2025年に予定されているロケットの打ち上げや、有人宇宙飛行、月・惑星探査ミッションの中から、とくに注目のものを紹介する連載。第2回では、月・惑星探査や宇宙望遠鏡などの科学ミッション、民間による月開発について取り上げる。
2025年も民間月探査が活発
近年、月探査の機運が大きく盛り上がっている。米国や日本などが協力して、アポロ計画以来となる有人月探査計画「アルテミス」を進めているほか、それに呼応するように民間企業による月への挑戦も活発になっている。
2025年も、その動きはとどまることなく、さらに熱を帯びようとしている。
日米の民間月着陸機が同時打ち上げ
米国の民間企業ファイアフライ・エアロスペース(Firefly Aerospace)と、日本の民間企業ispace(アイスペース)は1月15日、「ファルコン9」ロケットに相乗りするかたちで月着陸機を打ち上げた。
ファイアフライの月着陸機「ブルー・ゴースト」(Blue Ghost)は、質量約150kgの小型機で、今回が初飛行であり、同社にとっても初の月探査となる。
今回のミッション「M1」では、米国航空宇宙局(NASA)が提供する10個の実験機器を搭載し、3月ごろに月の表側の北東部にある「危難の海」(Mare Crisium)への着陸をめざす。
着陸後には、月のレゴリス(岩石や土壌)の調査や、太陽風と地球の磁場の相互作用の研究を行い、将来の有人ミッションに必要なデータや知見を集める。
一方、ispaceの「HAKUTO-R M2 レジリエンス」(RESILIENCE)は、ispace EUROPEが開発した探査車「テネシアス」(TENACIOUS)や、日本の民間企業のペイロードなどを搭載する。打ち上げから4〜5カ月後に、月の表側の北にある「寒さの海」(Mare Frigoris)への着陸をめざす。
同社は2023年、ミッション1で月面着陸に挑むも失敗しており、リベンジを果たせるかどうかに注目だ。
月の南極をめざす「IM-2」、謎の渦巻きを探る「IM-3」
2月には、米国のインテュイティブ・マシーンズ(Intuitive Machines)が開発した月探査機「ノヴァC」の2回目のミッション「IM-2 アシーナ」の打ち上げが予定されている。
同社は2024年2月、最初のミッション「IM-1」で、やや不完全ながらも、民間企業として初となる月面着陸を果たした。
それに続くIM-2がめざすのは、月の南極の、シャクルトン・クレーターにある尾根である。その地下には、水が氷の状態で存在している可能性があり、将来の有人探査の候補地にもなっている。IM-2にはNASAが開発した採掘装置を搭載し、実際に氷を採取し、どれくらいの氷が含まれているかを調べる実験を行う。
また、自社製の探査ロボット「マイクロノヴァ・ホッパー」や、日本の民間企業ダイモンの月面探査車「YAOKI」なども搭載し、月面に展開する。
さらに10月ごろには、「IM-3」ミッションの打ち上げも予定されている。
IM-3は、月の表側の西、「嵐の大洋」にある「ライナー・ガンマ」と呼ばれる場所をめざす。
ライナー・ガンマは、月の黒い海にある白い渦巻き模様の領域で、まるでコーヒーに垂らしたミルクのようにも見える。さらに、ほかよりも強い磁場が存在することもわかっている。ただ、なぜ、どうやってこの地形ができたのかはわかっておらず、IM-3でその謎に迫る。
ブルー・オリジンの「ブルー・ムーン」(Blue Moon)
第1回で取り上げたブルー・オリジンは、早ければ3月にも、月着陸船「ブルー・ムーンMK1」(Blue Moon MK1)の打ち上げを予定している。
ブルー・ムーンMK1は、月面に大量の物資や機器を運ぶ無人の貨物船で、アルテミス計画の実現にとって不可欠な要素となる。
さらに、宇宙飛行士が乗れる「MK2」の開発も進んでおり、その完成にとっても、MK1の試験や運用の成果は重要なものとなる。MK2は2030年以降に、宇宙飛行士を月面へ運ぶことが計画されている。
アストロボティックのリベンジ
米国のアストロボティック・テクノロジー(Astrobotic Technology)は、ちょうど1年前に月着陸機「ペレグリン」(Peregrine)を打ち上げるも、故障により月に到達できなかった。
現在同社は、新しい大型の月着陸機「グリフィン」(Griffin)の開発を進めており、早ければ秋ごろにも打ち上げ、月の南極への着陸をめざす。
グリフィンは当初、NASAの月探査車「ヴァイパー」(VIPER)を搭載して、月面へ輸送するミッションを担う計画だった。しかし、ヴァイパーが開発中止になったため、同じ質量のおもりを載せて打ち上げられる。
惑星探査機、宇宙望遠鏡
宇宙望遠鏡「SPHEREx」と太陽観測衛星「PUNCH」
早ければ2月、NASAの宇宙望遠鏡「SPHEREx」と、太陽観測衛星「PUNCH」が同時に打ち上げられる。
SPHERExは、近赤外光を使って全天を観測し、宇宙が誕生した直後の急速な膨張「インフレーション」の痕跡や、生まれたばかりの惑星系に水や有機分子がどれくらい含まれているなどを調べ、宇宙、そして生命はどのようにして誕生したのかという大きな謎について解明することを目指している。
PUNCHは太陽コロナを研究することを目的とした衛星で、低軌道で4機の小型衛星を編隊飛行させて3D観測を行い、コロナの質量とエネルギーがどのようにして太陽風になるのかなどを調べる。
悲願の火星探査機「ESCAPADE」
打ち上げ延期を重ねてきたNASAの火星探査機「ESCAPADE」が、いよいよ3月にも飛び立つ。
ESCAPADEは、同型の2機の探査機からなり、火星の周回軌道で、それぞれ離れた位置から同時に観測を行い、火星の磁気圏と太陽風の相互作用を調べることを目的としている。
当初は小惑星探査機「サイキ」(Psyche)と相乗りで打ち上げられる計画だったが、サイキの開発が遅れ、打ち上げ時期と軌道が変わったことで、相乗りでは火星に到達できなくなった。その後、前述のニュー・グレンの初飛行に搭載されることになり、2024年10月の打ち上げが設定されたが、今度はニュー・グレンの開発が遅れたことで、ふたたび延期を強いられた。
ちなみに、火星探査機の打ち上げに適した時期は、地球と火星の位置関係から、2年2カ月ごとに訪れる。2025年はその好機から外れているものの、軌道を工夫することで、当初の予定よりも遅れるものの、火星に到達できる見込みが立っている。また、期待される科学的成果も失われないという。
小惑星サンプルリターンをめざす中国の「天問二号」
近年、宇宙科学分野でも存在感を高めている中国は、5月に小惑星探査機「天問二号」の打ち上げを予定している。
天問二号は、地球近傍小惑星の「カモオアレワ」(469219 Kamo'oalewa)を探査し、着陸して石や砂といったサンプルを採取して持ち帰るサンプルリターンに挑む。
さらに、サンプルが入ったカプセルを地球へ送り届けたあと、探査機本体はふたたび惑星間空間へ戻り、そしてメインベルト彗星「311P/PanSTARRS」を訪れて探査を行う。
小惑星からのサンプルリターンに成功すれば、日本と米国に次いで世界で3番目の成果となる。また中国は、「天問三号」で世界初となる火星からのサンプルリターンを、さらに「天問四号」では木星と天王星の探査を目指しており、こうした将来のミッションに向けた布石にもなる。
太陽圏を観測する「IMAP」
NASAが9月に打ち上げを予定している「IMAP」は、太陽圏を探査することを目指した科学衛星である。
太陽からは高温の粒子(プラズマ)が吹き出しており、太陽系の彼方まで届き、恒星間空間とぶつかっている。この太陽風の勢力圏を太陽圏といい、太陽系全体を包み込む泡のような構造になっている。この太陽圏の終わり、つまり太陽風と星間物質が混ざり合っている領域で何が起きているのかは、わかっていないことが多い。
IMAPは、地球-太陽系のラグランジュ1(L1)で運用され、計10個の観測機器で、太陽風や星間物質を観測し、その謎に迫る。
(第3回へ続く)