アメリカのクラトス・ディフェンス&セキュリティ・ソリューションズ(Kratos Defense & Security Solutions Inc.)と、台湾の国家中山科学研究院(NCSIST : National Chung-Shan Institute of Science and Technology)が組んで、マイティ・ホーネットIVという名前の攻撃用無人機を開発している。これまで紹介してきた機体とは違うアプローチで作られているので、面白いと思って取り上げることにした。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
標的機を攻撃用無人機に改造
マイティ・ホーネットIVで面白いのは、対空射撃の訓練や試験で使用する無人標的機をベースにしているところ。母体となったのは、クラトス製のMQM-178ファイアジェット無人標的機。
これが就役したのは2019年のことで、まずイギリスのキネティック(QinetiQ plc)が導入した。このキネティックというのは面白い会社で、イギリス軍の研究開発機関DERA(Defence Evaluation and Research Agency)を民間企業に改組したものだ。日本でいえば、防衛装備庁(ATLA : Acquisition, Technology & Logistics Agency)の研究開発部門がそのまま民間企業に化けて、さらに株式を上場してしまったようなものである。
閑話休題。MQM-178ファイアジェットは、全長10ft 10in(3.3m)、全幅6ft 3in(1.9m)、全高2ft(0.6m)、空虚重量130lb(59kg)、最大離陸重量320lb(145kg)と、比較的小型の機体。エンジンはジェットキャットC81というターボジェット・エンジン(推力81lbf/0.36kN)が2基で、後部寄りの胴体下面にポッド式に取り付けている。最大速力はマッハ0.69~0.8だというからそんなに速くない。
特段に高性能の機体というわけではないが、その分、安価で数をそろえるには有利である。もともと、クラトスという会社は標的機を得意としているが、撃ち落とされることが前提の標的機は安く済む方がありがたいに決まっている。
つまり、クラトスは損耗を前提とした機体を安価に大量生産することに長けている会社だといえる。実際、MQM-178ファイアジェットのお値段は50万ドル程度だというから、2026年2月時点のレートで日本円に直すと7,800万円ぐらい。飛びものの値段としては安価な部類に属する。
そこにNCSISTが加わり、攻撃用無人機として使用するために必要なペイロードを開発・導入、インテグレーションの作業と試験を実施するところまで作業が進んでいる。これが2026年2月6日の発表で、年内には飛翔試験も実施する予定だとしている。
その際のポイントは、MQM-178ファイアジェットがもともと備えている能力を維持しつつ、攻撃用無人機に仕立て直したところ。計画立案、設計、サブシステムの試験といったプロセスを数カ月で実施したというから仕事が速い。
MQM-178をAIで操縦した実績もある
実はMQM-178という機体、すでに別件で名前が出てきたことがある。
日本でも導入を決めたVTOL(Vertical Take-Off and Landing)型無人機・V-BATのメーカーであるシールドAIが2024年に、MQM-178ファイアジェットを人工知能(AI : Artificial Intelligence)で操縦する試験の第一段階を成功裏に実施した、と発表していた。
シールドAIの自律操縦エンジン Hivemindを中核とする「AIパイロット」は、これより先に、クワッドコプター3機種、V-BAT、それとF-16の完全自律型空戦訓練で使用した実績があった。そして、MQM-178ファイアジェットへの導入作業は半年とかからずに終えたというから仕事が速い。
このHivemindとMQM-178ファイアジェットの組み合わせで、2024年8月に、2機のMQM-178ファイアジェットを用いて複数機・自律制御飛行の実証試験まで実施している。ということは、単機ではなく複数機のMQM-178ファイアジェットを敵地にまとめて送り込む道もできつつあるのだと解釈できる。
標的機のペイロードをすげ替える
実は、標的機といえども単に機体だけで済むわけではない。機関砲射撃の標的なら、撃った弾が物理的に命中したら、それがすなわち命中だが、対空ミサイルは事情が異なる。対空ミサイルは近接信管を備えているのが普通だから、直撃しなくても、ターゲットが弾頭の危害範囲内に納まるように通過すれば撃墜判定が成立する。
すると、撃たれる標的機の側では、飛んで来たミサイルが自機から一定の範囲内を通過したかどうかを知る仕組みをペイロードとして持つ必要があり、そのためのスペースと重量の余地を持っているはず。その仕掛けを降ろして、代わりに弾頭を搭載すれば、標的機は自爆突入型無人機に化ける。
前述したように、MQM-178ファイアジェットはすでに標的機として実績がある機体だから、安価に入手できる上に運用実績もある。それを攻撃用無人機に仕立て直すということは、安価かつ低リスクに攻撃用無人機を実現できるという話だと解釈できる。
といっても当然ながら、重量や重心の変化が少なくするように工夫する必要はあろう。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。

