目標はIoTで農業分野の課題を解決すること
CF-Kは、2016年4月に誕生したばかりの新しい会社だ。IoTの分野で活躍すべく設立された若い企業だが、新卒から50代まで幅広い年代の従業員が所属。農大卒のIT技術者がいるなど、専門性が異なる人々の集まりであることも大きな特徴だ。
Webサイトには、つやつやと赤くおいしそうなイチゴの写真が掲載されている。これは同社がIoT技術を生かして、茨城県のイチゴ専業農家である村田農園とともに、おいしいイチゴを作るプロジェクトを展開しているからだ。
「IoTに特化した業務を行うため、代表の大金と2人でCF-Kを立ち上げました。イチゴを手がけることになったのは、大金が茨城の出身で村田農園さんとも面識がありましたし、農業分野にはIoTで解決できる問題があると考えたからです」と語るのは、CF-K取締役の山本文洋氏だ。
現代農業の課題としては大きく、人の不足、労働管理の問題、そして収益改善がある。業務効率化や自動化を活用するとともに、深夜・早朝業務の軽減や定期的な休日の設定といった労働管理の改善によって就労環境を改善することで、労働者不足を改善できるだろう。さらに、リスクの可視化により、新規就農のハードルを低減することが可能になるだろう。この辺りは、従来のITシステムが対応してきた部分でもある。
CF-KがIoTを活用して取り組んでいるのは収益改善の部分だ。収穫物の品質を向上させることで、単価を改善して収益を増加させることを狙っている。
「村田農園さんはもともと、ザ・リッツ・カールトン東京さんなどの有名ホテルや銀座千疋屋さんにイチゴを卸しているなど、日本でも有数のクオリティを誇るイチゴ専業農家です。しかし、使っている苗は普通にJAで購入できるもので、育て方で品質を向上させているのです。試行錯誤を重ねてこられたようですが、これまではノートに記録をとっていたそうです。それを、センサーなどを活用してより細かなデータを取得しつつ、データを可視化し、これまでの勘や肌感覚に頼っていた部分を明確な数値にするのが、われわれの取り組みです」と山本氏は語る。
大気の温度・湿度および、土壌の温度・水分量をセンサーで計測。さらに日照量センサーやCO2センサーも設置して光量やCO2量も測定する。また、カメラによって農業者の操作や作物の成長を記録しつつ、不法侵入者や害獣の監視も行う。CF-Kが、このシステムを運用する場として選択したのがAWS(アマゾン ウェブ サービス)だ。
コストの優先順位を下げても導入のメリットがあったAWS
「自社サーバでサービスを24時間365日運用保守することは難しいですし、いずれは広く展開するプラットフォームビジネスと考えていたので、システム基盤はクラウド以外考えていませんでした。問題はどこのクラウドを利用するかだったのですが、われわれのスキルセットや公開されている情報量を考えてAWSを第1候補としました」と山本氏。
複数のクラウドサービスベンダーを比較したところ、サービスの立ち上がりのスピード、デバイス接続の安全性、将来の展開を見込んだスケーラビリティ、長期間運用でのサービスの持続性、機械学習システム導入工数の軽減といった総合評価でAWSが上位になった。そして、最後の決め手となったのは営業担当者の熱意だったという。
「展示会でAWSの担当者に会ったのですが、展示会のブースにいる担当者が技術のことまで語れるというのが頼もしく感じられました。質問するとレスポンスも速い。話していても熱心さが感じられました」と山本氏は語る。
クラウド選定で焦点になることも多いコストは、月額料金では他社のほうが安価になることもあると知った上で優先順位を低くしたようだ。「先々を考えると利用者にとってよいサービスとして伸びてくれなければなりません。安価に利用できるサービスを用意したはいいけれど、ユーザー企業がいませんという状態では困るのです。そういう意味で、将来性も重視してAWSを選定しました」と山本氏は語った。
強力なビジネスパートナーマッチングも大きな魅力
導入前よりも利用開始後のほうが、AWSのメリットが強く感じられたようだ。その現れが、積極的なビジネスパートナーマッチングだ。
「IoTの分野は裾野が広く、さまざまな得意分野を持つ企業同士がコンソーシアムを組むことが重要です。ハードウェアからソフトウェアまで自社で展開することも可能でしょうが、それでは広がりが出ません。しかし、創業まもないベンチャー企業では人脈が少なく、ビジネスパートナーを探すことが難しい。それをAWSが補ってくれます」と山本氏。
AWSが開催する定期的なカンファンレンスなどでの出会いも多く、営業担当者も積極的にマッチングしてくれるという。ベンチャー企業同士や中小企業とのマッチングはもちろん、大手企業との出会いにつながることも少なくない。
「そうした出会いから、現在進めているのがBIMMS on AWS(仮称)という、中小製造業向けの総合情報管理システムです。金属パイプ加工を行う武州工業さんは月平均900種90万本を生産する多品種・少量生産の企業です。そのため生産管理や在庫管理が難しかったのですが、スター精密さんが提供する電池レス無線センサーを利用することで、配線工事などを行わずに生産状況をリアルタイムに把握できるようにしました」と山本氏は語る。
高価格帯作物を扱う農家や他業種へ幅広く展開
製造業向けソリューションというと、イチゴづくりとは遠く離れているようにも見えるが、生産管理という点で共通している。「社内には農大卒の社員もいますし、これからも農業分野に取り組んでいきたいと考えています。しかし、農業に特化した企業になるつもりはなく、さまざまな分野でIoTを活用していきたいですね」と山本氏は、今後の展開について話す。
もちろん、農業分野での横展開も考えられている。村田農園とのイチゴづくりプロジェクトは今後も大きく展開して行く予定だが、イチゴに限定せず、高価格帯の農作物を扱う農家への提供を考えているという。
「村田農園さんの場合、高品質なイチゴを増やし、直接取引を増やすことで収益が向上します。試算によれば、1%高品質なイチゴが増えればAWSの利用料やセンサーの料金が出てくるわけです。これと同じような計算が成立する高価格帯の果物などが導入しやすいと考えています」と山本氏。
農業分野においてIT活用は進んできている。特に若い世代の後継者が得られた農家では、世代交代とともにIT活用も活発になっている状態だ。CF-Kの取り組みはそうした農家に対して一歩進んだ技術活用を提供するほか、先進的な農家に対してIoTの活用を提案する。最終的にはノウハウを抽出し、収穫時期や収穫量の予測という農家の収益に大きく影響を与える部分について自動化や遠隔支援を行いたいという意向だ。