マーケティングでは、架空の顧客を想定するペルソナを設定し、カスタマージャーニーマップやユーザーストーリーを作成します。その過程で、顧客が何を欲しているのか、どんな行動が起きるのかを可視化し、気付きを得てプロダクトをブラッシュアップしていきます。→過去の「柳谷智宣のChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」の回はこちらを参照。
これらの作業は人間が行うことで、理解を深めたり、新しい視点を持ったりすることができるというメリットもあるので、すべてChatGPTに任せればOKというわけでもありません。
しかし、経営者が戦略を練る時に一人で壁打ちしたり、新人がペルソナをうまく作れないときなどにChatGPTを活用できます。人間がブラッシュアップする際にも、たたき台を作ってもらうことで大幅な時短にもなります。
マーケティング戦略を考える際は、顧客の目線で考えることが必須ですが、自分の願望や妄想が混じることもよくあります。その点、ChatGPTはプロンプトにしたがって考えてくれるので、より顧客目線で考えてもらうことが可能です。
今回は、マーケティングのペルソナやカスタマージャーニーマップ、ユーザーストーリーを作成してもらうプロンプトを紹介します。
現実的で詳細なペルソナをChatGPTに作成してもらう
どんなペルソナを作っていいのかわからない場合、自社に近い業種の中で有名な競合他社を入力し、どんなペルソナがあるのかチェックしてみましょう。試しに、食品メーカーにおける顧客のペルソナを考えてもらいました。見てみると、そこそこ詳細に作成され、それっぽいないようになっています。
-
プロンプトと出力
では、例えば「調味料メーカーのペルソナを考えてください」といったプロンプトだけで使えるペルソナができるかというと難しいでしょう。有名企業の情報はChatGPTが知っているので、それっぽいペルソナができましたが、情報がないのならぼやけた内容になってしまう可能性が高くなります。そのため、自社の情報も入力しておくとよいでしょう。ペルソナは情報が多いので、表形式で出力してもらうと見やすくなります。
また、すでに自社で調査を行い、一部のペルソナが判明しているなら、その情報を入れておくとさらに適切な出力が得られるようになります。
今回はペルソナを5つ生成しているので、出力をよく吟味し、どれか一つを選びます。もし、もう少し詳細に描写してもらいたいなら、再出力してもらいましょう。
このペルソナの選定、という部分が人間が果たす重要な役割となります。当然、現実的でないペルソナも含まれているので、却下しなければなりません。ペルソナを自分で作ったことがなければ、どの情報が足りないのかを判断することができません。
つまり、ChatGPTはある程度経験を積んだ人が、業務効率を高めて、作業時間を短縮するために使うと効果が大きくなります。新人がChatGPTを利用する場合は、出力を先輩にチェックしフィードバックをもらいながら経験を積むとよいでしょう。
ペルソナは他の資料などに記載することも多いので、再利用できるようにCSVファイルを作成してもらいましょう。GPT選択メニューから「ChatGPT 4」を選択し、プロンプトを入力するのですが、その際、エンコード形式をANSIにするように指定してください。
エンコードの指定がない場合、ChatGPTはUTF-8形式で出力するので、Excelで開くと文字化けしてしまうのです。なお、ChatGPT 4を使うには有料のChatGPT Plusを契約している必要があります。
まずはペルソナを作成し、その後ファイルを用意するという手順を踏むので、セッションによってはうまく動作しないことがあります。そのため「ステップバイステップで進める」ようにプロンプトで指示すると、混乱せずに処理できるようになります。
黙って、ANSIエンコード形式で出力してくれることもありますし、「cp932」エンコーディングを使っていいか聞いてくることもあります。その場合は「はい」とだけ応えればOKです。
-
プロンプト
新規事業を立ち上げるので、ペルソナを5つ作成してください。そして、ANSIエンコード形式のCSVファイルでダウンロードさせてください。ステップバイステップで進めてください。
作成したペルソナからカスタマージャーニーマップを作成してもらう
顧客がプロダクトを購入するまでの道のりをカスタマージャーニーマップといいます。それぞれのタッチポイントで効果的な施策を打つために、ステップごとに可視化します。
横軸と縦軸の要素はさまざまあるのですが、ChatGPTに聞いてみたところ、横軸が「認知/検討/購入/ロイヤルティ」、縦軸が「感情/タッチポイント/障害/機会」と回答してくれたので、それを利用してみます。
カスタマージャーニーマップの作成を指示し、新規事業の内容と生成したペルソナをコピー&ペーストします。こちらも、CSVファイルで生成してみましょう。何度か試したのですが、CSVファイルの中身が空っぽだったり、1単語しか入っていないことがありました。そのため、「詳細な」という単語を指示したうえ、最後に再読指示と「全力で」というエモーションプロンプトを追加してみました。
ややシンプルですが、カスタマージャーニーマップができました。もちろん、このままでは足りない部分もあるのですが、大きなミスもありませんし、たたき台としては十分です。このままブラッシュアップしましょう。
繰り返しになりますが、この出力をもって、カスタマージャーニーマップの完成版だと上司や取引先に提出するのはNGです。必ず人の手で確認と仕上げを行う必要があるので、注意してください。
「###ペルソナ」まで入力したら「###命令」として「最初からプロンプトを読み直し、全力で詳細なカスタマージャーニーマップを作成してください。」と追記します。
ユーザーストーリーを作成してもらう
ユーザーストーリーも作成してみましょう。カスタマージャーニーマップに似ていますが、こちらはアジャイルソフトウェア開発やプロジェクト管理の文脈で使用されるツールです。
ユーザーやステークホルダーの視点から、製品やサービスに対する要求事項や機能を記述します。たくさんのタスクがある中で優先順位を付けたり、エンジニアとステークホルダーの認識がずれているのを修正したりできます。
まずは、ユーザーの行動を列挙するのですが、この作業をChatGPTに行ってもらいましょう。ここでは、飲食店員に特化したeラーニングアプリを開発する際のユーザーストーリーを作ってもらいます。
はじめに飲食店員のペルソナを作成します。アルバイト向け、マネジメント層向けなど、プロダクトの方向性が決まっているなら、その要素もプロンプトに入れるとよいでしょう。
そして、ユーザーがプロダクトをどのように使うのか、そしてなぜ使うのかという理由を生成してもらいましょう。本来は付箋紙に貼ってホワイトボードに並べるので、あまり長い文章ではなく、シンプルに出力させます。
-
プロンプト
-
出力
田中太郎さんがeラーニングアプリを利用するユーザーストーリー
1.スキルアップのための学習: 田中太郎さんがeラーニングアプリを使ってサービス技術を学ぶ、それはキャリアアップにつながるから。
2.コミュニケーション能力の向上: 彼が会話技術のコースを受講する、それはお客様と 3.新しい料理の知識の習得: 田中太郎さんが最新の飲食トレンドに関する講座を受ける、それはメニュー提案の幅を広げるためだから。
4.ストレス管理の学習: 彼がストレス管理の技術を学ぶ、それは厳しい業務環境でのパフォーマンスを保つためだから。
5.リーダーシップ能力の向上: 田中太郎さんが管理職向けトレーニングを受ける、それは将来的に高いポジションを目指すから。
6.外国語学習のため: 彼が英語などの外国語講座を受講する、それは外国人客へのサービス向上のためだから。
7.衛生管理の知識の習得: 田中太郎さんが食品安全管理に関する講座を学ぶ、それはお客様への安全な食事提供のためだから。
8.マーケティングスキルの習得: 彼がマーケティングや顧客関係管理のコースを受ける、それは店舗の売上向上に貢献するためだから。
9.時間管理のスキル向上: 田中太郎さんが時間管理の技術を学ぶ、それは効率的な業務運営のためだから。
10.料理技術の向上: 彼が高度な料理技術の講座を受ける、それは自分のレストランを開く夢を実現するためだから。
ユーザーの行動がリストアップされました。GPT-3.5だと、途中で理由を書かなくなったりするので、GPT-4の利用をお勧めします。数が足りなければ、生成する数を増やしましょう。行動を見れば必要な機能はわかると思いますが、この機能のリストアップもChatGPTにお願いできます。
必要な機能がリストアップされました。どれも普通の内容ですが、自分で作業すると抜け漏れが出ますし、時間がかかります。一瞬で一通りのたたき台ができるのはありがたいところです。後は、必要に応じてユーザーストーリーを追加したり、開発する機能の優先順位を判断すればよいでしょう。
マーケティングに使うペルソナやカスタマージャーニーマップ、ユーザーストーリーはChatGPTに作成してもらうと時短になります。どれも前提条件などをある程度入力し、どんな出力が欲しいのかを明記するのがコツです。流用することもあるなら、CSVファイルを生成するとコピーの手間が省けます。
大幅な時短になるうえ、自分だけで作業していると見逃している視点も網羅できるのがメリットです。存分にトライ&エラーを繰り返し、マーケティングにChatGPTを活用してください。