CMOSイメージセンサの米国ファブレス半導体メーカー、OmniVision Technologiesがクルマ用のカメラ市場に本格的に参入する。クルマに搭載するカメラの仕様として、ダイナミックレンジが120dBと広く、かつ130万画素のビデオを60fpsの速度で撮影きるCMOSイメージセンサOV10640と、映像をストリーム処理するイメージプロセッサOV490を開発(図1)、6月にサンプル出荷する。

図1 OmniVisionが発売するCMOSセンサとイメージプロセッサ(出典:OmniVision Technologies)

OmniVisionはこれまで、携帯電話やスマートフォン、タブレット用のカメラが得意なメーカーだった。車載向けのイメージセンサ市場は、モニターとして見るビューカメラ応用が圧倒的に大きくこれからもその成長は続く。さらに自動衝突防止機能などのセンシング用のカメラとしての応用も今年あたりから増えていくと予測する。さらに欧州では、ドアミラーをなくしてしまい、CMOSセンサカメラと液晶モニターでバックを見ようという電子ミラーが増えてくるという予測もある。この結果、2014年には5500万台の車載用イメージセンサカメラは、2020年には1億7000万台にも増えるとOminiVisionは見ている(図2)。

図2 2020年に車載用カメラは1億7000万台に増加(出典:OmniVision Technologiesおよびテクノリサーチシステム2013)

車載用イメージセンサは、サラウンドビューモニター用に前後左右の4個は最低必要で、ADAS(先進運転支援システム)には前後のカメラは欠かせない。加えて、車内においてもジェスチャー制御に必要な認識作業をさせるためのカメラもいる。フロントカメラは前方の対象物を検出することにも使う。特に白線検出や前方のクルマ検出、暗い夜の歩行者を検出するナイトビジョンなど、クルマに搭載されるカメラはコストさえ下がれば、多数使われるようになる。

これらのADASにおいては、ドライバーから見た死角をなくすことが欠かせない。このためには歪んだ画像を補正する技術だけではなく、何枚もの画像を合成する技術、画像の中に人間や対象物を検出する四角いマークを重ねる技術など、さまざまな画像処理技術が求められる。OminiVisionが今回、130万画素の裏面照射イメージセンサOV10640だけではなく、画像処理プロセッサOV490も同時に発表したのは、コンパニオンチップとして両方を組み合わせて使うためだ。

逆光や暗い夜道での走行でもクルマをしっかり検出できる(図3)。低照度から高照度までのダイナミックレンジが広く、しかも低照度での感度も高いためだ。

図3 ダイナミックレンジの広いHDR技術だとはっきりクルマを認識できる(出典:OmniVision Technologies)

ADAS向けの要求性能として、低照度感度の向上とダイナミックレンジの拡大を実現した。特にダイナミックレンジを120dBと従来最高だったOV10635の115dBよりも伸ばした(図4)。感度もOV10635の2倍を確保した。同社は従来感度だけなら今回の製品の2倍も高感度のOV7955を持っているが、そのダイナミックレンジは70dBしかない。

図4 新製品のスペック(出典:OmniVision Technologies)

図4の中の新製品(真ん中)と従来品のカメラで撮影した映像を図5に示す。キユーピー人形とライトを同時に撮影(図5)している様子を表した画面が図6である。図6の左の画面では感度は高いが解像度の低いOV7955を用い、右の画面はダイナミックレンジが広いが感度は低いOV10635を用いた。新製品のチップセットは真ん中の画像を示している。

図5 キユーピー人形とライトを同時に撮影

図6 3つの画像は、図4の製品に各対応

従来、ダイナミックレンジを広げる方式では、暗い映像に絞りを合わせた画面と、明るい映像に合わせた画面の2枚を合成して出力することで明るさと暗さを同時に表現できた。ただし、2枚の画面を同じフレームで取得する必要があり、高速動作を撮影する場合に別のフレーム同士の画面となれば合成のずれが生じてしまう。このため、映像のブレやゴーストなどの不自然な映像になってしまうことがあった。

今回は、どのようにしてダイナミックレンジを広げたのか、同社は多くを語らない。しかし、これまでとは違い、時間差は生じない、同時に画像を撮り込むという。同社の話を総合すると、1回の撮影で画像を撮り込み、十分に光を絞り明るすぎて白くなり過ぎないような画像と、暗い部分は光を十分に取り込んだ画像を作り、それらを合成するようだ。2枚の画像はフレーム間には及ばないため、時間差は生じない。

CMOSセンサは、画像のデータを出力するだけだが、画像の合成などの機能はコンパニオンチップが受け持つ。この65nmCMOSチップは、二つの映像信号を入力し、映像信号YUVかRGB、およびRAWデータを出力できるため(図7)、ユーザーは、映像表示とセンシング機能(例えばマシンビジョンのダウンストリーミング処理)を同時に出力できる。このISP(イメージ信号プロセッサ)を使えば高解像度(1280×1080)の画像キャプチャーとビデオストリーミングを簡単に実現できる。2本のパイプライン構造を持つため、外付け部品とそのコストを減らすことができる。

図7 コンパニオンチップOV490のブロック図(出典:OmniVision Technologies)

CMOSセンサOV10640とビデオ処理プロセッサOV490のサンプル出荷は2014年6月から、量産は2014年の第4四半期を予定している。