今回は、絵画の下に隠された下書きを観ることができる技術をご紹介します。この技術を使うと、図1のように油絵の下に隠された下書き、古代文書の文字の読み取りに利用することができます。これらは、実際に表面を削ることができないので、物を壊さずして内側の層を観る技術が必要になります。
概要
この技術は、図2の通り表面の油絵の層と、その下の層の絵を分離し復元することが目的です。絵を分離・復元するために、プロジェクタで格子状のパターンを複数照射し、撮像した画像をコンピュータで処理することで表面の層(油絵)と下の層(下書き)を分離します。
ここで、カメラで撮像した画像は、表面の層にある係数を掛けたものと、下の層にある係数を掛けたものを足し合わせたもので表されると定式化します。2つの異なる格子パターンを照射して、2枚の画像を撮影した場合、2つの式が得られることになります(図3)。
未知の変数は、表面の層(Top layer)と下の層(Inner layer)の2つなので、これを連立方程式として解いてあげると、表面の層の画像と下の層の画像を分離できるわけです(図4)。
結果
この技術を使うと、図5のように油絵の下の下書き、油絵の下のSignature、重なった紙の内側の文字の読み取り、壁画の内側の層の復元ができます。このような技術があれば、デザイン的に見えなくしておきたい2次元バーコードなどを隠しておくことや、偽造することがより難しい紙幣やチケットなどを作ることができるかもしれませんね。詳しく知りたい方は、参考文献を読んで見てください。
参考文献
[1] T. Tanaka, Y. Mukaigawa, H. Kubo, Y. Matsushita, Y. Yagi, "Recovering Inner Slices of Translucent Objects by Multi-frequency Illumination", Proc. CVPR2015, June 2015.
著者プロフィール
樋口未来(ひぐち・みらい)
日立製作所 日立研究所に入社後、自動車向けステレオカメラ、監視カメラの研究開発に従事。2011年から1年間、米国カーネギーメロン大学にて客員研究員としてカメラキャリブレーション技術の研究に携わる。
日立製作所を退職後、2016年6月にグローバルウォーカーズ株式会社を設立し、CTOとして画像/映像コンテンツ×テクノロジーをテーマにコンピュータビジョン、機械学習の研究開発に従事している。また、東京大学大学院博士課程に在学し、一人称視点映像(First-person vision, Egocentric vision)の解析に関する研究を行っている。具体的には、頭部に装着したカメラで撮影した一人称視点映像を用いて、人と人のインタラクション時の非言語コミュニケーション(うなずき等)を観測し、機械学習の枠組みでカメラ装着者がどのような人物かを推定する技術の研究に取り組んでいる。
専門:コンピュータビジョン、機械学習