欧州の「アリアン5」ロケットは、世界の代表的なロケットの1つである。弊誌の読者であればもちろんご存じだと思うが、それでも実際に打ち上げを見に行ったことがあるという人は少ないだろう。今回、運良く現地で取材する機会を得ることができたので、これから随時、レポートしていきたいと思う。

  • アリアン5ロケット

    アリアン5ロケット (C) ESA/CNES/Arianespace/Optique Video du CSG - P Baudon

アリアン5ロケットとは

まずは、アリアン5ロケットについて、簡単に説明しておこう。アリアン5は、欧州の基幹ロケットとして、ESA(欧州宇宙機関)が開発した大型ロケットである。初飛行は1996年。初号機こそ飛行中に大爆発したものの、その後の失敗は2002年の1回だけ。以降は成功を続け、これまでに打ち上げた数は99機。ちょうど、今回が記念すべき100機目となる。

この高い信頼性を武器に、現在の商業打ち上げ市場において、最も大きなシェアを握っているのがアリアン5だ。今回の打ち上げ「VA243」で搭載するのも民間の通信衛星。スカパーJSATとインテルサットの「Horizons 3e」と、Azercosmosとインテルサットの「Azerspace-2/Intelsat 38」で、これがアリアン5で打ち上げる206機目と207機目の衛星となる。

アリアン5の打ち上げ能力は、低軌道(LEO)に20トン、静止トランスファー軌道(GTO)に10トン。日本の「H-IIA」ロケットと比べると、ざっくり2倍と非常に強力で、今回のように、2機同時打ち上げが標準になっているのが大きな特徴だ。ロケット1機の値段が高くとも、衛星を2機搭載すればコストは半分。これで、高い競争力を実現しているわけだ。

  • 前々回の打ち上げ

    前々回の打ち上げも、デュアルローンチだった (C)ESA

打ち上げの場は仏領ギアナ

ロケットについては追々触れるとして、次は射場についても説明しておこう。冒頭で「見に行った人は少ない」と書いたが、それは射場に辿り着くまでの難易度がかなり高いためだ。アリアン5が打ち上げられるのは、赤道直下の南米・仏領ギアナ。ここは南米に残っているフランスの海外県で、面積は北海道と大体同じくらいだ。

アリアン5は欧州で製造されたあと、仏領ギアナ・クールーにあるギアナ宇宙センターまで輸送され、そこで最終組立が行われる。なぜわざわざ南米に射場を作ったのかというと、赤道上だと、静止衛星の打ち上げに都合が良いからだ。

たとえば日本の種子島は北緯30°くらいの場所にあるので、そこから普通に打ち上げると、軌道面はそれだけ傾いてしまう。しかし目標の静止軌道は赤道上空にあるので、この傾きを修正するためにエンジンの噴射が必要になり、その分の燃料を余分に搭載しないといけない。赤道上からだと、この必要がなく、ロケットの性能を最大限発揮できるのだ。

ギアナに行く際の注意事項

しかしロケットには都合が良くとも、日本から見に行くにはかなりハードルが高い。遠くて大変というのはもちろんだが、熱帯気候ならではの病気にも注意が必要だ。

事前に用意する必要があるのが、黄熱病の予防接種証明書(いわゆるイエローカード)だ。仏領ギアナへの入国には、黄熱病の予防接種が義務づけられていて、イエローカードの提示が求められる。日本ではすぐに接種できない場合もあるため、日程には余裕を持って行動するようにしたい。

そしてマラリアにも注意が必要だ。マラリアは、速やかに薬を飲んで治療しないと、命を落とすこともある恐ろしい病気。マラリア原虫を媒介する蚊に刺されないことがまず重要なので、虫除けスプレーを持って行くのがオススメだ。ちなみに筆者はすでにマラリアに感染したことがあるのだが、3kgほど痩せてなかなか大変だった記憶がある。

さて、記念すべき100回目のアリアン5の打ち上げであるが、今のところ、9月25日18:53~19:38(仏領ギアナ時間)に実施される予定。そうそう何度も気軽に来られる場所ではないので、なるべく良い天気でスッキリ打ち上がって欲しいところだ。

ところで筆者は現在(9月22日夕方)、乗り換えの香港国際空港の電源コーナーにて、この原稿を書いている。深夜発の飛行機でパリへ向かい、1泊したあと、パリからさらに9時間のフライトで仏領ギアナに到着する予定だ。ギアナ宇宙センターへの道は遠い。

  • 香港で乗り換え10時間

    香港で乗り換え10時間。泣ける

(次回に続く)