EVは熱問題に挑戦
EVでは、3つの主要な部品がある。「バッテリ」と「モータ」、「インバータ(パワーエレクトロニクス)」だ。特に、最大の問題は、熱を通じたエネルギー問題である。熱効率を改善し、バッテリ効率を上げ、寿命を従来よりも20%伸ばすことが重要になる。だからこそ、バッテリ、モータの熱、熱エネルギーの損失についてMentor Automotiveは、熱の挙動や流れを理解し改善するためのシミュレーションツールを提供している。バッテリサイズを大きくする場合には、エネルギー損失などを考慮してパワーエレクトロニクスの設計見直しが必要になるという。EVでは、シミュレーションを使ってクルマの性能とコストを最適化できる。EVは、所望のコンセプトカーを試作し、量産することをミュレーション評価することが比較的やさしいからだとしている。
コネクティビティは基本構造が重要
コネクティビティではつながるクルマとドライバーや、ドライバーと外界をつなぎ、自動運転に向け自律的なADAS(先端ドライバ支援システム)が必要になる。電動化ではEVやサポーティング技術が重要になり、そして全体のアーキテクチャを電気・電子のアーキテクチャとしてシステムへ実装する。すなわち電子部品やワイヤリングと通信ネットワーク、電子制御ユニット間の通信などが必要となる訳だ。
自動運転、特にコネクテッドカーでは、たくさんのカメラデータを使うため、今よりももっと複雑になる。バンド幅の広い通信技術であるEthernetが必要で、CANやLIN、FlexRayなどの古い通信プロトコルを含め、Ethernetをバックボーンとして、セルラーデータやビデオデータなどを制御するようになる。これがクルマの基本構造になるという。
ソフトウェアの統合が複雑に
組み込みソフトウェアを書くためのソフトウェア設計ツールも重要である。コネクテッドカーの問題の1つは、すべてのレイヤのソフトウェアを統合することだ。今日のカーメーカーOSともいうべきAutosarの中でさえ、ドライバソフトウェアも複雑になっている。多くのソフトウェア部品にはLinuxやオーディオ・ビデオコーデック、セルラー接続などを含む。しかも、クルマは、すべて欠陥ゼロにしなくてはならず機能安全を満たし、さらにセキュアにしなければならない。Mentorは、セキュリティを担保し隔離するためのハイパーバイザを含むプラットフォームを提供するとしている。自動運転には、カメラが必須で、サラウンドビューカメラ、360度カメラなども提供し、システムエンジニアのサポートも必要となる。
難しい問題の1つは、シミュレーションだけではなく、ハードもソフトも含めたシステムの統合であり、互いに通信するようにすることだとしている。アーキテクチャを提案すると、クルマメーカーの価値を高めることができるようになる。
EV向けの設計ツールは豊富
EVでは熱解析や設計、モータのシミュレーション、設計ツールなどを提供する。IGBTのシリコンテスト、大きなパワーエレクトロニクスにも関与している。Mentorは、トヨタなどのカーメーカーへの信頼性保証のため、非破壊検査で寿命と信頼性を評価している。アーキテクチャとマーケットリーダーは、車内の相互接続、ワイヤリングなどを定義し、製造部門を支援し、アーキテクチャやプラットフォームをカスタマのITシステムすなわち顧客のインフラに統合する。例えば、カーメーカーのディーラでメンテナンスを行うとき、ディーラはクルマのリファレンス番号をタイプに打ち、即座にすべての電子システムとワイヤリングシステムを見る。だから、Mentorの設計ツールを顧客のITシステムに統合することが重要なのだという。
アナログやマイクロプロセッサ、ディスクリートなど半導体のコンテンツはすでに400ドルに達している。今後ますますエレクトロニクス化が増えてくる。2030年には内燃エンジン車を含むすべてのクルマの原価コストの半分がエレクトロニクスになると予想されており、クルマメーカーは新しいエレクトロニクスの設計に注力している。
電動化でうまい応用の1つの例としては、騒音を減少させるシステムがある。ロードノイズはエンジンノイズと混じり合って複雑なので予測アルゴリズムは使えないが、エレクトロニクスを使ってマイクで音を拾い、180度位相反転すればノイズを打ち消し合うことができる。
LEDヘッドライト照明やPCB配線設計、故障解析などでもMentorはマーケットリーダーであり、広い製品ポートフォリオを持っていると主張する。
日本の顧客の実績も
同社の顧客として、マツダはMentorの製品「Volcano」を使っているという。この製品はAUTOSAR仕様に基づいて、設計し、シミュレーションし、結果をCANなどの通信で行うツール。トヨタも顧客で、水素自動車などのパワーエレクトロニクスのテストに使っている。トヨタに部品を納めるデンソーも、同社の熱解析システムツールを使っている。これによって設計サイクルのコストを半減したという。
顧客は多くの解析シミュレーションを行うようになってきた。以前は、クルマのアーキテクチャの解析を行い問題を解くのにスプレッドシートを使っていたというが、同社の解析ツールを使うことで、必要な複雑なシステムを理解し、プロフェッショナルなシミュレーションツールの最適化を図ることが可能になり、結果として、コストを半減することができたという。
また、セキュリティに関しては、さまざまなレイヤでセキュリティが必要なため、これという簡単なツールはまだないとする。コネクテッドカーでは、スマートアンテナを通して外部から情報が入り、ECUにたどり着く。ECUは互いに通信し合うが、インフォテインメント系ECUはブレーキ用ECUとは通信を断ち切らなければならない。そのため、Linuxソリューションではセキュリティをしっかり確保するため、多レイヤにわたりセキュリティを確保しているとするほか、データにも暗号をかけ、暗号化するキーをしっかり守るといった手法を取り入れているという。