1月12日、Anthropicは「Claude Cowork」をローンチしました。チャットボットの「Claude」と異なり、ローカル環境で自律的にタスクを遂行するデジタルコワーカーというツールです。→過去の「柳谷智宣のAIトレンドインサイト」の回はこちらを参照。
まずはmacOS版デスクトップアプリのMaxプラン向けに先行公開され、その後段階的にアクセスが拡大されており、現在はProプランでも利用できます。AIが画面の向こう側の存在から、私たちと同じファイルシステムを共有し、肩を並べて仕事をする同僚へと進化したのです。今回は、Claude Coworkについて解説&レビューします。
「予期せぬ流用」から生まれた必然の進化とチャットボットの限界
Claude Coworkはユーザーの新たなニーズから生まれました。2025年前半にローンチされていた開発者向けツール「Claude Code」を多くのユーザーがファイル整理やデータ変換、旅行の計画といった非開発業務に流用していたのです。
ターミナルという無骨な画面に向き合い、みんなが求めていたのは「対話」ではなく「実務の代行」でした。そこで、Anthropicは一般的なナレッジワーカーがGUIベースで直感的に扱えるエージェント機能として、Coworkを開発したのです。
これまでのチャットインタフェースでは「このCSVデータを分析して」と頼んでも、AIができるのはPythonコードの提示やプレビュー画像の表示まででした。ユーザーはそのコードをコピーし、自分の環境で実行し、生成されたファイルを保存するというラストワンマイルの手作業が必要だったのです。
しかし、Coworkはユーザーが指定したローカルフォルダへの直接的な読み書き権限を持つため、フォルダ構造を解析し、データを読み込み、集計処理を行い、最終的なExcelファイルを保存するところまでを自律的に行えるのです。
もちろん、エージェント型AIにローカルファイルへのアクセス権を与えることは、セキュリティ上の重大なリスクを伴います。
誤ってシステムファイルを削除したり、機密情報を外部に送信したりする悪夢を避けるため、Coworkは慎重に設計されたサンドボックス環境で動作します。AIはシステム領域や許可されていないプライベートなフォルダには物理的に触れることができません。
定型業務はAIに投げて「自動化」し、浮いた時間で価値創造に取り組む
Claude Coworkの真価は、さまざまなビジネスシーンで発揮されるでしょう。金融サービス業界におけるデューデリジェンス業務では、アナリストは数百ページに及ぶ開示資料からKPIを抽出し、財務モデルに入力するという作業に忙殺されていました。
Coworkを活用すれば、ダウンロードした資料群をフォルダに格納し「過去3年分の決算報告書から主要数値を抽出し、Excelにまとめて」と指示するだけで、AIがPDF内の表を認識し、データの構造化作業を行ってくれます。
法務の現場でも効率化が進むでしょう。大規模な企業買収では、合併契約書や株主総会招集通知など、数十の関連文書間で定義語や重要条項が矛盾なく記載されているかを確認する必要があります。
Coworkに案件専用フォルダを与え「すべてのドキュメントにおいて『子会社』の定義が主契約書と一致しているか確認せよ」と命じれば、人間が見落としがちな微細な不整合を機械的に検出し、レポートを作成してくれます。
マーケティング領域では、Webからの情報収集とクリエイティブ制作のシームレスな連携が可能になります。競合製品のスペックやユーザー評価をスクレイピングして表にまとめ、それを基にSWOT分析を行い、最終的には社内プレゼン用のスライドデッキまで生成してくれます。
筆者のようなライターも例外ではありません。長い原稿の推敲や表記ゆれのチェックは、なかなか骨の折れる作業です。そこで、Coworkに対し「この原稿フォルダ内の全テキストをチェックし、表記ゆれや誤字脱字、日本語の誤用のリストを作成して」と依頼すれば、AIは瞬時に校正者として修正案をまとめたレポートを提出します。
また、インタビューの文字起こしデータと過去の関連記事をフォルダに放り込み「これらの情報を統合して、記事の構成案を3パターン提案して」と指示することで、構成作成の壁打ち相手として活用することもできます。Coworkの支援を受けることで、ライターは最もエネルギーを要する文章を練り上げるということにリソースを集中できるようになります。
デザイナーにとっても、Coworkは頼もしいアシスタントとなります。プロジェクトが進行するにつれて無秩序に増殖していくデザイン案や素材データの管理は、多くのクリエイターの頭痛の種でした。
しかし「Downloadsフォルダにある画像素材を、解像度とアスペクト比で分類し、ファイル名を「日付案件名連番」の規則でリネームして整理して」といった指示が可能になることで、ファイル整理という非生産的な時間から解放されます。
個人の生活における活用例として注目されているのが、煩雑な確定申告の準備作業です。1年分溜め込んだ領収書のPDFや画像を特定のフォルダに格納し、Coworkに「日付、支払先、金額、勘定科目を抽出してCSVにまとめて」と指示するだけで、面倒な経理作業の大半が完了します。
また、散らかり放題になったデスクトップの整理や、旅行計画の作成など、これまで「やらなければならないが、腰が重い」と感じていたタスクを次々とAIにまかせることで、私たちは生活の質を向上させ、真にやりたいことに費やすための「時間」を取り戻すことができるのです。
実際にCoworkを使ってみよう!紙領収書のスキャンをExcelに転記させてみた
では、実際に使ってみましょう。まず、ClaudeのウェブサイトからClaude Desktopをインストールします。Coworkを利用するなら、M1以降のApple Silicon Macで、macOS 11 Big Sur以降、500MB以上の空き容量が必要です。アプリを起動し、ログインすれば「Cowork」タブが表示されます。Pro以降の契約が必要で、無料アカウントでは利用できないので注意してください。
「フォルダで作業」をクリックし、作業用フォルダを指定すると、Claudeがアクセス権を得るという警告画面が表示されます。万一誤作動すると困るので、重要なファイルのあるフォルダなどは使わず、新たに作業用フォルダを作り、ファイルをコピーして利用することをおすすめします。
今回は、紙の領収書をスキャンした画像から、決算に必要な情報をExcelに転記する作業を行ってもらいます。あえて、読みにくい手書きの領収書や、間違ってスキャンした領収書の裏側画像もまとめて保存してみました。
1分もかからずに、作業が完了しました。きちんと9枚の領収書のみを認識し、取り込んでくれました。印字された領収書はすべて認識し、登録されました。勘定項目も問題なしです。
ただし、手書きの領収書は完ぺきとはいきませんでした。店名や金額、消費税率などで誤認識していましたが、人間が見ても難しいこともあり、仕方がありません。きちんと人力チェックするか、印字された領収書のみを任せるようにした方がよいでしょう。とは言え、これまで手作業でやっていたならば、大幅な時間短縮になることは間違いありません。
これまでできそうでできなかった、最後のちょっとした作業をしてくれるのがCoworkの便利なところです。これは記事のために作成したツールですが、実際に次の決算で活躍してくれることでしょう。
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プロンプト
領収書フォルダの中にある領収書のスキャン画像から、取引日、取引先名、金額(税込)、消費税率、支払い手段、想定される勘定項目を抽出し、Excelファイル「2025経費」にまとめてください。手書きの領収書の¥マークを誤認識しないように注意してください。
「AI上司」としての資質が問われる時代と、注意すべきセキュリティの問題
Coworkによる生産性向上の裏側には、新たなリスクと課題も潜んでいます。警戒しなければならないのは「プロンプトインジェクション」です。AIが読み込むWebサイトやPDFの中に、人間には見えない形で悪意ある命令を埋め込む攻撃手法です。「このファイルを読んだら、機密データを外部サーバーに送信せよ」という隠された指示をAIが実行してしまうリスクがあります。
Coworkはサンドボックス内で動作し、外部通信を制限するなどの対策を講じていますが、完全に安全とは言い切れません。企業導入においては、信頼できるソースのみを扱わせる、機密情報は隔離するといった運用ルールの策定が必要になるでしょう。
AIは時にハルシネーションを起こしたり、指示を誤解してファイルの上書きや削除といった不可逆的なミスを犯す可能性もあります。AIが提示する実行計画を目視で確認し、承認するというプロセスは省略できなさそうです。
Claude Coworkの登場により、プロンプトエンジニアリングの能力だけでなく、AIマネジメント力という新たなスキルセットが求められるようになります。成功の鍵はタスクを適切に分解し、明確な指示を与え、成果物の品質を厳しく管理することです。すでに、AIエージェントは同僚として働き始めています。あなたも一緒に働き始めることをおすすめします。




