日本経済はいい感じといったニュースも目にしますが、周りではあまり景気のいい話は耳にしません。そんな中、会社を存続させたり、さらに拡張するために、助成金や補助金の力を借りることもあります。政府や自治体は意外と手厚い支援策を打ち出しているので、多くの企業が利用しています。→過去の「柳谷智宣のChatGPTプロンプトクリエイティブラボ」の回はこちらを参照。
しかし、チャレンジしたことがある人ならわかると思いますが、とても手間がかかります。とにかく、作成する書類が多いのです。会社名や法人番号、ホームページ、従業員数などは、入力すればいいだけですし、専門家に依頼して書類作成を手伝ってもらうこともできます。
問題は自社の事業などについて解説する文章です。他の人が書くことが難しいところなので、自分で書くしかありません。しかし、ただでさえ経営者は忙しく、文章を書くのに慣れていないと、時間だけが飛んでいってしまいます。しかも、1カ所や所2カ所ではないのです。企業概要から自社製品の強み、顧客ニーズと市場の動向や生産性向上の取り組み内容など多岐にわたります。
今回は、この申請書の文章作成にChatGPTを活用してみましょう。なお、先にお伝えしておくと、ChatGPTも無から有を生み出すことはできません。あくまでも自分の中にある情報を読みやすい文章に仕立てるためにChatGPTを活用する方法を紹介しています。適当にそれらしい申請書をでっち上げても審査には通らないので注意してください。
ホームページを読み込ませて「企業概要」を書いてもらう
まずは、企業概要を書いてみましょう。自分で書いた下書きや、箇条書きで入力した要素をChatGPTにまとめてもらうこともできるのですが、ホームページを持っているなら利用してみましょう。
ChatGPT Plusではウェブページにアクセスする「WebPilot」プラグインを利用できます。ここに、企業概要のURLを貼り付けて、企業概要のうち、創業年、従業員数、事業内容を出力させてみましょう。ちなみに、今回は小規模事業者持続化補助金の「経営計画・補助事業計画書」を作ってみました。出力する内容は公開されている記載例を参考にしています。
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プロンプト
以下のURLを読み込んでください。
https://peraichi.com/landing_pages/view/tourbillon
以下のフォーマットに従って出力してください。
###フォーマット
【創業】創業年をここに入力
【事業内容】事業内容をここに入力
【取扱商品】取扱商品について要約をここに入力
出力
次に、顧客や売り上げの構成を入力します。決算などですでに情報を持っていれば、コピーするだけでOKです。ないのであれば、ChatGPTに作ってもらいましょう。前年度の売上データなどのCSVファイルをアップロードし、分析させます。
こちらも、ChatGPT Plusの「ADA(Advanced Data Analysis : 高度データ分析)」を利用します。「GPT-4」をクリックして、「Advanced Data Analysis」を選択しましょう。
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プロンプト
売上表を分析し、顧客比率の割合を表示してください。
出力
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プロンプト
売上の商品構成を教えてください。
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出力
以下は商品ごとの売上構成です:
Tourbillon 10年:約41.08%
Tourbillon 25年:約36.79%
Tourbillon 18年:約22.14%
さくっと顧客や商品の割合を算出してくれました。小数点以下が不要であれば削除しておきましょう。記載例には原価率も書かれていたので、商品の売り上げ構成表に入れておきます。もし、それさえわからないというのであれば、仕入れ値と売値をプロンプトに入れて、ChatGPTに原価率を聞くこともできます。
売り上げの状況をまとめてもらう
続けて、「売り上げの状況」を書いてもらいましょう。同様に、月ごとに集計した過去数年分のCSVファイルをアップロードし、分析してもらいます。
内容を把握してもらったら、申請書に書く文章にまとめてもらいましょう。記載例を見るに、コロナ禍の影響を書いていたので、原因についてもプロンプトに入れておきます。
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プロンプト
売り上げ分析をしてください。2019年と比べて、2021年、2022年の売上がどうなっているのかを分析してください。
出力
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プロンプト
助成金を申請書に記載するための文章にまとめてください。売り上げ減少にはコロナ禍や若者の酒離れが影響していると思うので、それらの原因も入れてください。月ごとの特徴があればそれも書いてください。
出力
下記は、上記のプロンプトから出力された詳細な文章です。
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出力
当社の売上は、2019年をピークに、2021年には約47.50%、2022年には約30.94%減少しております。特に2021年の後半に売上の低下が顕著になっています。
この売上の減少は、新型コロナウイルスの影響による外出自粛やイベントの中止・制限、さらには若者の酒離れといった社会的背景も大きな要因として考えられます。新型コロナウイルスの影響により、多くの人々が外出を控えるようになったことで、当社の製品へのアクセスが減少しました。また、若者の間での酒離れの傾向は、新しい顧客層の獲得が難しくなっている現状を示しております。
2022年は前年よりも売上が回復傾向にはあるものの、2019年の売上水準にはまだ遠く及んでいません。このような状況を受け、助成金の支援を必要としております。
最後の一文、助成金が必要です、と訴えているのは流石です。空気が読める人が書いた文章のようですね。とは言え、実際の申請書には不要なのでここは削除しておきます。基本ですが、ChatGPTの出力をコピペで外部に提出するのは厳禁です。必ず、ユーザーがチェックし、ブラッシュアップする必要があります。
次に「業務状況」について記載します。記載例を見るに、現在の雇用状況、業務内容、サービスの魅力を記載したうえ、資金繰りについて説明し、補助事業を活用したい理由を語っていました。ここの要素はすべて本人が書いたほうがよいでしょう。このようなケースのプロンプトは箇条書きスタイルが適しています。
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プロンプト
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出力
当社はコロナ禍の影響により、2人の従業員が退職し、現在は3人の従業員で運営しております。主力商品として、ECサイトで海底熟成ウイスキー「Tourbillon」を販売しており、同時に各種イベントにも積極的に出店し、直接販売を行うようになりました。
売上は現在回復基調にありますが、頭打ちの可能性がある状況です。そこで、新たに小規模なリアル販売店舗を設立する計画を進めており、銀行からの融資を受け、物件の契約を済ませ、現在工事中です。幸いなことに、現在の売り上げにおいては資金繰りに問題はありません。
本補助事業を通じて、リアル店舗での売り上げを伸ばし、その収益を返済に充てたいと考えております。
問題のない文章が作成できました。条件にはほぼすべての要素を入力しています。これだけ書くなら、自分で書いた方が早い、と考えるのは文章力を身に着けている人です。箇条書きで出すことができても、文章にするのはとても難しいのです。この手間のかかる作業をChatGPTで時短するのが賢い活用法です。
当初、「私たちは~」のような文章や、最後に「ご検討賜りますようお願い申し上げます」のようなお願いが入ってしまっていました。通常は削除すればいいだけですが、今回は、それらを回避するように、プロンプトを修正しています。特に、冒頭や締めの文章のスタイルを指示しておくと、狙った出力が得られやすいので覚えておきましょう。
顧客ニーズと市場の動向を作成させる
次は、「顧客ニーズと市場の動向」を作成してみましょう。記載例には、市場概況、顧客ニーズ、競合他社との差別化といった内容が書かれており、注意書きもありました。自分で熟読して、内容を理解し、文章を作成するのは手間がかかります。
手間がかかる作業は、まるっとChatGPTに投げてしまいましょう。記載例と注意書きを覚えさせます。勝手に要約を始めないように、「はい」とだけ返事するように指示しておきましょう。プロンプトの量が多いので、最後に再読させておきます。
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プロンプト
続けて、文章を作成してもらいましょう。それぞれの項目に関して、自社に関する情報を入力し、記載例を参照して執筆してもらうプロンプトにしました。ここでは、試しにシンプルな情報のみを記載したのですが、テイストやボリュームはしっかりと記載例に近くなっており、上々の結果となりました。
ただし、よく読むと、ウイスキー体験と国内旅行と絡めていたり、海底熟成により瓶にフジツボが付く、というプロンプトをデザインと解釈するなど、修正が必要な部分はあります。しかし、サクッと800文字以上のハイレベルな下書きが手に入ると考えれば、大きな時短になります。
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プロンプト
海底熟成ウイスキー「Tourbillon」を販売する会社の申請書の文章を作成します。覚えた記載例や注意書きを参考にして、###内容を元に詳細に執筆してください。導入やまとめは不要です。
###内容
市場概況:コロナ禍れ売れ行きが鈍化したが、戻り始めている
顧客ニーズ:ウイスキーブームではあるが、海底熟成の認知度は低い
競合他社との差別化:海底熟成し、ロマンがある商品。海底熟成ウイスキーの元祖である点。フジツボなどが付着した瓶の見た目。 出力
以上が、今回の助成金や補助金に関する申請書の作成を手伝ってもらうプロンプトの紹介となります。自分の中にある断片的な情報や決算書類などの数字データをChatGPTに入力することで、必要な文章に仕立ててくれます。
文章作成の前中後で、前のプロンプトと後のチェックは人間が行い、中の執筆をChatGPTに任せるイメージです。随分な時短になるので、一度試してみましょう。
繰り返しになりますが、申請書作成業務の効率化テクのご紹介です。あくまでも自分の中にある情報を読みやすい文章に仕立てるための活用で、決して内容のない申請書を審査に通るようにする、というものではないので注意してください。