こんにちは。織田隼人です。

前回は「決断の質を上げるためにあえて"都合の悪い情報"も集めてみる」というタイトルで、より良い決断をするためのヒントを紹介しました。どんな情報/アイデアにも否定的になることなく、質より量を重視して集める段階が決断のための第1段階だとするのならば、「これだ」と思ったアイデアに対しては徹底的に細やかな分析を行い、目を瞑りがちな情報までしっかりと知っておくステップが第2段階です。こうすることで、決断後の後悔を減らすことができます。

そして、今回は「それでも起こってしまう『不測の事態』に備える決断」ということで、「ワーストシナリオを想定しておくことのススメ」を説きたいと思います。

「ワーストシナリオ」とは

ワーストシナリオは最悪の事態に陥ったときの対処法を考えるもの。不安になるだけでは意味がない

「ワーストシナリオ」とは、読んで字のごとく、「実行した計画が最悪の道筋をたどってしまった場合、どのような対策を施すべきか」というリスクマネジメントにつながるシナリオです。

たとえば、あなたが会社を辞めて独立しようという決断をする場合、ワーストシナリオは「独立したはいいが、事前に作っておいたはずのコネクション先からも仕事が回ってこなくなり、開店休業状態になってしまった」ときのことを指します。

このような状態に陥ってしまった場合、どう対処するか。ここまで考えておいて初めて、ワーストシナリオの意味が生まれます。

上記のケースでは、「自分の持っている技術なら、あのあたりの業界には拾ってもらえるだろう」と想定しておくことなど、です。

ワーストシナリオを考える際には、「具体的な数字」や「具体的な対処法」まで突き詰めたものを用意する必要はありません。大まかな被害予測と、それに対する大まかな対処法を準備しておけばいいのです。えてして、実際に企画がうまくいかなかった場合、ワーストシナリオ通りになってしまうまで指をくわえて待っているわけではありません。基本的にはその前に被害をせき止めて、対策を施します。ですから、具体的な計画はそのときに改めて立案すればいいのです。

ワーストシナリオの役割は、「あ、これはワーストシナリオに近づいているのでは?」ということを察知させる「アンテナ」のようなものだと考えておけばいいでしょう。

「決断」にも寄与するワーストシナリオ

広く内外から企画を募り、良さそうなアイデアに対しては徹底的な検証を行った。その上で、「これなら、失敗するリスクはほとんどないと言えそうだ」という企画を練り上げることに成功しました。あとは、その企画にゴーサインを出すだけ、なのですが……。

大きいプロジェクトなだけに、どうにも不安が拭いきれない。ちゃんと「決断の第2ステップ」で批判的な検討も加えた上に、「見積もりよりも30%売り上げが落ちてしまった場合」の予測も立てさせ、それでもなんとか赤字にはならないという確証を得たはずなのに。

このようなケースに遭遇したことはありますか?

前回紹介した「アイデアに対する批判的検討」と「ワーストシナリオ」は似ているようでいて、違います。「批判的検討」の方は、あくまで「企画が失敗するリスクを極限までなくすための事前準備」のことです。

ですから、どんなに「批判的検討」を加えても拭いきれない不安はあります。特に、プロジェクトが大規模なものであればあるほど、予算の規模や、用意しなければならない在庫の量も増えます。「批判的検討」によって調整に調整を重ねた予算額、仕入れ量のはずなのに、「もし大コケしてしまったらどうしよう」と目に見えないリスクを考えてしまうのです。

ワーストシナリオは「批判的検討を加えた上で、それでも企画が失敗してしまった場合」を想定するものです。これを準備しておくことによって、実行後のリスクマネジメントはもとより、実行前の決断にも余裕が生まれます。

要するに、「目に見えないリスクを可視化する」のがワーストシナリオのもうひとつの役割なのです。これによって、「なんだ、最悪でもこの程度か」と思え、スムースに決断を下せたり、「さすがにこのレベルで失敗すると、私の責任範囲を超えてしまう」と判断できて、決断を取り下げたり、責任を取ることになるであろう人(上司や株主など)に相談しに行ったりすることができるようになります。

ワーストシナリオ立案は決断のための潤滑油 - そう考えてもいいかもしれません。

「ワーストシナリオを立てる」習慣を

さて、さまざまなメリットが存在する「ワーストシナリオ」ですが、その立案には多少の訓練が必要です。せっかく予測した「最悪のケース」が実態とはかけ離れたものであれば、あまり意味をなさないからです。

ワーストシナリオを立てるためには、内部環境(社内の状況、予算など)と外部環境(ライバル、市場動向など)を正確に把握する必要があります。

最近の企業は社の方針として、「最悪の事態」を考えさせる傾向があるようです。先輩上司や大きなプロジェクトに関わった人に聞き込みをしてワーストシナリオの立て方を学び、小さなプロジェクトからその立案の訓練を行ってみてはいかがでしょうか。

ワーストシナリオを立てることで、あなたの分析力も磨かれ、マネジメント能力も鍛えられます。

ワーストシナリオを立てるにはある程度の経験が必要。大きなプロジェクトの経験者などにアドバイスを受ける機会があれば、積極的に聞いてみよう

(イラスト ナバタメ・カズタカ)

執筆者プロフィール

織田隼人 (ODA Hayato)

心理コーディネーター&経営コンサルタント。心理についての解説の仕事をメインにしながら、経営のコンサルティング業務も行っている。元々は経営コンサルがメインで、マーケティングに関わりながら心理学を学んできた。心理の仕事では特に「男女の心理の違い」や「意思決定」を専門としている。男女の心理の違いを解説したブログに「男心と女心」があり、月間アクセス数は100万を超える。ほかにも心理学を学べるWebラジオやアニメーションも配信している。Webサイトはこちら → 知りたい! 相手の気持ち