連載「軍事とIT」第367回で、米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)が実施した空戦用の人工知能 (AI : Artificial Intelligence) に関する実験イベント“AlphaDogfight Trials Final ”を取り上げたことがある。このときの主眼は「自機を操って敵機を撃墜する」ことだが、戦闘機の任務飛行はそれだけでは終わらない。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
戦闘機はどうやってミサイルを回避するのか
普通、こういう場面でワンサイド・ゲームということはないわけで、こちらが敵機を墜とそうとして敵機を追い求めて兵装を発射するのであれば、敵機も同じことをしようとする。
だから、敵機が撃ってきた対空ミサイルを回避しなければならない場面は、当然ながら想定しておかなければならない。しかも対空ミサイルを撃ってくる相手は敵機だけとは限らない。地対空ミサイルや艦対空ミサイルが飛んでくる可能性もある。
非誘導の対空砲や機関砲が相手なら、射線から離れれば命中することはなくなるが、誘導装置を持っているミサイルは事情が違う。
しかも、ミサイルには人が乗っていないから、パイロットの肉体的限界を考慮する必要はない。弾体の構造的な限界と推進システムの能力によって、どこまで激しい機動を行えるかが決まってくる。
だから一般的に、戦闘機よりミサイルの方が脚が速く、急旋回に耐えられる。すると、ただ真っ直ぐ飛んで引き離すとか、急旋回によって振り切るとかいうだけの話では済まない。対空ミサイルから回避するためには、「機動」と「囮」の合わせ技が必要になる。
例えば、レーダー誘導のミサイルが後ろから追いかけてきたときにチャフをワッと放出して大きな贋目標を作っておいて、自機は急旋回してそこから離れる。それでミサイルがチャフに釣られてくれればめっけものである。(赤外線誘導ミサイルに対するフレアでも同じこと)
これは話をいささか単純化しすぎた例だが、なにしろ戦闘機を操縦した経験がない人が書いているので、そこのところは御容赦いただきたく。
戦闘機パイロットの回避行動をAIに学習させる
ともあれ、戦闘機パイロットは敵機の“尻をとる”訓練だけでなく、脅威から逃れて生き残るための訓練も必要になる。それであれば、空戦のやり方をAIに教え込むのと同じデンで、脅威を回避するやり方をAIに教えることもできるのではないか?
と思ったのか何なのか、米空軍のテストパイロットが、戦闘機に向けて飛来するミサイルを回避する場面でAIを活用する、“Have Remy”という試験を実施したとの話が、2026年2月に報じられた。
開発を担当しているのは、ロッキード・マーティンの先進開発部門 “スカンクワークス” で、2025年の末にカリフォルニア州のエドワーズ空軍基地で試験を実施したという。
そこで使用した機体が、本連載でも以前に出てきたことがある、F-16Dブロック30を改修の試験用機、X-62A VISTA(Variable In-flight Simulation Test Aircraft)だったそうだ。
X-62Aの機上コンピュータにAIの機能を組み込んで、戦闘機パイロットが行う状況認識~判断~意思決定~実行の流れを司らせる。その際のお題として、”ミサイル避け” を取り上げたといえばよいだろうか。
前述したように、戦闘機パイロットはミサイルを回避する手法について学んで、訓練を受けている。それなら、その知見を活用してAIをトレーニングすることで、戦闘機パイロットと同じようにミサイル回避を行えるAIを実現できるのではないか、という話になろう。
実機でもシミュレータでもいいが、実際に戦闘機パイロットが回避機動を行ってみて、その際に収集したデータをAIに食わせる。おそらく、うまくいったときのデータだけでなく、撃ち落とされてしまったときのデータも欲しい。そうしないと、「やってはいけないこと」の学習ができない。
AIによるミサイル回避は無人戦闘機に応用できるか
では、AIを活用する回避機動がうまいことモノになった場合に、どんな応用が考えられるだろうか。
有人機を送り込むには危険な空域に無人機を突っ込ませようということで、あちこちの国で、いわゆる“忠実な僚機”ことCCA(Collaborative Combat Aircraft)の研究開発が行われている。脅威度が高いところに突っ込んで行くのが前提であるから、当然ながら対空ミサイルだって飛んでくる。
たいていCCAでは、ステルス設計を取り入れて生残性を高めようとしているが、それだけで完璧とは行かないだろう。それに、撃ち落とされても諦めがつくことが前提のCCAで、生残性向上のためにステルス性を高めたり電子戦システムを載せたりすれば、コストが上がってしまって問題がある。
すると、CCAを生き延びさせるために回避機動のやり方も教え込んでおいたら、という話になるかも知れない。「有人機に向かっているミサイルを引きつけるために、CCAが囮として割り込んでわざと撃たれる」なんていうオプションもあり得よう。
また、有人機に同様の機能を組み込んで、回避機動をアシストする使い方も考えられそうだ。「無人戦闘用機」という目下のテーマからは外れてしまう話だが。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。

