今回のテーマは「エンタテインメントロボット」(以下、エンタメロボット)だ。

人間みたいで、そうではない存在を求めて

「人間のように動くロボット」は昔から人類の夢である。何故「人間」そのものがそこかしこにおり、毎日それに苛立っているというのに、なおかつ「人間みたいなもの」を求めるか謎だが、おそらく「人間みたいなイラつかないもの」を求めているのだろう。

エンタメロボットと前回取り上げた「産業ロボット」の違いは、「役に立つかどうか」である。その名の通り娯楽用ロボットであり、生産的行為はできないのだが、ウンコしか生産しないばかりか人を不愉快にしかさせない人間など山ほどいるので、人を楽しませる上にウンコもしないエンタメロボットはそれだけで偉いと言える。

エンタメロボットの歴史は古く、江戸時代の「茶運び人形」などがその走りとされている。もちろん、その人形の役目は茶を運ぶこと自体ではない。

人間が運んだ方が1億倍速いし、唯一優れている点があるとしたら、陰で雑巾の絞り汁を入れたりしないことぐらいだ。しかし、当時からすれば、人形が歩いて茶を運ぶというだけで大盛り上がりで、見物人が絶えなかったのだろう。

日本のエンタメロボットの先駆けは「ワンちゃん」

創作上では、さまざまなSF映画、漫画・アニメだと鉄腕アトムやドラえもんなどが早くから人気を博してきたが、現実のもので我々の記憶にあるロボットは、おそらく「AIBO(編集注:2018年に発売された新世代はすべて小文字の「aibo」)」くらいからではないだろうか。

「いや、先行者だ」というインターネット老人会の面々もいるかもしれないが、ここでは除外する。「AIBO」とはソニーが発売した犬型ロボットである。

まず「人間なんぞよりワンちゃんですよ」と判断したソニーの慧眼たるや、である。

「AIBO」により「ペットロボット」というジャンルが確立された。それ以前にも、喋ったり動いたりする玩具は存在したが、「AIBO」は人工知能が搭載されており、自律運動するところが画期的であった。つまり、「より生き物らしくなった」のである。

ペットというのは生物故に、飼うには相応の覚悟と責任が伴う。私も猫好きではあるが、「おキャット様の命」というのはあまりにも巨大すぎて、私のポケットには収まりきらない。しかしロボットならば、病気もなければ死別もない。

そういうわけで、「AIBO」は長らくペットロボットとして親しまれたのだが、2006年にソニーがロボット事業から撤退したことにより製造中止になった。その後もサポートは継続していたのだが、2014年に終了が決定した。つまり、これ以降は故障したら修理できなくなり、死なないはずのペットロボットに死が訪れてしまったのだ。

この事態に、長年の「AIBO」ユーザーは動揺。彼らの哀しみの声がそこかしこで取り上げられた。私も、もし「おキャット様型ロボット」を所有していて、それが動かなくなったら泣く自信があるし、バッチリ、ペットロスになると思う。

そんな悲しみに暮れる「AIBO」ユーザーのために、元ソニー社員たちが個人的に修理を請け負い、さらには葬式も取りまとめたという、すごく良い話がある。個人の意見だが、これは「AIBO」がワンちゃんロボットだから起こった奇跡だと思う。人間型だったら、ここまで話が進んだかわからない。さらにその数年後、ソニーが再びロボット事業に参入し、新型の「aibo」が発売されることになったという。

素直に「良かった」と思える話だ。これも、「aibo」がワンちゃん型だからである。

人がロボットより優れている、ある「機能」

ヒト型ロボットで有名なものと言えば「Pepper」だろう。

「Pepper」は世界初の感情認識ができるロボットで、表情や声のトーンから相手の感情を読み取り会話ができると言う。ショッピングセンターなど人目に付くところに多く置かれるようになっているというが、私は地方住まいのためか、「Pepper」と接したことはない。きっとこちらが怒っていたら「おこなの?」とか聞いてくるのだろう。

「Pepper」に関しては、かわいいと感じる人もいるとは思うが、そのビジュアルから怖いとか「良からぬことを考えてそう」という者もいた。

一方、「aibo」に対して「邪悪」などと感じる人はおそらくそんなにいないだろう。同じ機械でもヒト型をしているだけで「邪悪さ」が出るのだから、人間がどれだけ邪悪か、という話である。

ちなみに「Pepper」は20万円程度で購入が可能だが、保険や維持費などを入れると3年で100万ぐらいかかってしまうそうで、娯楽費としては相当割高だ。ただ会話するだけでなく、300種類以上のアプリがダウンロードできるため、子どもの知育玩具としても注目されているらしい。

だがその「Pepper」ですら「二足歩行機能」はついていない。やろうと思えばできたのかもしれないが、二足歩行は消費電力が大きいため、連続して起動できることを優先して見送ったという。

つまりロボット界にとって「二足で歩く」というのは、それほど大変なことなのだ。そういえば、ホンダが作った人型ロボットの「ASIMO」も、歩くだけでCMの主役になるなど耳目を集めていた。技術は著しく発展しているが、エンタメロボットの役割は「茶運び人形」のころからあまり変わっていないようだ。

それを考えれば、ウンコしか生産しないで人を苛つかせるだけの人間も、電気を使わず二足で歩けるのだから、やはりロボットより優れている、と言えるのかもしれない。

<作者プロフィール>

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カレー沢薫
漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「やわらかい。課長起田総司」(2015年)、「ねこもくわない」(2016年)。コラム集「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年~)、コラム集、「ブス図鑑」(2016年)、「やらない理由」(2017年)、「カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄 - 」(2018)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。本連載を文庫化した「もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃」は、講談社文庫より絶賛発売中。

「兼業まんがクリエイター・カレー沢薫の日常と退廃」、次回は2018年7月24日(火)掲載予定です。