10月13日に閉幕した、大阪・関西万博のトップ人気「イタリア館」。そのメイン展示「ファルネーゼのアトラス」が、万博閉幕後も、2025年10月25日~2026年1月12日まで、大阪市立美術館で、レオナルド・ダ・ビンチの手稿と共に、展示されることが発表されました(チケットは10月18日発売開始)。
万博でアジア初公開だったイタリアの至宝というだけではなく、サイエンス民には「プラネタリウムの元祖」といわれるものなのでございます。あちこちで語られているのではありますが、私も3時間待ち(まだましか?)で見た一人として、ご紹介いたします。
アトラスは、古代ギリシア神話に登場する巨人です。神話では、ゼウスたち神々と巨人との戦いで負けたため、天空を背負う役割を担わされています。そこで地中海の南、アフリカはアルジェリアにあるアトラス山脈が天を支えているとされていましたし、アトラスというのは天と対の世界地図といった意味でも使われますな。みなオリジンは同じです。
あて、アトラスは、様々なアートで描かれているのですが、その中でも最も有名なのが、イタリアのナポリ国立考古博物館に所蔵されている「ファルネーゼのアトラス」でございます。ファルネーゼというのは、16世紀に活躍した貴族家で、古代ローマ時代の彫刻コレクターとして有名で、そのコレクションの彫像には「ファルネーゼの」という名前がついています。いくたの変遷を経て、現在は、上述、ナポリ国立考古博物館に所蔵・公開されています。
「ファルネーゼのアトラス」は、ローマ時代2世紀の製作といわれる高さ2mの大理石像なのですが、長らく失われていて16世紀に発見されたものをファルネーゼ家がコレクションしました。天球儀以外はかなりバラバラだったらしく、修復というか復元というかそういうことを経ています。よく「ローマのコピー」といわれていますが、オリジナルはローマより前の時代のギリシアのアラトスの天球儀(失われている)だったのではとされておりますが、現存最古の天球儀なのです。
さて、この「ファルネーゼのアトラス」は、関西・大阪万博イタリア館にどどーんと展示されていました。この文章が公開されるころには、消滅しているかもなイタリア館の解説(機械日本語訳)を転載しますと(注:イタリア館はバチカン皇国館と一体だった)。
人間と宇宙の関係を擬人化したアトラスは、旅の象徴であり、西洋と東洋の理想的な絆です。イタリア館の中心である広場に位置し、「私」、つまり個人、「私たち」、社会、領土、スピリチュアリティに捧げられたさまざまな展示エリアと、教皇庁の存在をつなぐ役割を果たしています。
ファルネーゼアトラスは、地中海が常に発祥地であった文化間の強い対話の精神を特徴とする、ギリシャローマ文化の哲学的および人文主義的思想に言及して、イタリアが館で展開する未来の物語の象徴になります。
などとあるのですが、これはもう、言葉ではなく、実物の天空の重みを支える苦悶の表情となど、実物で見ていただきたいわけです。
いつもはナポリに行かないと見られないのですが、これが大阪の天王寺で1月12日まで見られるのです。天王寺は、新大阪と関西空港両方から電車一本で行ける至便な場所で、日本で最も高いビル「あべのハルカス」もあります。通天閣も動物園もあります。これは行くしか……、あー、なんで興奮しているか語らねばなりませんね。
それはアトラスが支えている「天球儀」です。天球儀に描かれている人や動物の彫刻は、星座です。線は緯度線、経度線、そして赤道に黄道(太陽の通り道です)。裏返しになっていますが、これは「天を外から見た」様子で、昔の天球儀表現の定番でございます。というか、ファルネーゼのアトラスの天球儀が、現存最古のものなのですが。
星座の表現の正確さについては、プラネタリウムソフト、ステラナビゲータ(現在の様子)で再現してみました。
彫刻のアトラスでは、わし座が赤道の北側にあるのですが、現在の天空の様子を映したステラナビゲータの図は、わし座が赤道にかかっています。これは2000年の間に、地球の地軸の方向が変化したためで、このころは日本でも南十字星が見えていました。つまりはこのアトラスが本当に2000年前のものか、それを模したものであることを示しています。天文に詳しくない人がシレっとはできないものです。そんなところもおもしろいのです。
そして、この天球という概念は、そのまま現在のプラネタリウムにつながっています。
シカゴのプラネタリウムにあるアトウッドの天球儀は、4.5m直径の回転する天球の中に人が入り、天球に開けた穴を星にみたてて観察するものです。
そして、それをドームスクリーンにして、中心に回転する全周投影機をいれたのが、いまのプラネタリウムです。いやCG式のデジタルプラネタリウムなら、回転する必要もないですけどね。
ということで、プラネタリウムとか好きだなあという人は、元祖であるこれも、ぜひ見てください。イタリア館で見損ねても、大阪でまだ見られます。でも、そのあとはたぶんイタリアに帰っちゃいます。
なお、万博にいろいろかかわった感想からいうと、いまの勢いだと18日のチケット販売でガッと予約が埋まりそうな勢いです。早めの行動が大切です。ぜひに。
オマケ
そうそう、大阪といえば、11月の2日と3日に科学の薄い本の即売会「サイエンスブックフェスタ」が、大阪市立科学館で開催されるそうです。三連休ですから11月1日に大阪市立美術館、2日か3日に科学館とかでもよさそうです。
美術館の近くには、通天閣や高さ300mの超高層ビルあべのハルカス。大阪の電気街(まあアキバと同じでオタクの街)日本橋でんでんタウンもありますし、科学館には大型の最新式プラネタリウムや日本初のプラネタリウム投影機の展示もありますよ。