昼あたたかく、夜冷える。もちろん太陽のおかげですねー。で、その太陽の熱ですが、あったかいーと思うまで、100万年もの時間をかけてやってくるんですよ。え? せいぜい8分とかそういう話じゃないのかって? まあ聞いてくだされ。

科学館などにいく楽しみの1つで、ちょっとできない体験ができるのがございます。たとえば、マイナスXX度の部屋なんてのがあって、まあわざわざ冷凍庫の中を体験するのですな。気分はアラスカかシベリア~というわけでございます。札幌市青少年科学館名古屋市科学館富士山レーダードーム館では風も体験できるようですな。北海道旭川の氷の美術館ではふつうにマイナス20度の展示室があるようですな。さらにさらに、寒さの本場、南極観測隊を送り出す東京は立川の国立極地研究所では、夏期に行う一般公開の日に、マイナス50度の体験なんてのもやっているようでございます。ワタクシは、天然で体験したマイナス40度が一番ですが、これくらい寒くても、人間慣れるからすごいものです。もちろん、裸で歩こうなんて思いませんけどー。

さて、天然で寒いといえば、たとえば火星。平均気温はマイナス40度、最低でマイナス130度でございます。これが、冥王星になるとマイナス200度を下回るとされております。逆に水星はプラス400度でございます。あちーな。

で、何が違うか? もちろん、太陽からの距離ですなー。太陽までの距離、火星は地球の2倍弱、冥王星は40倍以上、水星は半分。もう、圧倒的に暑さ寒さを決めるのは太陽でございますなー。

え? 赤道と南極の違い? 太陽までの距離は同じといっていいですね。違いは? 太陽の熱が効果的につたわるか、そうでないかという違いがあるのでございます。赤道は正面から受け止め、南極は大地が太陽に横むいていて、かなりはすかいに受け止めるという違いでございます。

ええ、高さの違い!?、山の上の方が、太陽に近いのに寒い? うむー、熱を受け止めるのは同じですが、熱を蓄える空気が薄いのが山の上ですな。太陽から熱を受け止めつつ、その熱は宇宙に逃げてもいきます。そうじゃないと、どんどん温度があがるだけですからねー。

うーむむ、なんか話しているうちに、あったかいーというのは、結構ややこしいのがバレてきましたねー。たとえば、曇っている夜の方が、晴れている夜より気温が下がらなかったりするんですよ。雲が毛布の役割をして熱を逃がさないですなー。

さてさて、目を太陽に向けてみましょう。太陽は、地球から1.5億kmかなたにございます。秒速30万kmの光だと、500秒(8分20秒)かかる距離でございます。つまり、今見ている太陽は、8分ばかり前の太陽なんですが、熱も同じなんでございます。

人間があったかいーと感じ、空気を、大地をあたためる力を持つ、赤外線、つまり目に見えない光の一種でございますが、これも光と一体になって、太陽から届きます。つまり太陽の熱は、赤外線として8分ばかりかけて、地球に届くのですな。光の一種が熱を伝えるということは、イギリスのウィリアム・ハーシェルというミュージシャン - 後に科学者になるんですが - が200年あまり前にプリズムで遊んでいて気がついたのだそうでございます。物理学では、熱の伝え方の1つで、「放射」によるといいますな。

放射、つまり光の一種の赤外線が「物体」からでていくのは、すごくよくあることでして、とりあえず、あらゆる固体は放射をします。温度が高いと、目に見える光を出しまして、それが電気ストーブが光ってみえたり、白熱電球が光って見えたり、なにより太陽が光り輝く理由でございますな。

あ、人間も光っていますよ、温度が低すぎて目に見える光は出しませんが、赤外線を放射しています。それをビデオカメラでキャッチすれば、暗闇でも人が見えるってわけですな。

放射のいいところは、真空だろうがなんだろうが、熱を伝える物質なんてなくても、熱が伝わることでございます。これが自然界になかったら、太陽の熱は地球に届きませんからねー。

さてさて、ここまでだと、太陽の熱は8分あまり、放射で地球に届くじゃないか。とこういうことになります。100万年とかいう、お題とずれてるじゃないかー! とね。

はい、ここでもうちょっと考えます。あったかいーというのは、たとえば太陽にかざした手がそう思っているんじゃなくて、ノーミソが思っているのでございます。手の表面で赤外線をうけると、手を作る水やらタンパク質は、ブルブルとすごーく細かな振動が大きくなります。熱の伝わりかたでは、「伝導」というヤツでございます。ま、受験生と科学屋さん以外は覚えなくていいですけどね。

それが、神経に伝わり、神経が電気信号を変えると、ノーミソが、あったかいなーと思うのです。これ、ちょっとだけ時間がかかります。えーっと、秒速15mくらいらしいですな。まあ、手からノーミソまで0、1秒くらいかかるかなってところです。

あれ?  まだダメですね?  あとは、太陽の表面と内部の問題でございます。

太陽の表面は平均して6000度にもなるのです。これはもう光を出すのに十分な高温でございます。ただ、これは表面が燃えているからじゃございません。太陽はほぼ、水素とヘリウムでできていまして、いわゆる「燃える」のに必要な酸素の量がまったく足らないのでございます。ついでに、水素爆発というヤツもあるのですが、これは水素が2つ手をつないだ水素「分子」が酸素と一緒に起こすもの。6000度だと、水素はバラバラの「原子」になっていて、爆発は起こせません。酸素も足りないしね。

ただ、水素単独でも熱は出せます。水素がくっついてヘリウムをつくる。水素爆弾と同じ核融合反応でございます。そのためには6000度ではダメで、1000万度が必要なんですな。で、これはというと、太陽の中心なら1500万度あります。いけます。

ということで、太陽の中心の熱が、表面に伝わって、太陽は熱いのでございます。

問題は、どうやって伝わるかです。太陽は半径70万km。光なら中心から2秒で表面に到達できますが、そこには太陽を作る膨大な水素やヘリウムのプラズマガスがあります。分厚い毛布があるようなもんですな。しかも、ガス=気体なのでブルブルという振動が直接伝わりにくい。伝導がつかえない。毛布も気体の空気を大量にふくんでいるので、伝導しないのですからねー。そこでなんと、放射で熱が伝わるのです。モーレツな光が発生し、それを受け止めたガスが光を発生という放射のリレーが、太陽の中心から7割の距離まで熱を運んでいきます。かかる時間が…100万年。

さらに残り3割はあったまったガス全体が表面近くまで一気に持ち上がる、熱を伝える3番目の方法、対流でおこります。そう、お風呂の底が熱いと、表面が暖かくなるあれですなー。熱をもった物質ごと移動するのは、そりゃ効率はいいですが…えー3割。20万kmもの対流でございます。地球の直径の20倍の対流ですね。これ、とんでもないですな。地球の雲を作るような対流は、超巨大な入道雲でも10kmでございます。かたや20万km。そんなん、ありえん。と考えられたこともございました。途中で対流の上昇が冷えてとまるんじゃないか? とまらないんですね。途中でうまくアシストするようなガスの変化があるんでございます。

ともあれ、この対流がなくても、放射で熱は伝わるんですが、対流の方が早く熱が伝わるということで、プラス50万年とはなりません。

いずれにせよ、太陽のあったかいーは、中心で熱が発生して、表面までに100万年程度の放射+対流。そこから地球まで放射で8分、うけとった人間がノーミソで感じるのに0.1秒。全部足すと、100万年程度(足しあわせるのが小さすぎて影響がなさすぎー)。で感じるのでございます。そこには、熱を伝える、放射、対流、伝導の全てが携わっている、ソーダイなお話(って感じないよね)なのでございますなー。

太陽の内部構造イメージ (C)JAXA Webサイト

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。