こんにちは。織田隼人です。

前回は「良い決断」を行うための最後の保険、ワーストシナリオの重要性について解説しました。ワーストシナリオを想定しておくことによって、プロジェクトのリスクマネジメントが容易になるだけでなく、決断のための「あと一押し」を得ることができます。プロジェクト決行前に往々にして訪れる漠然とした不安を払拭するためにも、ワーストシナリオの作り方を身につけておくことをお勧めします。

さて、今回と次回は少し実践的な話に戻ります。扱う題材は、インターネットが発達した現在、見落とせないファクターとなっている「クチコミ」についてです。

クチコミ発生のメカニズムには男女差があるか?

当コラムでは、消費をする際に、男女で考え方が異なるということをたびたび話題にしてきました。大きな原則を最初に言ってしまえば、男性の消費行動は「スペック重視」なのに対し、女性の消費行動は「イメージ・共感重視」であるというところにポイントがあります。自分たちがプロモートしたい商品のターゲットはどの層なのか、しっかりと見極める必要があるのも、消費行動の原理が男女間で大きく違うからだと言うことができるでしょう。

そして、クチコミにも同様の男女差が存在します。

インターネットの加速度的発展によって、ブログやSNSを中心に、一個人が自身の意見を発表しやすくなりました。Amazonや価格.comなどの通販サイトを見ても、実際にその商品を購入したユーザーの「生の声」は、潜在的消費者がその商品を買ってくれるかどうかという瀬戸際で、強力な効果を発揮します。

自社の商品に自信を持っているからこそ、クチコミでも好評価が拡散してほしいもの。可能ならば、ある程度「狙って」クチコミを広げたいものです。

そのためには、まずはクチコミを広げる際に「やってはいけないこと」を知ること、続いて、どのような人たちがクチコミを広げているのかを知ることが重要です。今回は前者を、次回は後者を解説する予定ですので、ご期待ください。

男性のクチコミは、「自慢」と「批評」

男性のクチコミはスペック重視。たとえそれが批判的内容であっても議論が拡散していくことが重要になる

さて、世の男性の間に流れているクチコミはどのようなものでしょうか?

ここで鍵となるのは、上述した「スペック重視」という消費行動の原理です。男性のPC購入の際の基準が、CPUやメモリ、グラフィックボードなどの細かなスペックによるという話を思い出してみてください。男性どうしの間では、このような「スペック」がクチコミの話題になります。

さらに付け加えなければならないのは、男性にとってのクチコミとは、「批評」と同じであると言うことです。PS3、Wii、Xbox360が同時期に発売されたとき、インターネット上では、それぞれの良い点、物足りない点を挙げ連ねながら、話題が拡散していきました。

ここで重要なのは、「批判」もクチコミの一部だということです。「WiiはSD画質だから、ハイビジョンテレビでは物足りない」という意見が出ることによって、「いや、ゲームの面白さは画質ではない。それに、静止画ではなく実際に動いている画面を見れば、そこまで違和感はない」という新しい批評が生まれるのです。

こうした「議論」そのものが、男性のクチコミとなります。いい面ばかりを見せようとして情報の公開を渋ると、その商品にはクチコミがつかず、勝負の土俵にすら上がれないということになりかねません。

女性にはクチコミをお願いしてはいけない

続いては女性です。男性の項を見れば、女性のクチコミの原動力が「イメージ・共感」にあることは容易に予測がつくでしょう。

しかし、「共感」重視だからこそ、気をつけなければならない点があります。ひとつは、「相手に伝えやすい特徴を持った商品にすること」です。

相手と共感するには、相手に伝わりやすい内容である必要があります。一方で、「カワイイ」などの凡庸な言葉で伝えられてしまっては、他の商品と同じ扱いを受けてしまい、「クチコミ」となるレベルに達しません。ですから、同じ「おいしい」料理でも、「『ハート型のハンバーグ』が出てくるお店」のように、伝えやすく、かつインパクトがある情報を与える必要があります。

もうひとつは、女性には「クチコミを広げてほしい」とお願いしてはいけないという点です。

女性のクチコミの原理は「共感」であり、「お得なことを知ってほしい」という「善意」に基づいています。ですから、裏に「企業の戦略」が透けていたり、「自分は利用されている」という意識を持たれてしまったりすると、女性はクチコミとして話題には出しません。

クチコミは誰が広めているのか?

男性の特徴にしろ、女性の特徴にしろ、「誰が」クチコミを広めているのかという点に大きく依存しています。このあたりは次回に改めて解説しますが、それぞれが「何となく一筋縄ではいかない」雰囲気は感じていただけたかと思います。

それもそのはず。もともと、クチコミは自然発生的に広がるもの。思い通りにならない、やっかいな存在です。

まずは、「やってはいけないこと」を知り、実践することで、クチコミの広げ方のコツをつかむきっかけになるかもしれませんね。

「こんなにいいモノだからみんなにも教えてあげよう」が女性のクチコミのベース。あくまで親切心や善意からのものなので、そこに企業的野心がちらりとでも見えると、とたんにそっぽを向かれるので気をつけたい

(イラスト ナバタメ・カズタカ)

執筆者プロフィール

織田隼人 (ODA Hayato)

心理コーディネーター&経営コンサルタント。心理についての解説の仕事をメインにしながら、経営のコンサルティング業務も行っている。元々は経営コンサルがメインで、マーケティングに関わりながら心理学を学んできた。心理の仕事では特に「男女の心理の違い」や「意思決定」を専門としている。男女の心理の違いを解説したブログに「男心と女心」があり、月間アクセス数は100万を超える。ほかにも心理学を学べるWebラジオやアニメーションも配信している。Webサイトはこちら → 知りたい! 相手の気持ち