2016~2018年の拡大期を経て、日本では2020年にはRPAが普及期に入り、企業内での定型業務の自動化が進んだ。しかし、実際に自動化に取り組んでみると、クリアすべき「課題」も浮き彫りになってきた。

その背景には、自動化によってもたらされるメリットが正しく理解されていないことがある。2回目となる今回は、自動化に取り組んだ企業が抱いた「期待」と直面した「課題」について解説する。

単純作業の自動化が焦点になる日本

UiPathが今年5月に公開した「ビジネスオートメーションの活用状況と今後の展開についての調査 2023年版(英語名:Global Automation Generation 2023)」(英語)によると、日本で過去6か月間の仕事に満足感を持つ人の割合はわずか12%と世界最低水準だった。

その背景には職場環境、雇用形態、給与体系などさまざまな要因が考えられるが、やりがいを感じにくい単純作業の多さもその一つだろう。それならば、エクセルへの数値入力などの単純な手作業を繰り返す業務を自動化すればいいと思えるが、そう単純なことではない。

自動化の普及期における「期待」

自動化に対する期待は、単純作業から解放されることだ。

「本当に必要な仕事か」「本当に自分がやらなければいけない仕事か」と思えるような仕事を自動化することで、これまで単純作業に費やされていたマンパワーをより創造的な仕事へとシフトできたり、より多くの仕事をこなせるようになったり可能になり、一人当たりの生産性が向上する。従業員が「やりがい」を感じることで、おのずと従業員満足度も高まっていく。

自動化の普及期における「課題」

一方で、新たな課題も顕在化する。それは、特に定型業務が多い職場において、仕事の大半を占めていた単純作業を自動化すると耳にした従業員が「自分のポジションがなくなるのでは」と不安を抱くケースがあり、それをいかに払拭するかということだ。

不安を払拭できないままでは、いくら経営層自らが自動化の旗振りをし、業務を改善して生産性を高めてDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現しようと声高に呼びかけても、現場は動かない。

こうした企業では、「自動化できる可能性の高い業務の選定」以前に、自動化に対するポジティブな機運を醸成しづらい状況にあった。

自動化を「どう活用できるか手探り」の人も

このように自動化には「期待」と「課題」があるのだが、日本では「期待」をしている人の割合は意外と多いことも事実だ。

前述のUiPathが行った調査によると、日本では「自動化によって仕事がより良くなると思うか」という問いに「そう思う」という回答が半数近くに達した。ただし、調査対象となった他国と比較すると、「そう思わない」、もしくはどう活用できるか手探りで「わからない」という回答が最多で、積極性は薄いという見方もできる。

その背景・理由を探ってみると、「どのような業務が自動化できるのかがわからない」「自動化することでどのようなことが可能になるのか」をわかっておらず、「自動化のメリット」を認知するに至っていないことが明らかになった。

真の自動化のメリットは、生み出された時間や人員を企業・組織としてより創造性のある仕事に振り分け、新たなビジネスや事業を生むことにある。

このような自動化の本来の意味合いを正しく理解することは、先に説明した自動化に対する課題を解消することにもつながる。具体的には、担当していた単純作業を自動化することで自分のポジションがなくなるのでは、という不安を抱く従業員のリスキリングを後押しし、本人の希望を考慮した上で、新たなアイデア創出やビジネスにかかわってもらうことが大切だ。

自動化のメリットを正しく理解・浸透させるためには

では、なぜ自動化の本当のメリットが正しく浸透していないのだろうか。そこには、日本企業独特の業務の経路依存性があるといえる。

経路依存性とは、前任者の業務を当たり前のように後任者が引き継ぐことを意味する。つまり、改善を含めた業務プロセスの変更提案が難しいのだ。改善提案ができたとしても、新しい業務プロセスでミスが起きた場合に「誰が責任を取るか」といった問題がつきまとう。

職場における経路依存性を打破するには、抜本的な業務プロセスの見直しが必要だ。現在のプロセスを見直し、無駄な作業などを洗い出すプロセスマイニングと、それに基づく業務プロセスの再構築が不可欠だ。その上で、「この業務を自動化することで、業務が改善され、●●という新たな業務を行おう」ということを組織内で共有することが大切になる。

こうした取り組みを実践するには、個人や一つの部署だけが高い意識を持って取り組んでも限界があるだろう。鍵を握るのは、第1回目でも言及した関連する他の部署・部門との調整役となるCoE(センター・オブ・エクセレンス)の存在だ。

CoEが中心となってプロセスマイニングから業務プロセスの再構築に取り組むことで、自動化を理想の形で進めていける。このような状況で、重要な役割を担うのが、われわれが「市民開発者」と呼ぶ人々で、次回以降に詳細を紹介する予定だ。

著者
UiPath株式会社 プロダクトマーケティング部 部長 夏目 健
UiPath株式会社 ソリューション本部 テクノロジー&ストラテジー部 部長 梶尾 大輔