日本のお家芸・ニュートリノ実験で、2015年のノーベル物理学賞が決定しましたー。受賞者は、日本の梶田隆章さんとカナダのアーサー・B・マクドナルドさん。いやー、めでたい! 今回は、日本でニュートリノを探知した実験装置カミオカンデのパーツ、実物が、あちこちで見られますよー、というお話でございます。
21世紀に入ってから、日本人のノーベル賞受賞のニュースが珍しくなくなってまいりました。昨年も物理学賞がありこのコーナーでも紹介しておりますが、今年も生理学・医学賞で大村智さん。そして物理学賞で梶田隆章さんが受賞でございます。すばらしい! ノーベル賞の授賞式は12月にスウェーデンで行われます。楽しみかたは、これまた昔に紹介してまーす。読んでね!
ところで、今年の生理学・医学賞の大村さんの業績は、わかりやすかったですねー。大村さんが発見、確認した「エバーメクチン」を改良して「イベルメクチン」が開発され、薬になって、毎年3億人を救う。すげえなというわけです。で、その薬は、元々、犬や家畜などの寄生虫のフィラリア駆除薬で、動物病院にいけばふつうに売っているわけでございます。これでペット犬の寿命が平均3歳から12歳くらいに延びたなんて話もございました。
一方で、物理学賞のほうが、ニュートリノの振動でございます。ニュートリノは、ほぼ光速でとびまわっている物質ですが、なんでもかんでも素通ししてしまうのでございます。ニュートリノの前には、すべてスケスケ、いやーんエッチ(違)ってなものですな。で、たったいまも、身体を四方八方から無数のニュートリノが串刺しにしているんですが、なんも感じません。「幽霊粒子」なんて言われるゆえんでございます。
そんなニュートリノは、たとえば原子炉で発生したり、太陽で発生したりしていますが(これに関する実験成果がカナダのマクドナルドさんの受賞理由)、空気に宇宙放射線(宇宙線)がぶつかっても発生するんですねー。今回の受賞のうち、日本の梶田さんが受賞したのは、空気で発生するニュートリノを、日本上空とか、横方向とか、ブラジルの方向とか、いろんな方向から来るのを比べて、「ん? 遠くからくるニュートリノが減ってるぞ」「地球で吸収されることなんてないはずなのに、なんでー?」「ニュートリノが途中で違う種類に変化してるんじゃないのー」という発見でございました。その、変化は、μ→τというだけでなくμ→τ→μ→τという感じになるので、「振動」とよばれることにあいなったわけでございます。で、振動するためには、時間が必要。光速で質量がなければ、時間が進まない。でも、実際は時間が進んだので、わずかにせよ質量がある。ということで、ニュートリノに質量があることがわかって……それまでの物理学の前提(標準理論)が見直しを余儀なくされた! という話なのでございます。すごいですねー、教科書を書き換える発見というわけなんですねー。
ところで、ここで問題です。ニュートリノはなんでも突き抜ける。地球の存在すらモノともせず、素通しするわけです。いや、太陽すら素通しします。そんなものをどうやって「減ってる」とか「数がどうの」とか調べるんだ!? ということなのです。
で、ここで例外があるという話です。何兆個というニュートリノのうち1つくらいは、たまたま、他の物質、たとえば電子と、完全正面衝突することがあるんですね。確率はめっちゃ低いですが、そういうことがある。たとえば、水をたっぷりおいておけば、その中の電子とぶつかるやつがでてくる。そして、そういう衝突が1日に1個とかそういう割合であっても、ニュートリノが飛んできた! ということがわかるわけでございます。
もちろん、衝突だけではわかりませんが衝突のときに、チェレンコフ光という光が出るんですね-。すごいかすかな光ですが、それを、タンクのまわりに大量の超高感度センサーをとりつけてキャッチするのでございます。
というわけで、梶田さんたちは「スーパーカミオカンデ」という、とんでもない水タンクを作りました。中に5万トンの水が入るタンクです。宇宙放射線の影響をさけるために、岐阜・富山県境の、神岡鉱山の地中につくりました。あー、ニュートリノは山なんて素通しですから、なんら問題ありません。ちなみに、5万トンのタンクって図のような感じでございます。とりあえず、ガンダムがたくさん入るサイズです。ちなみに、スーパーの前に無印のカミオカンデというのがあって、これは水1000トンです。これでは1987年に17万光年かなたの星が大爆発したときのニュートリノをとらえたことで、小柴さんが2002年にノーベル賞をとっています。ニュートリノ観測実験が日本のお家芸といえる次第でございますな。
ということで、最終的に大切なのは、水(もちろん混じりけのない純水です)と超高感度のセンサーなんですが、このセンサー。スーパーカミオカンデ専用に作られたのと同時に、各地に展示しているんですね。PRのためでございます。え? そんなところに? ってところもあるので、穴場順にご紹介しましょう
東京都・杉並区立科学館(日・祝休館・入館無料!)
2002年のノーベル賞の小柴さんが名誉館長をされていたという、この件では大本命の施設でございます。最寄り駅はJR中央線の荻窪か、西武新宿線の下井草で、それぞれバスですが、歩いてもまあ20分ちょっとですね。来年3月で閉館ということで、ほとんどお客さんもおらず、じっくりと向き合えます。しかし、この貴重な資料、どうなるんですかね? まさか捨てる!?
岐阜県・道の駅 スカイドーム神岡
スーパーカミオカンデのお膝元にある道の駅です。国道41号線を富山から行くのがいいでしょうね。ホームページを見るとびっくりですが、センサーが多数展示してあるだけでなく、スーパーカミオカンデの1/50模型や、なんとスーパーカミオカンデの観測データがリアルタイムで見られるようになっているんだそうです。キャッチできるニュートリノは1日20個程度だそうですので、その瞬間が見られたらかなりラッキーですね。
東京大学・宇宙線研究所 一般公開(千葉県柏市・常設+10月23/24日特別公開)
なんというタイミング! 梶田さんが所長を務める研究所の一般公開ですよ。常設展示もあるようですがやっぱり一般公開日がいいですね。質問攻めにできますぞ! 梶田さんは……忙しいでしょうけど、登場してくれるといいですねえ。どうなんだろ。
スーパーカミオカンデ見学ツアー(岐阜県・年に1回、7月)
年に1度、ジオ・スペースアドベンチャーという企画で、スーパーカミオカンデのある鉱山の中に入れてもらうことができます。現地の研究者や地元ボランティアのガイドつき! 500人程度が定員ですが、知る人ぞ知るで、毎回すぐに満員になるとのことです。来年のツアーはすごいでしょうねえ。
各地の科学館
かなりあちこちにあります。
- 東京・国立科学博物館(上野)
- 東京・日本科学未来館(お台場):1/10スーパーカミオカンデ模型があります
- 東京・多摩六都科学館(西東京市):梶田さんが所属する宇宙線研究所はもともとこのあたりにあったという縁があるようです
- 静岡・浜松科学館:センサーを開発した浜松ホトニクスのお膝元なので資料も充実
- 富山・富山市科学博物館:スーパーカミオカンデ模型を持っているそうなのですが
- 愛知・名古屋市科学館:VRでスーパーカミオカンデの中を見て回れるそうです
- 大阪・大阪市立科学館:ニュートリノのコーナーがあります
- 和歌山・みさと天文台:山間部にある天文台にセンサーが展示。名誉台長が誘致したのだとか
ほかにも色々あると思いますので、地元の科学館などに問い合わせてみてはいかがでしょうか。
著者プロフィール
東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。