火星は、いま一番集中的に探査されている天体です。2021年1月現在で、米、欧、インドの合計8機の探査機が活動中。これは、前回触れましたな。さらに現在米、中、UAEの合計5-6機の探査機(数えるのが難しい)が向かっており、2月にあいついで到着。現在活動中編に引き続き、今回は最新探査機がこれからやろうとしていることなど、ご紹介しちゃいます。
現在、生物の存在が確認されている天体は、宇宙にたった1つ。我が地球です。もう一度言います。たった1つです。他の天体には、一切生物の存在は確認されていません。クリンゴンとボーグも、ニュー&ファースト・オーダーも、自由惑星同盟も、ガミラスとイスカンダルも、ボスコニアも確認されていないどころか、細胞のカケラや植物の光合成の兆候すら確認されていないのでございます。まったくのジェロでございます。ゼロ!
ちょっと前に金星大気にホスフィン(リン化水素、PH3)があったというニュースがありました。これは地球では生物由来の物質(実は毒ですが)なので、金星大気になんかいるんじゃね? とにわかにニュースになったのですが、別の人の研究では検出できず、まもなく否定的になっています。
もうちょい有力なのに土星の衛星エンケラドスから吹き出した氷の粒から、200原子くらいからなる有機物を検出したってのがあります。原子の数が多い有機物は生物由来か、生物を作る原材料と考えられております。また、生命が発生できるだけの水素が見つかったりもしています。ただ、これは当時唯一でいまはない土星探査機カッシーニが直接捉えたもので、追加の研究がすぐできないのがぐぬぬです。
他にも色々ございますが、まあやはり「地球外での生物初発見!」の最右翼は火星でございますな。地球より太陽から遠いとはいえ、表面で0度を越えることもあり、水は凍り付いているもののそれなりに豊富に存在し、かつては大規模な流水があったこともうかがわれ、薄いながらも大気があるわけでございます。土星などよりは到達しやすし、太陽光がそれなりにあるので太陽光発電をあてにした探査機を送り込めます。なにより、火星の呪いはあるとはいえ探査実績も豊富で、表面の地形データは一時、月や地球よりわかっていたくらいでございます。
ということで、常になんらかの火星探査機が火星を調べているという状況になっております。現在の状況は、前回の記事と、NASAのMARS NOWサイトのリアルタイムマップをご覧いただくとして、今回は、この2021年2月からの新参探査機の話です。なんと3カ国、5-6機が参戦です(あいまいなのは、数えるのが難しいんですよ~)。
1. アリ・アマル(HOPE)(UAE:アラブ首長国連邦)
2月10日0時42分ごろ、火星に到着周回軌道に入る、「アル・アマル(英名:HOPE)」は、UAEの火星探査機です。日本も成功させていない火星探査機を、UAEが建国50周年を記念してチャレンジするのでございます。スカイツリーより高い800m以上超高層ビルと世界最大のショッピング・モールがある砂漠のスーパー都市ドバイや、エミレーツ航空、サッカーWカップのアジア強豪、そしてなによりアラブの石油産出国として知られるUAEですが、火星探査にチャレンジします。しつこいようですがUAEです。いや、記念事業とはいえ、チャレンジ精神がすごいよ。
なんということをいったら失礼で、2020年の7月20日に日本の三菱重工のロケットにより種子島から打ち上げられ、この2月から1火星年(687日)に渡って、火星を周回しながら探査を行います。
重量が1.5トンといいますから、日本のはやぶさ探査機の3倍! 3系統14台の探査装置(カメラ、スペクトルメーターx2)火星から水が失われたメカニズムの解明や、特によく知られていない火星大気の下層について調査を行います。UAE初の火星探査機ですが、科学探査は海外の研究者とも連携し、研究テーマは最先端とのことです。
2. 天問(Tianwen)1号(中華人民共和国)
中国がロケットも自前の長征5型で挑戦する火星探査機です。UAEのアル・アマルと同じ2月10日の21時1分に火星周回軌道に入る予定でございます。さらに天問1号には、軌道周回機に着陸機を搭載。5月に着陸させ、さらにそこから分離してローバー(まあ自動車ですな)を稼働させる予定です。周回機だけでもチャレンジなのに、着陸させ、さらにローバーの稼働、自前のロケットでの火星探査もあわせ、一気にいくつもの難関突破を狙いますが、月探査で着実に成果を上げていますので自信はあるのでしょうね。名前は詩人の屈原の天問にちなむそうです。さらに次のプロジェクトでは成功すれば2030年代には火星からのサンプルリターンも狙っています。野心的ですなあ。
さて、天問1号ですが、火星の生命探査(現在、あるいは過去の)が大目標で、その探査のためのさまざまな観測機器を積んでいます。軌道周回機は周回しながら独自に火星全面の地形図、そして水などの資源分布図を作成します。また、火星大気、磁気圏(非常に弱いことがわかっている)についてもデータを集めますね。
また5月に着陸予定の探査機は、カメラや気象センサーのほか地中レーダーや磁力計も備えます。着陸地点の火星のユートピア平原はかつてあったといわれる火星の海の「岸辺」にあたり、生命の証拠あれば有力な地点でございます。
そして着陸機からローバーが分離します。この辺がむずかしくて、アメリカは着陸機=ローバーなのですが、中国は分離。さてはて1機と数えるべきか2機というべきか。で、難しんですよ〜になるわけです。ローバーの重量は240kgといいますから小型とはいえますが、それなりの活動ができそうです。
中国はかつてロシアの火星探査機と相乗りで向かったことがあったのですが、こちらは軌道投入に失敗。2020年に嫦娥5号で、世界3カ国目になる月のサンプルリターンにも成功した中国が満を持しての再挑戦です。
それにしても中国。公式をみてもこの火星探査機の情報はわずか。月探査や有人計画は熱心なんですけどねー。力の入れ具合なのか国際的なアピールの計算なのか。かなり画期的なことをやるのですが、不思議でございますな。
3.MARS2020(パーサヴィアランス)(アメリカ合衆国)
UAE、中国の探査機到着から1週間後。2月19日5時ちょうど(日本時)に、アメリカ合衆国の火星探査ローバー、パーサヴィアランスが火星に着陸します。アメリカは火星のローバーの名前を子供達から募集するのですが、パーサヴィアランスは忍耐という意味だそうです。日本だと、ど根性というイメージかなと思いますがどうでしょうかね。探査目的は生命の痕跡探し。着陸地点は火星の赤道に近く、かつて海水があったんじゃないかというジェロクレーター。天文ファンには大シルチスの中にあるというとわかりやすいですかね。
大成功をし、現在も活動中の先代探査機キュリオシティの設計を踏襲しているため、キュリオシティ2というような内容ですが、酸素製造の実験も行うそうです。キュリオシティの900kgに対して、100kg増加の1トン超えですから、強化型ということがわかりますなー。リチウムイオン電池の採用により、長時間の行動が可能。
そして、新味としては重さ1.8kgの小型のヘリコプターIngenuityを搭載していること。まあ、ドローンを積んでるよといった方がわかりやすいですかね。火星は重力が地球の半分以下ですが、大気は100分の1、羽はでかくて120cm幅、高さは80cmというから小さい子供が手を広げたくらいですね。それで1.8kgなので非常に軽量に作られているのがわかります。竹とんぼみたいな感じで、上昇して降りるくらいを行います。つまり、火星で飛べるか? というテストを行うのですな。最大で5mまで上昇。周囲300m以内が飛行範囲とのこと。カメラと簡単なセンサーを積んでいます。まあ、これは本当に試してみるくらいですが、なーんかワクワクしますよね。火星ヘリコプター。
ただ、これ1機なの? ローバーといれて2機っていうべきなの? ということで困っちゃう私です。
ともあれ、まもなく3カ国の探査機が火星に到着。たーのしーみだなー!!!