「サービスプロフィットチェーン」モデルとは
従業員エンゲージメントの改善は、質の高い商品・サービス通して顧客体験の向上につながり、業績アップを実現させるはず
この概念モデルは、誰もが感覚的に納得できると思います。新しいようで、遡ることおよそ30年も前の1994年にハーバード・ビジネススクールのヘスケット教授とサッサー教授がこの概念モデルを提唱しました。
エンゲージした従業員が生産性や革新性を高めれば、顧客に提供する体験の質が高まり、顧客ロイヤリティの向上・口コミのアップ、ひいては業績も向上する、という流れを説明しています。
ただ、従業員体験(オリジナルの「サービスプロフィットチェーン」モデルでは「従業員満足」)と顧客体験(同、顧客満足)が関係していること自体は納得しやすいものの、顧客体験にインパクトを与える要因は多岐にわたることもあり、個別企業において両者の関係をデータで実証することは、容易ではありませんでした。
CX調査とEX調査の相関関係を分析する際の条件
分析のスタートとして、まずヒトの感情を数値化する必要がありますが、これは従業員の声、顧客の声を収集して集計する必要があります。そして、それぞれのデータを連携して両者の相関を分析する全体像が描けていないと、膨大なコスト・労力をかけても、定点観測できるような取り組みにならないという悩みを抱えることになります。
CX(Customer Experience:顧客体験)調査、EX(Employee Experience:従業員体験)調査を実施し、それぞれの結果における相関を分析する際には、いくつかの条件をクリアする必要があります。
それらの条件には、以下の4点が含まれます。
- 社内でCX担当部署とEX担当部署が共通の目的に沿って、データに基づく改善活動を推進しようと協力している
- CX調査とEX調査の回答データが一つのプラットフォームで一元管理されている
- CX調査の集計単位とEX調査の集計単位に共通のくくりを設定できること
- 両者の調査時期がある程度一致している
これらの要因を払拭するためには、組織のトップが活動の重要性を認めてコミットするとともに、組織横断的なチーム体制の構築が求められます。
CX調査とEX調査の相関分析の6つのタイプ
組織横断的なチーム体制を構築した上で、CX調査とEX調査の設問設計からスタートします。当社が推奨するEX調査であれば、結果指標(KPI)としてエンゲージメント、継続勤務意向、ウェルビーイングなど、それらに影響を与えるドライバーとして「権限・裁量」「成長の機会」「個人の尊重」といったテーマを設定します。
CX調査においては、結果指標(KPI)としてNPS、顧客満足度、顧客努力度などを設定し、それに影響を与えるドライバーとして「親身な対応」「専門的知識・理解度」「対応の迅速さ」「解決力」などを設定します。
そして、こうした調査フレームワークに基づく結果の相関分析としては、以下の6つのタイプが考えられます。
タイプ(1)EXドライバー vs EX結果指標
(分析結果例)「成長の機会」が充実していると「エンゲージメント」が高くなる
タイプ(2)CXドライバー vs CX結果指標
(分析結果例)「対応の迅速さ」と「顧客満足度」との相関が強い
タイプ(3)EX結果指標 vs CX結果指標
(分析結果例)「エンゲージメント」が高いと「顧客満足度」も高くなる
タイプ(4)EXドライバー vs CXドライバー
(分析結果例)「成長の機会」が十分であれば「専門知識・理解度」に対する顧客満足度も高くなる
タイプ(5)EX結果指標 vs CXドライバー
(分析結果例)「エンゲージメント」が高いと「親身な対応」に対する顧客満足度も高くなる
タイプ(6)EXドライバー vs CX結果指標
(分析結果例)「コミュニケーション」が十分であれば「顧客満足度」も高くなる
上記の6タイプの分析のうち、タイプ(1)とタイプ(2)はそれぞれEX調査、CX調査の中で完結する分析です。この2つを除き、両者をまたぐ4つの分析タイプのうち、代表的なものは(3)と(4)といえます。
タイプ(3)の場合、例えば店舗ごとに、EX調査におけるKPIであるエンゲージメントとCX調査におけるKPIである顧客満足度の相関を分析します。想定されるのは、両者が正の相関を示す状況です。エンゲージしている従業員の対応が高い顧客満足度を引き出している店舗(例:H支店)において、独自の取り組みがあれば、他の店舗に対してベストプラクティスとして共有することが期待されます。
また、エンゲージメントは高い一方で顧客満足度が低い店舗(例:J支店)があれば、顧客ニーズや満足を無視した従業員側の思い込みがないか、さらにエンゲージメントは低い一方で顧客満足度が高い店舗(例:D支店)があれば、顧客だけが満足し、従業員は無理をして疲弊し切っているような状態と解釈されます。
また、タイプ(4)はタイプ(3)よりも従業員側の具体的なアクションを検討する際に有効な示唆を得ることができます。例えば、CX調査の中で顧客満足度に対して従業員の対応の「迅速さ」が強い相関があることが判明しているケースで、「迅速さ」の背景にある要素が「業務プロセス」なのか「権限・裁量」なのか、といった観点で実態を把握することになります。