでもわかりますな。いや、いま調べてしったんだけど。大汗。

今後、有望そうな人は、まあみんな、なんでしょうけど。個人的には、太陽系外のふつうの恒星に、初めて惑星を発見した、マイヨールさん(2013年受賞)。セメントを電気の通しやすい物質に変えることに成功した細野さん(2013年受賞)、リチウム・イオン電池の発明者のグッドイナフさん(2015年受賞)も、おもしろそうですね。

予想ごっこ: そのほか

さて、2つ書いたら、結構になってしまいました。こうした科学の国際賞はほかにもたくさんあります。日本だと、国が出している文化勲章に、京セラ関係の京都賞、朝日新聞の朝日賞、物理部門では仁科賞あたりをチェックでしょうかね。

海外だと、コプリメダル、トムソン・ロイター引用栄誉賞のほかには、イスラエルのウルフ賞なんてのがあります。ほかにも、ノーベル賞学者が過去に受賞した国際賞を逆にチェックするというのもありますなー。こういうとき、Wikipediaは本当に便利。英語のままのページももっと翻訳されないかしら(他力本願かい)。

さてさて、ノーベル賞にかぎらず、先端科学は難しいものもあります。で、賞が決まってから調べると「えーー、むずかしい」となりがちなんですが、まあ、賞より先に、勝手に調べて「ほほー」と思うのはなかなか楽しいものでございます。

むろん、2015年の大村さんのように「犬の寄生虫駆除薬→人間にも効くスゲー薬」とか、中村さん、赤崎さん、天野さんらの「家に急速に入ってきた白熱電球駆除(ちがう)の青色LED」など、非常に身近なものも、先端科学ってこともあります。

もっとも、超難解な、南部さんの「自発的対称性の破れ」とか、2016年の「トポロジカル相転移」なんてのも、賞のおかげで広く解説がされて、フツーの人間でも楽しめるようになるのはええことですな。ということで、ノーベル賞でずいぶん楽しめます。

なお、ノーベル賞の授与は12月でございます。それまでの楽しみ方とか、ノーベル賞そのもののウンチクなども、前に書きましたので、是非ご参照いただければーー! という次第です。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。