コンピュータビジョン分野で活躍中の企業、フリーランサーへのインタビュー記事 第二弾です。IT技術の発達に伴い、働き方が多様化してきています。コンピュータビジョン分野も例外ではありません。そこで今回は、コンピュータビジョン分野におけるフリーランサーの働き方、業務内容、さらにメリットやデメリットについて、東京近郊でフリーランサーとしてご活躍中の皆川卓也さんに伺いました。
皆川卓也氏プロフィール
2009年にビジョン & ITラボを設立し、コンピュータビジョンおよびITシステムに関するコンサルティングやソフトウェア開発にフリーランサーとして従事。2014年に慶應義塾大学情報工学科にて博士(工学)の学位を取得。
フリーランサーとしての働き方を教えてください
フリーランサー歴は約7年になります。コンピュータビジョンのフリーランサーがすごく少ないこともあり、間を開けることなく仕事はあります。業務を請け負って開発しているため、職場は自宅です。気分を変えるために図書館・喫茶店に行くこともあります。下記のようなコンピュータビジョンに関する案件ならなんでも請け負っています。
- 成熟した画像処理技術の実装
- 最新技術の検証
- コンピュータビジョンに関するコンサルティング
- プロジェクトマネジメント
フリーランサーを選んだ理由を教えてください
前職をやめたのが博士課程在籍中で、就職は難しかろうと思い独立しました。あと、サラリーマン時代にリストラ2回、ブラック企業勤務などを経験し、サラリーマンを続けることに危機感を感じたのも理由です。自分の名前で仕事をとれたほうが長い目で見ると安定していると思いました。転職が厳しくなるといわれている35歳までに自分の名前で仕事を取れるようにと思っていました。
再就職や起業を考えたことはないのですか?
条件によっては就職の可能性もありますが、就職すると今までのお客様を手放すことになるので、また会社をリストラされたときのことを考えると厳しいですね。起業することは、今の方向性でならありえます。今後は、海外の仕事も機会があれば取りたいと考えています。日本の国力が落ちてきたときに備えて、海外の仕事もできるようになっておく必要があると思います。
フリーランサーのメリットとデメリットは何ですか?
【メリット】- 時間が自由に使える
- 自分の名前で仕事を取って来られる
- いろいろな案件を受けられるためスキルアップになる
- サラリーマンは上司を選べないが、フリーランサーは取引先を選べる
- 働いただけお金が入って来る
- 早めに新しい技術を使える
- 実際に開発した技術が使われるのが早い
- いろいろな業界が見られるのが楽しい
- いろいろな人と知り合える
- いろいろな仕事をしている間に、新しいマーケット、アイデアを見つけられるかもしれない
- 映画のエンドロールに出たことがある(笑)
- 収入が安定しない
- トラブル案件などを取っちゃうと大変なことになる。サラリーマンと違いトラブル対応の時間に対してお金が出ないのがほとんどなので
- 会社員は同僚などから自然と自分の知らない情報などが入ってくることがあるが、一人でやっていると自分が注目していない領域の知識はあまり入ってこない
世の中のサラリーマンについて思うことは?
いつでも転職できるようにしておいたほうが良いと思います。自分の市場価値を意識しておく必要があります。いつでも転職できる状態であれば、会社や組織の影響で人生がおかしな方向に進んで行くことはないのではないでしょうか。
ビジョンを教えてください
「アカデミックとビジネスを繋ぐ」「技術の町医者」(お客様が気軽に相談に訪れ、抱える問題に対して診断を行って技術的な問題に落とし込み、技術開発や大学との共同研究、コンサルティングなどの適切な治療を行う)です。
皆川さんのコア技術は何ですか
博士課程では一般物体認識や物体検出などを研究していましたが、今はコンピュータビジョンと名の付く仕事はなんでもやっています。最近ではPoint Cloud(図1)やDeep Learningなどの話が多いです。ほかにも拡張現実感「AR」(図2)や顔認識・顔追跡(図3)、ナンバープレート認識、トラッキング、カメラキャリブレーションの話なんかもあります。
将来、コンピュータビジョン分野のフリーランサーはどうなっていると思いますか?
未来は読めません。GoogleとかMicrosoftからするとコンピュータビジョンは自分たちのプラットフォームを便利にしてユーザを呼び込むためのツールでしかありませんから、今後どんどん無料で使えるようにしていくと思います。そういったツールに負けないようにしないといけないと考えています。アカデミックなことをキャッチアップしながら、ツールではできないところを身に付けていきたいと考えています。それができないとおもしろい仕事を継続的に取ることはできません。
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私、樋口も「自分の名前で仕事を取って来られる」、「いろいろな案件を受けられるためスキルアップになる」「いろいろな人と知り合える」「サラリーマンは上司を選べないが、フリーランサーは取引先を選べる」ということが大きなメリットだと思います。業務内容、取引先などは上司の意向が良くも悪くも強く反映されてしまいます。運が良ければやりがいのある大きなプロジェクトに携われますが、運が悪いと得られるスキルもなく、取引先のわがままに大半の時間を割く仕事を延々とやらなければならない、ということもあり得ます。
サラリーマンはメリットも多いので、退職、転職することを強くお勧めする訳ではありませんが、「自分の名前で仕事を取る」ということを選択肢に入れてみてください。
著者プロフィール
樋口未来(ひぐち・みらい)
日立製作所 日立研究所に入社後、自動車向けステレオカメラ、監視カメラの研究開発に従事。2011年から1年間、米国カーネギーメロン大学にて客員研究員としてカメラキャリブレーション技術の研究に携わる。
現在は、日立製作所を退職し、東京大学大学院博士課程に在学中。一人称視点映像(First-person vision, Egocentric vision)の解析に関する研究を行っている。具体的には、頭部に装着したカメラで撮影した一人称視点映像を用いて、人と人のインタラクション時の非言語コミュニケーション(うなずき等)を観測し、機械学習の枠組みでカメラ装着者がどのような人物かを推定する技術の研究に取り組んでいる。また、大学院での研究の傍ら、フリーランスとしてコンピュータビジョン技術の研究開発に従事している。
専門:コンピュータビジョン、機械学習