スクラッチしたパーツにモールドを入れていく
安藤賢司 |
前回に続きスカルピーでCATMANの頭部を制作して、胴体の造形に突入していきます。やはり、ある程度の質感表現の必要性を感じたので、体毛のモールド入れることにしました。
元々アニメーションのキャラクターは、1枚1枚描いて動かすという作業の性質上、それを成す線の数は少ない傾向にあります。それ故に、描かれた線1本1本の情報量はかなりの重さになります。その辺りをよく考えて、注意深く立体の情報(それと個人の趣味も)を盛り込んでいきます。今回の場合は、顔全体に満遍なく毛のモールド入れるのではなく、緩急をつけます。例えば、光を当てて、明るくなるところは少なく浅く、影になる所は密集して深く、といった具合に心掛けながら、細目のスパチュラで黙々と、モールドを入れます。
筆で造形物にモールドを入れるという造形テク
前後しますが、毛の表現をつける前に全体の形出しを出来る限りきれいにやっておく事が大切です。表面のモールド入れてしまってからの形の修正すると、作り直しと同じ手間が掛かってしまうので……。納得できるレベルまでモールドを入れ終わったら、シンナーをつけた筆で撫でて、全体を整えます。
スカルピーはスパチュラ等の「手のなり」がはっきり残る素材です。それは、大変面白い特徴でもあるのですが、残りすぎると「味」ではなく「煩雑」になりかねません。それに焼き固めた時点で、サンドペーパー等をかけないで(大変かけ辛いディテールなので)、ほぼ仕上げとしなくてはならないパーツなので、焼く前に表面処理をしておく必要があります。
筆で撫でる時も、全体にまんべんなくではなく、それこそ筆で彫刻するつもりで整えていきます。明るいところは消し気味に、暗いところは残す感じに、と、いった具合にやはり緩急を付けていきます。例えば、撫ですぎてモールドが消えてしまっても、幾らでも入れ直せるので大丈夫です。この作業では、筆をスパチュラの一種のように使います。シンナーを筆につけるのは、シンナーでスカルピーが溶けるからです。これは、水粘土の表面を水で慣らすのと同じ理屈です。市販の模型用のシンナーには数種類ありますが、経験上、エナメルシンナーの溶け具合が一番良い感じがします(ラッカーシンナーだと溶け過ぎてしまいます)。ある程度、この作業が出来たら、オーブンに入れて焼きます。
完成したパーツをオーブンで焼く
造形時の持ち手として利用したアルミ線を丸めて土台にして、頭が床などに接触しないようにオーブンの中に入れます。私の使用しているオーブンの場合は、上下にヒーターがついているので、直接火が当たらないようにアルミ箔を被せています。当然、この時も頭部原型には触れないようにします。焼く温度、時間はスカルピーの説明書に書いてありますが、オーブンにも個体差があるので、こればかりは経験から丁度いい頃合を見つけ出すしかありません。焼きあがると、表面がつや消しになっています
胴体の造形に突入する
いよいよ胴体です。頭の大きさが決定したので、それを元に全身の造形を開始します。まず胴体の芯を作ります。やり方はいろいろありますが、今回はエポキシパテを胴体にして、そこにピンバイスで3mmの穴を開け、3mmのアルミ線を刺して手足のポーズを決めます。
ちなみに、アルミ線は園芸用の物が手に入りやすいです。
アルミ線とパテは、軽く瞬間接着剤で接着しておきます。瞬間接着剤を熱すると、膨張してクラックの原因になりやすいので、少量使うよう心掛けます。
この時点で、かなり慎重に等身や体形、ポーズを決めておかないと、スカルピーを盛り付けた後での修正作業がかなり面倒なものになるので注意が必要です。骨組みから、肉の付いた状態を想像しながらの作業は、容易なことではありません。
比較的失敗なく確実に行う方法は、模型と原寸大のしっかりとした絵の上で、直接骨組みを照らし合わせながら行うのがベストです。
作成した芯にスカルピーを盛り造形
前回も書きましたが、スカルピーは厚く盛りすぎると焼いた後にヒビが入りやすいので、ポーズの固定も含めて、肉付きを意識しながらパテを盛り付けます。
胴体の上部の方からスカルピーを盛り付け始めます。これは、頭に近い方から作った方が、全体のバランスが出しやすいからです。まず、肌、首の周りを盛って焼いてしまいます。先に完成させてある頭部も再び焼かれることになりますが、特に問題はありません。
さらに、シャツの部分を盛って焼きます。パーツが重なっている場合(今回は服の重ね着)は、当然下の方から作っていきます。
造形は本来、全身一度に作ってしまうのが楽しいのですが、せっかく焼けば固まり、上から盛れるという素材を使っているので、その恩恵を目いっぱい授かりましょう。今回はここまでです。
ちなみに、当初の予定よりやや大きくなって、大体1/8くらいのスケールとなっています。下の写真は今回の造形に使用した道具です。本当にこれだけの道具と材料で造形はできるのです。
次回も安藤賢司が神レベルの造形作法を惜しみなく披露!!