ZIPAIR Tokyoが2026年2月23日から4回にわたり、成田空港と、アメリカのフロリダ州オーランドを結ぶ直行便を運航している。
オーランドといえばいうまでもなく、ウォルト・ディズニー・ワールドの所在地であり、そこに向かう利用が多くを占めるだろうと容易に想像できる。この直行便、ちょっと面白そうだと思ったのでお題にしてみることにした。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
貨物抜き、かつ復路はマイナス60名
ZIPAIR Tokyoの機材はボーイング787-8で、リバースヘリンボーン配置のフルフラット席が18席、3-3-3列配置のスタンダード席が272席、合計290席。
そして、「成田→オーランド」のZG714便は290名を乗せるが、「オーランド→成田」のZG713便は230名に絞っているという。また、運んだのは乗客と受託手荷物だけで、貨物輸送は実施していない。なんでそんなことになったのか?
貨物輸送を行わないということは、その分のペイロードも燃料に振り向けなければ、ノンストップでフロリダまで飛ぶのは難しいということだろうと考えた。そこでちょっと算数をやってみた。
まず、成田からオーランドまでの直線距離は、Google Mapsの距離測定機能を使うと約11,650kmと出る。この距離は、ロシア上空を避けて北極上空を大回りするときの東京~ヘルシンキ間の飛行距離に近似している。ただし実際には、必ず最短距離で飛行できるとは限らないので、いくらか多めに見積もる必要はあろう。
ボーイングが出している公式な数字では、787-8の航続距離は7,305 nmi (13,530km)となっている。その数字と直線距離の数字を比較した上で予備燃料のことまで考えると、オーランドまでノンストップで飛ぶには、満タンに近い燃料を必要としそうだ。
ただし、ボーイングが出している数字は248席仕様の場合。ZIPAIR Tokyoの機体はもっと定員が多く、腰掛の数も増える。一方で、ギャレーの数はJALの国際線仕様787-8より少ないし、IFE(In-Flight Entertainment)の個人用画面も省略している。IFEの機材は1席につき、ディスプレイで1.8kg、配線を合わせると2kgになるというから、トータルで600kg近い軽量化になる。
そんな可変要因があるが、細かく計算し始めると収拾がつかなくなりそうなので、ひとまずボーイングの公式データを基にして話を進める。
乗客と預け入れ荷物の重量は
787だけでなく、どの機種でも、燃料とペイロードの両方を上限いっぱいにはできない。すると、まず目的地まで飛ぶことは必須要件だから、そのために必要な燃料を積むことが優先される。その上で、ペイロードをどこまで増やせますかという話になる。
では、乗客と荷物の重量はどれぐらいになるのか。国土交通省の定めによると、北米・欧州方面の国際線における標準重量は1人あたり160lb(73kg)となっている。これは機内持ち込み手荷物を含んだ数字だが、受託手荷物は含んでいない。
受託手荷物の重量について、国土交通省では「原則として実測重量によること」と定めている。人によって差がありすぎるためだろうか。実際、筆者のように7kgぐらいの小さなトランクしか預けない人がいる一方で、20kg以上もありそうな荷物を預ける人もいる。
航空機の運航における乗客等の標準重量の設定について
https://www.mlit.go.jp/notice/noticedata/pdf/201107/00005468.pdf
そこでやけっぱちになってChatGPTに訊いてみたところ、受託手荷物の平均重量は20kg程度ではないかといってきた。フルサービスキャリアにおける受託手荷物の無料上限は23kg×1~2個だから、それとも符合する数字ではある。
仮に、受託手荷物を1人あたり20kgとして計算すると、乗客と機内持ち込み手荷物と受託手荷物の総重量は、290名の場合で(73+20)×290=26,970kg、230名の場合で(73+20)×230=21,390kgと出る。両者の差分は5,580kg。
東行きと西行きの差分
東京と九州の間を行き来する国内線でも分かることだが、西に向かうフライトは東に向かうフライトと比べて時間がかかる傾向がある。偏西風に対して向かい風で飛ぶことになるためだ。
だから、西に向かうフライトの方が燃料を食うし、それ故にZG713便は乗客を減らしている。逆に、東に向かうフライトは追い風になって、速く飛べる上に燃料消費も減るだろう。
単純に考えると、290名の場合と230名の場合の5,580kgの差分はすなわち、西に向かう復路で余分に必要とする燃料の重量、と考えられる。つまり、復路の方が6トンぐらい余分に燃料を食うという話になる。
裏を返せば、往路に飛び立つときの燃料タンクには、少なくとも6トンぐらいの余裕があるはずだ。その分、乗客を多く乗せているわけである。
貨物を載せなかった理由は
さらに、787-8の諸重量に関する数字を探し回ってみた。一例として、以下のような数字を見つけた。
(1)運用空虚重量 : 119,950kg
(2)最大構造ペイロード : 41,075kg
(1)と(2)を合計した最大ゼロ燃料重量 : 161,025kg
最大離陸重量 : 227,900kg
最大着陸重量 : 172,365kg
運用空虚重量は前述したように、内装などの仕様によって変動する。だから、これはひとつの目安というべきか。
ともあれ、この数字に立脚すると最大離陸重量と運用空虚重量の差分は227,900-119,950=107,950kg。燃料と、乗客・機内持ち込み手荷物・受託手荷物の合計が、この数字を超えないようにしないと、飛べなくなる。
787-8の最大燃料搭載量は126,000リットル。これをJET A/A-1燃料の比重で換算すると、97,650~105,840kgとなる。両者の平均値をとると101,745kg。
この数字は最大離陸重量と運用空虚重量の差分に近いから、燃料満載では乗客を数十名ぐらいしか乗せられない計算になる。すると、燃料満載にまでは至っていないのだろうと推定できる。
そして乗客の数は確定しているから、その分の重量を最大離陸重量と運用空虚重量の差分から差し引いた残りは、290名の場合で80,980kg、230名の場合で86,560kgと出る。
これをすべて燃料に充てるとすると、満タンにした燃料の平均値に対する比率は80~85%程度になる。これは、額面上の航続距離と、成田~オーランド間の直線距離の比率に近い数字。
もしも貨物輸送分のペイロードを上乗せすれば、その分だけ燃料を減らさなければならない。それはできそうにない数字だから、確かに、貨物輸送を行う余裕はなさそうだと納得した。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。



