2024年11月に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、通称「フリーランス新法」。施行から1年の間に、公正取引委員会は複数の違反業者に対し、行政指導や勧告を行った。

今後、より厳格に適正な取引が求められるなか、企業はフリーランス新法にどう向き合うべきか。

本稿では、業務委託管理ツール「Lansmart by SmartHR」を提供するCloudBrains 代表取締役の眞壁雅彦氏に、フリーランス新法の違反事例や、意図せず違反することにならないために企業が講じるべき対策などについて伺った。

  • CloudBrains 代表取締役 眞壁雅彦氏

    CloudBrains 代表取締役 眞壁雅彦氏

フリーランス新法はなぜ生まれたか

そもそも、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(通称、フリーランス新法)」とは、個人として業務委託を受けるフリーランスと企業などの発注事業者の間の取引の適正化、フリーランスの就業環境の整備を図ることを目的に、2024年11月1日に施行されたものだ。その背景にあるのは「保護なき働き手の増加が問題になったこと」だと眞壁氏は説明する。

フリーランスという働き方は1990年代、インターネットの普及に合わせて、プログラマーなどの技術開発に携わる職種から一般化。2000年代のクラウドソーシングの誕生、2010年代のスマートフォンやシェアリングエコノミーの発展とともに少しずつ普及し、2020年代のコロナ禍によるリモートワークの普及で広く拡大した。同氏によると、1995年時点で約137万人だったフリーランスは2020年時点で約462万人と、派遣人口の約3倍の規模にまで広がっている。

その一方、2020年に内閣官房が公表した「フリーランス実態調査結果」ではフリーランスの約4割が「トラブルを経験した」と回答するなど、フリーランスを取り巻く環境は決して整備された状態ではなかった。

そこで政府は2020年からガイドラインの整備などを急ピッチで進め、2024年11月施行されたのがフリーランス新法というわけだ。

フリーランス新法の概要

フリーランス新法が定めているのは以下の7つの義務だ。

  • 1. 書面などによる取引条件の明示
  • 2. 報酬支払期日の設定・期日内の支払い
  • 3. 受領拒否や報酬の減額などの7つの禁止行為
  • 4. 募集情報の的確表示
  • 5. 育児介護等と業務の両立に対する配慮
  • 6. ハラスメント対策に関する体制整備
  • 7. 中途解除等の事前予告・理由開示
  • これらに違反した場合、監督官庁による調査を経て、指導・助言、勧告、命令・公表の処分を受けることになる。

    フリーランス新法の違反事例

    では、フリーランス新法施行から約1年の間に、どのような違反事例が出ているのだろうか。

    2025年3月にはゲームソフトウェア業、アニメーション制作業、リラクゼーション業およびフィットネスクラブの事業者45社に対し、契約書や発注書の記載、発注方法、支払期日の定め方などの是正を求める指導が行われた。

    例えば、ゲームソフトウェア業を営むA社は、業務委託をした場合に直ちに明示が必要な事項のうち、給付を受領する期日を明示していなかったという。また、リラクゼーション業を営むG社は、整体施術の業務を委託した場合に直ちに明示が必要な事項のうち、役務の提供を受ける期日および場所を明示していなかった。加えて、報酬の支払期日を「翌月10日まで」と記載しており、具体的な期日を特定していなかった点も指摘された。

    さらに2025年6月には、大手出版社2社と楽器メーカーに、社名の公表を含む勧告がなされた。それぞれ、給付の内容や報酬の額、支払期日などを明示しなかったり、適切なタイミングで報酬が支払われていなかったりした点が指摘されている。

    「いずれの違反事例のケースも『取引条件の明示義務』と『期日における報酬支払義務』の2つの未対応が指摘されています。この2つの義務への監視は今後も強まるでしょう。 公正取引委員会による行政指導・勧告が行われた業界は、2025年10月時点で7業界に渡っており、他の業界でも起き得る可能性は十分考えられます。法令を知っていてもつい業務に追われ、うっかり忘れてしまったという例もあるでしょう。また、会社として適切な対応がとれていなかったということも考えられます」(眞壁氏)

    法令違反により企業が受ける悪影響

    しかし、これらの行為は“うっかり”では済まされないれっきとした法令違反だ。仮にフリーランス新法の違反が発覚した場合、「法令に違反する企業」だというレッテルが貼られ、取引を敬遠されたり、消費者が離れてしまったりする場合もある。また、フリーランス事業者側が「この企業とは取引したくない」と考えることで、貴重な人材の離反にもつながる。

    「法令違反を指摘された企業には、売上の低下といった直接的な影響のほかに、新卒や中途採用に支障が出るなど、ブランドイメージの毀損につながるような間接的な影響も起こり得るでしょう。このようなリスクを考えると、フリーランス新法への対応は経営イシューとして取り組むべきものなのです」(眞壁氏)

    企業がとるべき対策とは

    企業側がとるべき対策として考えられるものには、法令で定められた明示条件をテンプレート化し共有する、チェックリストで違反がないかを確認するなど、人の手で行う対策がある。しかし、眞壁氏は「人の手だけのチェックでは難しい」と指摘する。

    例えば、発注時、フリーランス新法が書面などへの明記を定める項目は複数ある。それを毎回の発注で必ず抜け漏れなく明示する必要があるのだ。1つでも漏れていれば法令違反となるが、日々大量の発注を行う現場で毎回ミスなく確認ができるかというと、そう容易ではないことが想像できるだろう。また、e-learningの受講、理解度テストの実施などを行ったとしても、発注に携わる全てのメンバーが法令の仔細まで完璧に把握することは不可能に近い。

    だからこそ同氏は、「人に頼るのではなく、システムなどの仕組みを整えることが必要」だと話す。現に、公正取引委員会もシステムによる対応の有効性に言及しており、デジタルの力を使った予防的な取り組みも推奨されているそうだ。

    また、法令は一度制定されたら終わりではない。運用上の課題や対処すべきことがあれば、将来的に改正される可能性も考えられる。そのような場合でも、システム化されていれば、現場で各々が対応するのではなく、一括で柔軟に対応することが可能となる。

    フリーランス新法対策の今後

    眞壁氏はフリーランス新法への対策の一つとして、「今後、AIを活用した予防の仕組み化がますます加速するのではないか」と語る。元々法令は守るべき点や違反となる点が明確であり、AIとの相性が良い。仮に、クラウドサービス上に過去の発注履歴や契約書データなどを蓄積している場合、AIの学習データとして使える。AIが明示すべき項目の内容をチェックしたり、違反になりそうな案件の自動検知、一部の確認作業や発注処理を代行したりすることで、ヒューマンエラーを原因とする法令違反を未然に防げる可能性が高くなるというわけだ。

    また同氏によれば、海外ではヒューマンキャピタルマネジメント(HCM)企業が、フリーランスマネジメントシステム(FMS)の企業を買収し、自社人材と同様にフリーランス人材を管理する方向に進んでいるという。

    「人手不足の深刻化に加え、働き方が柔軟になってきていることから、会社の内部にいる人材、外部にいる人材のどちらも、組織成長のためのタレントとしてマネジメントしていく世界観に日本企業も向かっていくのではないでしょうか。そのような未来を見据え、今のうちからフリーランス新法への対策を講じておくことが重要です」(眞壁氏)

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    フリーランス新法の施行から約1年。フリーランス事業者に業務委託をする企業は、本稿を参考にぜひ、改めて新法への対策を見直していただきたい。