ビジネスではいろいろと時間のかかる作業が発生します。その多くが今後AIで自動化されていきますが、今回はその中から、プレゼン資料の作成をChatGPTで大幅に楽にする方法を紹介します。→過去の「柳谷智宣のChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」の回はこちらを参照。

職種にもよりますが、顧客へのプレゼンだけでなく、社内の会議用、社外へのコンペ用、イベントへの登壇、採用時の会社説明などプレゼン資料を作成する機会は多いものです。

ChatGPTでビジネスの現場で使えるプレゼン資料が作れるわけないだろう、という意見、その通りです。ChatGPTで生成した出力をそのまま上司や取引先に投げてはいけません。必ず、ファクトチェックや推敲、改変が必要です。

先日、アメリカの弁護士がChatGPTで民事裁判の資料を作成したところ、虚偽の内容が多数含まれており、問題になりました。今後、懲戒処分の有無が審理されるそうです。

  • 柳谷智宣の「ChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」 第2回

ChatGPTの出力を何もチェックせず流用すると、誤情報が混じっている場合、トラブルになります。では、ChatGPTは使い物にならないのでしょうか?そうではありません。プレゼン資料を作成する際、0→1の工程がもっとも時間がかかるのです。

皆さんも、すごく時間をかけてある程度形になったものを上司に見せたところ、一瞬であーでもないこーでもない、と言われたことがあるのではないでしょうか。ある程度たたき台ができていれば、そこからのブラッシュアップは簡単なのです。

そこで、このたたき台をChatGPTに作ってもらいましょう。これだけで随分な時短になりますし、自分でも思いつかなかった切り口などが入ることでクオリティアップの可能性もあるのです。

筆者はNPOデジタルリテラシー向上機構(DLIS)の活動として「ネット詐欺に遭わないために」というプレゼンをすることがあるのですが、今回はそのプレゼン資料を作ってみましょう。ずっと前から自分で作っているので、アウトプットの質をジャッジできるからです。

ChatGPTでプレゼン資料のたたき台を作る

まずは、プレゼンを作るときの注意点をピックアップしてもらいます。いきなり、プレゼン資料を作ってもらうと、この注意点を全スルーして、面白くない内容になってしまうことがあるからです。あらかじめ、ChatGPTにプレゼン資料を作る専門家としての心構えを持ってもらうのです。

  • 柳谷智宣の「ChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」 第2回

    まずはクオリティの高いプレゼン資料の作り方を自分で出力してもらいます

  • プロンプト
    「ネット詐欺に遭わないために」というテーマのプレゼン資料を作ります。聞いている人が眠くならないように、興味を引く内容でトピックを考える際に、重視しなければならないことは何ですか?
  • 出力(見出しのみ)

現実的な事例
インタラクティブなコンテンツ
ビジュアル化
ストーリーテリング
具体的な対策
最新のトレンド

6つの具体的な要素を提示し、詳細に説明してくれました。これで「上記を踏まえて、プレゼンのアウトラインを考えてください。スライドは12枚必要です」と、入力してみましょう。本来必要なスライド枚数は10枚のところ、わざと2枚増やしています。

  • 出力

スライド1: タイトルと導入
プレゼンテーションのタイトル、自己紹介、プレゼンテーションの目的。

スライド2: ネット詐欺の概要
ネット詐欺とは何か、その影響や危険性を述べる。

スライド3: ネット詐欺の実例1
ネット詐欺の具体的な事例を紹介。この事例を通じて詐欺の手口を理解させる。


スライド11: インタラクティブなクイズ
プレゼンテーションの中で学んだことを用いて、再度クイズを実施。

スライド12: 結論とQ&A
プレゼンテーションの要点をまとめ、質疑応答の時間を設ける。

いい感じの構成です。自分で作っていると、「ストーリーテリング」で「ネット詐欺に遭った人の物語を紹介。感情的な関与を促し、覚えやすさを高める」といった内容は思い浮かびません。

今回は、枚数調整のため「スライド9: ネット詐欺を防ぐ方法2」とスライド6でクイズがあるので2つ目の「スライド11: インタラクティブなクイズ」を省くことにします。

多めに出力してもらい、取捨選択することで、アウトプットの質を上げます。人間相手に同じことをすると気分を損ねてしまいそうですが、ChatGPT相手であれば問題ありません。

画像生成AIの生成プロンプトをChatGPTに聞く

スライドには画像を入れたいところです。新製品紹介なら製品画像がありますが、セキュリティネタだとどうしてもこれといった画像がありません。そこで、画像生成AIで作ることにしますが、その際の生成プロンプトもChatGPTに考えてもらいましょう。

  • プロンプト
    スライド9と11を省いた10枚で構成します。それぞれのスライドに入れるビジュアルのアイディアを考えてください。画像生成AIで作成するのでプロンプトも英語で考えてください。
  • 柳谷智宣の「ChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」 第2回

    画像生成AIに入力するプロンプトも考えてもらいました

いい感じにさくっと作ってくれたのですが、実際にMidjourneyに入力したところ、テキストが入ったり、漫画になっていたりして使い物になりませんでした。現状、画像生成AIは文字を正確に表現できないのです。

  • 柳谷智宣の「ChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」 第2回

    単に生成してもらったところテキストが入るようなプロンプトになってしまいました(1)

  • 柳谷智宣の「ChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」 第2回

    単に生成してもらったところテキストが入るようなプロンプトになってしまいました(2)

そこで、以下のプロンプトでバシっと突き返します。

  • プロンプト
    画像生成AIのプロンプトなのでテキストを入れたりマンガ形式にしないでください。スライドの内容にマッチした、1枚の画像を生成する、英語のプロンプトを考えてください。

これで生成されたのが以下の10枚です。ダークな雰囲気の画像が多いですが、ネット詐欺の話題なので、いい感じなのではないでしょうか。

  • 柳谷智宣の「ChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」 第2回

    生成された10枚の画像です

ここまでできれば、後の作業は簡単でしょう。スライドの中身を入れていきます。もちろん、「スライドの本文を書いて」とChatGPTに頼んでもいいのですが、それではオリジナリティが出ません。スライドのタイトルだけでなく、内容も考えてくれているのですから、あとは埋めていくだけです。

そして、最後にプレゼンする際に読むトークスクリプトをメモしておきます。もちろん、これもChatGPTにたたき台を作ってもらい、修正してもよいでしょう。トークスクリプトを作る際は、「高校生にもわかりやすく、書いてください」などと書いておくと、かみ砕いた表現になります。

  • プロンプト
    それぞれスライドのトークスクリプトを考えてください。高校生にもわかりやすく、書いてください。
  • 出力

スライド1: タイトルと導入
"こんにちは、皆さん。今日は「ネット詐欺に遭わないために」について話し合います。皆さんも日常的にインターネットを使いますよね。だからこそ、ネット詐欺のリスクを理解して防ぐ方法を知ることが重要なのです。"


スライド10: 結論とQ&A
"今日学んだことを思い出してみましょう。そして、何か質問があれば、どんなことでも結構ですので、遠慮せずに聞いてください。私たち全員がネット詐欺から自分自身を守る方法を理解し、実践できるようになることが目標です。"

もし、もっとブラッシュアップさせたいなら、そのように質問する。

  • プロンプト
    このプレゼンをさらにブラッシュアップするにはどうすればいいですか?

いくつかの手法に加え、しっかりリハーサルをするようにアドバイスされました。また、インタラクティブな要素で、関心を引き付けるようにクイズなどを出すように言われています。

しかし、筆者としてはあまり、この数字は何のことかわかりますか?のような参加を強制するようなクイズは聞くのも出すのも好みではありません。そこで、別のインタラクティブな要素を聞いてみました。

  • 柳谷智宣の「ChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」 第2回

    ブラッシュアップの方法までChatGPTに聞くことができます

  • プロンプト
    インタラクティブな要素は、現在クイズのスライドしかありません。他にインタラクティブな要素を取り入れるとしたら、どんな内容が考えられますか?
  • 出力(見出しのみ)

リアルタイムアンケート
シミュレーション
グループ討論
リアルタイムQ&Aセッション
ケーススタディの分析

視聴者参加型の要素にもいろいろあることがわかりました。必要に応じて、プレゼンに組み込めばよいでしょう。

最新情報や周辺情報をインプットしたうえで出力させる

最新の情報をChatGPTにインプットしたうえで、プレゼンの構成を考えてもらうこともできます。例えば、新製品のプレゼンならそのリリースや営業資料を読み込ませるのです。

今回は、FBIが出している「Internet Crime Report 2022」の内容を要約したものを覚えさせました。単に入力すると復唱したり要約したりするので「###以下の情報を覚えてください。覚えたら、はい、とだけ返答して下さい」と入力します。その上で、先ほどと同じく、プレゼン資料のアウトラインを考えてもらいましょう。

  • 柳谷智宣の「ChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」 第2回

    最新の情報をChatGPTにインプットします

  • プロンプト
    上記の情報を踏まえ、「ネット詐欺に遭わないために」というテーマのプレゼン資料を作ります。聞いている人が眠くならないように、興味を引く内容でトピックを考え、プレゼンのアウトラインを考えてください。スライドは12枚必要です。
  • 出力
  1. 「ネット詐欺に遭わないために」
  2. 目次
  3. ネット詐欺の現状
  4. ネット詐欺の種類とトレンド
  5. 被害者のデモグラフィックス
  6. なぜネット詐欺が増えているのか?
  7. ネット詐欺から身を守る方法:一般的なヒント
  8. ネット詐欺から身を守る方法:投資詐欺対策
  9. ネット詐欺から身を守る方法:ビジネスメール詐欺対策
  10. ネット詐欺から身を守る方法:サポート詐欺対策
  11. 暗号通貨とネット詐欺
  12. まとめとQ&A

随分と、最新の被害状況を踏まえた構成案になっています。このようにChatGPTに学習させることもできるのです。ただし、一度に扱えるトークン数に限りがあるので、あまり大量の情報を覚えさせることはできません。英語で入力すると、倍以上の情報をやりとりできるので、覚えておきましょう。

ChatGPT Plusで使えるGPT-4では、Webページの情報を読み取り、それを踏まえてチャットできます。例えば、DLISがネット詐欺をテーマに連載しているURLを入力したうえ「内容を把握してください」とプロンプトを入力してみます。

ページの内容が要約されるので、先ほどと同じ、プレゼンのアウトラインを生成してもらうプロンプトを入力してみましょう。

  • 柳谷智宣の「ChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」 第2回

    「GPT-4」をクリックし、「Browse with Bing」を選択します

  • 柳谷智宣の「ChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」 第2回

    入力したURLを読み込み、内容を記憶してくれるので、プレゼン資料を作ってもらいましょう

  • 出力(スライドタイトルのみ)

開始と紹介
ネット詐欺の基本概念
個人情報漏えい詐欺対策
フィッシング詐欺対策
オンラインショッピング詐欺対策
投資詐欺対策
ロマンス詐欺対策
419詐欺対策
誘導詐欺対策
身元詐称詐欺対策
新型コロナウイルスに便乗する詐欺対策
まとめと質疑応答

連載内容を理解し、複数の事例から対策を立ててもらおうという内容になっています。もちろん、このようなプレゼンもありでしょう。大量の詐欺の手口から、この9種類をチョイスしたセンスもいい感じです。

以上が、今回紹介したChatGPTでプレゼン資料のたたき台を超短時間で作るプロンプトの考え方とサンプルになります。今回はプレゼン資料を作りましたが、企画書でも稟議書でも似たようなプロンプトが使えます。0→1はChatGPTに任せて、人間はそこからのブラッシュアップに全力を注ぎこみましょう。