ここまで過去5回に渡って、無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)に関連する技術的な話題をいろいろ取り上げてきた。最近では、報道の場面でカメラ・プレーンとして使う、あるいは物流の末端を引き受ける配送手段として使う、といった話がしばしば話題になっているが、さて、UAVはどこまで「使える」ものだろうか。

そこで、利用が先行している軍用UAVを例にとって、「UAVでもこなせる任務」「UAVがこなすのは難しい任務」について考察してみよう。

出たとこ勝負の度が増すほど難しい

基本的には、事前にプログラムしておけるような内容の任務、あるいはその場その場で「出たとこ勝負」の判断が求められない任務はUAVで実現しやすいと考えられる。

たとえば、業界用語でいうところのISR(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)、要するに監視・偵察任務がそれだ。UAVにカメラや画像赤外線センサーを搭載して地表の状況を撮影させて、それを動画で送ってきて実況中継する使い方は、すっかり普及した。長時間の滞空が可能なUAVは、こうした用途であれば、むしろ有人機より都合がいいかもしれない。

ただし、センサーが映し出したものが何者なのかを判断したり、敵味方の識別をしたりする場面になると、全面的にコンピュータ任せにはできない。だから、地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)の前に座っているセンサー・オペレーターが映像の内容を見て、判断を下さなければならない場面はなくならないと考えられる。

そこで面白いのが米海軍の洋上哨戒構想だろう。広域・常続監視はUAVの仕事として、RQ-4グローバルホークから派生したMQ-4Cトライトンを使う。そこで何か怪しいものを見つけたら、有人哨戒機のP-8Aポセイドンが駆けつけて対処する。

実際、たとえば不審船を見つけたときに、それが不審かどうかを判断するのは、コンピュータには荷が重い仕事だ。艦船の識別写真を覚え込んで、さらに経験を積んでカンを働かせられる領域に達した人間が相手だと、コンピュータでは太刀打ちできない。筆者の口癖だが、コンピュータはカンピュータになれない。

攻撃用途は場合による

最近、戦闘任務に使用するUAV、つまり無人戦闘用機(UCAV : Unmanned Combat Air Vehicle)が話題になっている。ところが、戦闘任務に使うのならみんなUCAVだろうといって、ISR用途のUAVに対戦車ミサイルを積み込んで攻撃任務にも対応可能にした機体まで、UCAVに分類する人がいる。

だが、それはいささか乱暴だと思う。確かに米軍ではMQ-1プレデターやMQ-9リーパーといったUAVに対戦車ミサイルを積み込んで攻撃任務に充てているが、この手の鈍重な機体が攻撃任務を行えるのは、敵がまともな防空システム(対空砲とか地対空ミサイルとか)を持っていない場面だけだ。つまり不正規戦や非対称戦なら使えるが、戦闘機に取って代わることはできない。

そこで、もっと生存性を高めた機体が必要ではないかということで、ジェット推進にしてステルス化を図った、たとえば米海軍のX-47Bみたいな機体が出てきてはいる。

米海軍のUCAV技術実証機・X-47Bが、原子力空母「セオドア・ルーズヴェルト」から発艦するところ(Photo : US Navy)

すでにX-47Bは空母からの発着艦試験を成功させるところまで来ているが、戦闘機に代わって戦闘任務に投入するには、まだまだ越えなければならないハードルが多い。

状況認識と判断の難しさ

そもそも、無人の機体に戦闘任務を任せてしまってよいのか、という問題が先にある。

有人機なら、パイロットに対して「この任務に適用する交戦規則はかくかくしかじか」と周知徹底してから送り出す。そしてパイロットは、自機の周囲の状況を常に認識しながら任務飛行を行い、交戦規則に照らして問題ないと判断すれば交戦する。

ところが、UAVだと人が乗っていないわけだから、その「自機の周囲の状況を常に認識」からして実現できない。機体にカメラを付けて実況中継させるにしても、全周の状況を一度に送ってこられるものでもない。よしんばデータ量的に可能になったとしても、それをGCSの前にいるオペレーターに対してどう見せるかという課題が残る。

また、「自機が攻撃されたら反撃してもよろしい」という交戦規則を適用したとする。有人機なら、パイロットが自機の周囲を見張っていて、自機が発砲されたり、自機に向けてミサイルが飛んできたりすれば「自機が攻撃された」と判断できる。それと同じことをUAVの機上コンピュータが、あるいは遠く離れたGCSの前にいるオペレーターがこなせるか。

またもや筆者の口癖だが、コンピュータに勝手に戦争を始めさせるわけにはいかない。交戦規則を頭に入れた人間が、「撃つ・撃たない」の判断をしないといけない。それをコンピュータにやらせようとした場合、そもそも実現可能なのかという話だけでなく、責任の所在をどうするかという問題がついて回る。

オペレーターに判断させれば、その問題は回避できる。しかし、的確な判断を行えるだけの、充分な情報をオペレーターにもたらすことができなければ話にならない。

また、戦闘機の任務、とりわけ空対空の任務は「出たとこ勝負」の部分があるから、事前にプログラムした通りにやれ、というわけにも行かないし、ラジコン操作でも有人機と同じようにはできないだろう。そして、戦闘任務以上に、平時の対領空侵犯措置は無人化が難しい。デリケートな判断を求められる部分が多いからだ。

こういった諸々の事情を考慮すると、有人戦闘機の任務がUCAVが取って代わられるような事態は、予見可能な将来の範囲内では起きないのではないか。

社会的・制度的問題

ここで指摘しておきたいのは、「技術的に実現可能」というだけでなく、「社会的・制度的に実現可能」というハードルがあるという点である。

もしも将来、人工知能みたいな技術が進化して、出たとこ勝負の戦闘任務に対応可能なUCAVが登場したとする。しかし、それが社会的に受け入れられるかというのは、また別の問題である。技術的に可能であっても、心情的な部分で拒絶反応が生じるのは、他の分野でもチョイチョイ見かける話だ。

また、UAVによって失職させられかねない立場に置かれるパイロットからの反発、という問題も無視はできない。ことに「空軍」という組織ではパイロットが第一級市民である。その第一級市民の立場を危うくしかねないようなものを、すんなりと受け入れてもらえるだろうか。疑問である。

制度的問題というのは、たとえば先に挙げた交戦規則に基づく判断の話である。交戦規則というのは決して単純なものではないし、時期・場面・状況によって変動することもある。それをいちいち機体にプログラムして、機上コンピュータに判断させることができるのか。正しい判断ができるという保証がでこまでできるのか。

また、コンピュータに判断させるシステムができたとしても、そのための試験・評価はどうすればいいのか。そしてもちろん、判断に失敗したときの責任の所在はどうするのか。こういう課題をクリアできなければ、UCAVの機上コンピュータに「お任せ」するわけにはいかない。

この「技術的に可能になったとしても、それが社会的・制度的に受け入れられるかどうかは別」という問題は、民間分野におけるUAVの利用にも同様について回るのではないかと考えられる。技術の進化だけが先行して、社会が置いてけぼりを食うのは、よくある話である。そこで技術屋さんの論理だけを押し通すと、たいていフリクションが起きる。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。