宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)は7月1日、同日打ち上げたH3ロケット3号機について記者会見を開催、結果について報告した。発表によると、搭載した先進レーダー衛星「だいち4号」(ALOS-4)は、所定の軌道への投入を確認。打ち上げは成功した。H3ロケットの成功は2機連続、成功率は50%から67%に向上した。
だいち4号の状態は正常。太陽電池パドルの展開、太陽捕捉制御の実行などが確認され、順調に運用が進められている。だいち4号は、現在軌道上で運用中の「だいち2号」の合成開口レーダー(SAR)ミッションを引き継ぐ観測衛星。だいち2号からは、観測幅が4倍に強化されているのが大きな特徴だ。
H3ロケット3号機は「ほぼ完璧な成功」
JAXAの山川宏理事長は、だいち4号について、「日本が長年培ってきたSAR技術の強みを生かし、自然災害での迅速な対応のほか、地殻・地盤変動、火山活動の異変の早期発見、森林資源や農作物資源の把握などに貢献していく」とコメント。「ユーザーの皆さんにできる限り早く観測データを配布できるようにしたい」とした。
H3ロケットは、今回が「試験機」の名称が取れた初の運用機だった。大事な衛星を所定の軌道に投入するという大役を果たし、幸先の良いスタートを切ることができた。これについて、「日本の基幹ロケットとして、自立性の維持と国際競争力の確保がH3の大きな目的」とした上で、今回の成功は「大きな一歩だった」と評価した。
だいち4号の開発を率いたJAXAの有川善久氏は、H3ロケットを使ってみた感想として、「ユーザーフレンドリーだった」とコメント。だいち4号は、前任のだいち2号と同じ軌道面で運用する計画であるが、今回、高い精度でその軌道に投入してもらったことで、「だいち2号との連携がやりやすい」と喜んだ。
JAXAの有田誠H3プロジェクトマネージャは、初号機の打ち上げ失敗で「だいち3号」を喪失したとき、その日のうちに衛星側の関係者に謝罪し、「H3を必ず立て直すと誓った」という。今回、無事にだいち4号を軌道に送り届け、「その約束が果たせて、ほっとしている」と、安堵の表情を見せた。
だいち3号もだいち4号も、開発を担当したメーカーは同じ三菱電機だった。MHIの志村康治H3プロジェクトマネージャも、「衛星を分離したあと、三菱電機の人たちと握手できたのがとても嬉しかった」と、笑顔を見せた。
H3ロケット3号機は、打ち上げの16分34秒後に衛星を分離。その後、地球を1周したところで第2段エンジンの2回目の燃焼を行い、第2段の制御再突入にも成功した。有田プロマネによれば、「ロケットとしてはほぼ完璧な成功」だったという。
今回のフライトでは、H3ロケットとして初めて、第1段エンジン「LE-9」のスロットリングを実施した。この結果については、飛行中のエンジン燃焼圧の変化で確認。燃焼フェーズの終盤に、計画通り、5秒かけて推力を100%から66%に下げ、そこから20秒間維持できていたという。
スロットリングは、推進剤が減って重量が軽くなる終盤に、加速度の増加を抑え、衛星への負荷を軽くするために実施される。LE-9エンジンを3基搭載する30形態では、必須とされる機能。ブースタを使わない30形態は、H3のコストダウンの切り札である。それに向けて、この成功は大きな前進だったと言えるだろう。
ただ、有田プロマネによれば、30形態を実現させるためには、まだ課題が残っているという。日本のHシリーズはこれまで、液体の第1段エンジン+固体のロケットブースタというスタイルで一貫しており、液体エンジンのみで飛ぶロケットは初めて。「システムとしては全く新しいチャレンジ」(有田プロマネ)なのだ。
ここで重要となってくるのは、3基のLE-9エンジンの推力を同時に出すことと、十分な推力が立ち上がるまで飛び上がらないよう、ホールドダウンシステムで機体を発射台に固定しておくことである。H3は当面、22形態で運用していく予定だが、LE-9のフライト実績が増え、信頼性がより高まっていくことが、30形態の実現にもつながる。
今後も改善が続くH3ロケット
商業打ち上げの市場では現在、米SpaceXが圧倒的な強さを持っており、競争は熾烈。H3はこれから、成功を続けて高い信頼性を示すしかなく、有田プロマネも、「連続成功あるのみ」と、力を込める。
お手本となるのは、やはりH-IIAだろう。H-IIAは2003年11月の6号機が失敗したものの、現時点で、失敗はこの1機のみ。以降、2024年1月の48号機まで、20年に渡って成功を続けている。H-IIAは商業打ち上げではあまり実績を残せなかったものの、オンタイム打ち上げと、信頼性の高さでは世界屈指。これをH3でも引き継げるかがポイントだ。
その連続成功の第一歩となったのが、今回の3号機である。打ち上げ前のプレス向けブリーフィングで、「H3は2号機が成功し、システムとして宇宙に行けることを1回は証明したが、これがまぐれでないことを証明しなければならない」と、3号機の意義を語っていた有田プロマネだが、まずはそれをしっかり証明した形だ。
気になる次の4号機は、防衛省のXバンド通信衛星「きらめき3号」を搭載することが決まっている。打ち上げ時期は調整中だが、開発が遅れたH3は打ち上げ待ちの衛星も多く、今年度中であることは間違いない。機体は3号機までと同じ22形態となるが、4号機はH3としては初めて、静止衛星の打ち上げとなるのが注目ポイントだ。
H3にはそのほか、ブースタが4本に強化される24形態もある。こちらは今のところ、新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」の打ち上げで初登場となる可能性が高い。
ところで、3号機に搭載されたLE-9エンジンは暫定的なタイプ1A仕様。今回、スロットリングに成功しており、30形態はタイプ1Aでも実現できるそうだが、エンジンの開発はまだ続いており、今後、完成形といえるタイプ2仕様が登場する予定だ。
タイプ2では、液体水素ターボポンプ(FTP)と噴射器(インジェクタ)が変更される。FTPは従来、タービンの疲労を抑えるために性能を少し犠牲にしていたが、タイプ2ではこの問題を完全に解決する。インジェクタは、満を持して3Dプリンタ製を投入。3Dプリンタを使うことで、LE-9は大きなコストダウンが期待される。
6月~7月に、種子島ではこのタイプ2エンジンの仕様を選定するための燃焼試験が実施中。最有力候補のFTPとインジェクタが搭載されており、性能の確認が行われている。有田プロマネによれば、どちらも良さそうな結果が得られているとのこと。今後、フライトで使われる前には、改めて認定型エンジンによる燃焼試験を行うということだ。