普段の業務とは別に、上司や経営層への報告・説明、取引先への商品説明、新入社員研修など、プレゼンをする機会に恵まれることもあるでしょう。普段の業務でプレゼンを行っている場合、資料作成はお手の物かもしれません。しかし、あまりスライド作りに慣れていない場合、この資料作成は非常に大きな負担となる作業です。→過去の「柳谷智宣のAIトレンドインサイト」の回はこちらを参照。
私はライターですが、時折、最新のIT技術や活用事例に関してセミナーの依頼を受けることがあります。これまで、そうした際のプレゼン作成に膨大な時間を費やしてきました。慣れないPowerPointを使用し、できるだけ満足いただけるようデザインをいじくり回してきました。
しかし、私にはデザインセンスがないため、どうしても見た目が格好悪くなってしまいます。スライドごとに細部をいじくり回すため、全体として統一感がなくなることもあります。
テンプレートを使用すれば良いのですが、自分が書きたい内容を入れるとデザインが崩れてしまうため、内容をテンプレートに合わせるという本末転倒な事態も生じていました。しかし、生成AIが登場したことで、一気に状況が変わりました。プレゼン資料作成の上流から下流まで、AIに作成してもらえるようになったのです。今回は、スライド生成AI「イルシル」について詳しく解説します。
1行のプロンプトから高いクオリティのスライドが生成できる
イルシルは、2022年7月にリリースされた国産のスライド資料作成サービスです。デザインスキルがなくてもわかりやすい資料を作ることができるのが特徴。日本に特化しているスライドデザインテンプレートを1000種類以上も使えます。
そして2025年2月、イルシルのユーザー数が15万人を突破しました。一重に、日本のビジネスパーソンに特化した機能とUIが受け入れられたのだと思います。実際、筆者はさまざまなところに取材に行くのですが、イルシルで作ったと思われる資料に出会うことも増えてきました。
生成AIを利用し、少ない情報からでもスライドを作れます。何なら、プレゼンタイトルだけでも作成できるのです。試しに「AIスキルを身に着けて業務スピードを加速しよう!」というプレゼン資料を作ってみましょう。
イルシルのメイン画面から「AIスライド生成」をクリックし「キーワードからスライドを生成」をクリックします。特に追加情報なく構成を生成し、本文を生成してみましょう。それぞれ数秒待つだけで、15ページものスライドが生成されました。
タイトルページなどにはイメージ画像が配置され、それぞれのページは内容に合わせてデザインされています。必要に応じて、内容に合ったアイコンも入っており、とても見やすいです。
この手軽さで、このクオリティのスライドができるというのは驚きです。とは言え、このままではビジネスで使えないでしょう。内容にオリジナリティがなく、ふわっとした内容になっているのです。生成AIがゼロから作る文章は抜け漏れなく網羅性は高いのですが、具体性に欠けている印象があります。
時折、ハルシネーションも起きており、生成AI御三家を紹介するところに「ChatGPT」「Gemini」「Claude」以外のサービスが入っていたりと内容がおかしいところもあります。しかし「AIスキルを身に着けて業務スピードを加速しよう!」しか入力していないのですから、当たり前のことです。
他の生成AIで内容を詰めてからイルシルでスライドを作成する
イルシルの生成AIも賢いのですが、やはりChatGPT Proなどハイエンドの生成AIモデルにはかないません。プレゼンの構成案は別の生成AIで作成し、その構成をもとにイルシルでスライドにしてもらうこともできます。
ChatGPTなどで資料の骨子を作る場合は、まずは入れたい情報を入れたプロンプトでたたき台を作り、それを見てブラッシュアップさせます。何度やり直しさせてもいいので、ここ時点でそこそこのレベルまで作ってもらいましょう。
今回は、ちょっと多めに40枚のスライドを作ってみます。ChatGPT Proで何度かブラッシュアップした構成案をWordなどに貼り付け、さらに自分の目でさらにチェックします。AIは入力された指示に従うので、ここが適当だと望む出力を得られません。
構成が固まったら、イルシルで新規スライドを作り、「メモからスライドを生成」を選択し、作成した構成案を貼り付けます。
全ページ文のタイトル、メッセージ、ヘッダー、ボディが作成されるので、確認したら「スライドに反映」をクリックします。あとは少し待つだけで、プレゼン資料が完成します。
キーワードから作成した時と同じく、イメージ画像が挿入されていたり、見やすいデザインに整理されています。構成をきちんと入れているので、すべてのページでテーマ通りの内容になっています。勝手にページが追加されていたり、削除されることもありません。
AIが考えてデザインしてくれているものの、例えば3項目あるページなのに、バランス悪く配置されていることもあります。そんな時は、ページ下の提案から他のデザインに変更できます。
イチからスライドを作ることもできるしPowerPoint形式でダウンロードすることもできる
PowerPointのようにイチから要素を追加し、スライドを作ることもできます。イルシルのテンプレートで対応できないイレギュラーなスライドを作る際に活用しましょう。配色を合わせた図形やグラフなどを追加したりできるので便利です。
イルシルの初期設定では、淡いグリーン系統の配色になっており、とても見やすいです。実際、このまま使って問題ないのですが、細かく見た目を変更したいと言うこともあるでしょう。そんな時は、「テーマ」をクリックし、テーマや配色、フォントなどを変更できます。
スライドはオンラインで表示できます。プレゼン用に発表者モードで再生することも可能です。もちろん、PowerPointやPDFファイルでダウンロードすることも可能です。
ただし、PowerPoint形式で利用する場合は、イルシルのWebサイトからフォントファイル「irusirufontpackage.zip」をダウンロードし、インストールしておく必要があります。この作業は初回のみでOKです。
2024年11月に、チャット機能でスライドAI生成できるようになりました。ChatGPTのようにチャット機能でやり取りしてスライドを作れるのですが、そこまで賢くなく、今のところ「AIスライド生成」を使う方が、全体をコントロールしやすいです。
時短になる「イルシル」は月1回使うだけでもお得
イルシルを使えば、40枚ものスライドでもあっという間にできてしまいます。もちろん、AIが生成した本文は修正が必要なケースも多いでしょう。とは言え、構成は自分で作っているのですから、それほど手間はかかりません。
最初から統一されたデザインでこの内容を作るのであれば、筆者ならまる1日あっても足りません。そもそも、このクオリティのスライドを作ることができません。AIの恩恵はとてつもなく大きいのです。
気になる価格は、パーソナルプランが月額1848円(税込)、ビジネスプランが月額3278円(税込)です。無料プランもありますが、スライドショー時にイルシルのロゴが表示されたり、PDFやPowerPointファイルのダウンロードができません。作成できるドキュメント数も3個までなので、使い勝手を試すプランと考えたほうがよいでしょう。
パーソナルでは、メンバー招待ができず、構成AI生成で入力できる文字数が3000文字となっていますが、ビジネスでは無制限にメンバー招待できるうえ、AIに1万文字まで入力できます。また、ビジネスプランでは請求書払いも可能となっています。
どちらにせよ、月に1回でも使う機会があるなら、時給換算すれば余裕でペイすることは間違いありません。無料プランも試用プランもあるので、スライド作成に悩んでいる人は、ぜひイルシルを試してみることをおすすめします。