無人戦闘用機、とりわけ有人戦闘機と協調して動く想定の機体は、相応に“賢く”なければ仕事にならない。だから、いわゆる“忠実な僚機”(loyal wingman)、最近の米軍がいうところのCCA(Collaborative Combat Aircraft)では、人工知能(AI : Artificial Intelligence)が機体を操る仕掛けが必要になると考えられている。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
サーブは有人戦闘機でAIエージェントをテストした
ただ、いきなりCCAの試作機にAIエージェントを組み込んで飛ばすのは、いささかリスクが大きすぎる。AIがさまざまなインプットに対してどんな挙動を示すか、の検証ならシミュレーションでも実現できるが、実機を使って実運用環境下で試したいという考えにも理はある。
そんな中、サーブが2025年6月11日に、AIエージェントをJAS39グリペンEに組み込んで実施した飛行試験について発表した。これは、AIエージェントを手掛けるHelsingという会社と組んで、同社のエージェント“Centaur"を使用する形で実施した。
計画名称は“Project Beyond"で、全部で3回の飛行試験を実施した。2025年5月28日に実施した最初の飛行試験では、AIエージェントCentaur が視程外(BVR : Beyond Visual Range)交戦における機動や、パイロットへの兵装発射指示を司ったという。
続いて6月3日に実施した3回目の飛行試験では、JAS39Dグリペンの実機を相手にして、センサー情報に基づく目標追尾など、Centaur エージェントの能力検証を実施したとの発表があった。
この Centaur エージェントを “育てる” ために、戦闘機パイロットによる50年分の経験を学習させたと説明されている。この学習をどう実現するかという話は、すでに第505回と第506回で取り上げた。
なお、AIエージェントを組み込んだ有人戦闘機はこれが初めてではない。第438回で取り上げたF-16の改造機、X-62A VISTA(Variable In-flight Simulation Test Aircraft。旧称 NF-16D)が最初の事例とされる。
また、BAEシステムズでも、ユーロファイター・タイフーンにAIエージェントを組み込むための開発を進めている。これはスウェーデンのAvioniqと組んで実施している案件で、2025年6月の時点ではシミュレーション試験を進めているとの説明だった。こちらもサーブと同様に、視程外(BVR)交戦に重点を置く考えであるという。
無人戦闘用機に組み込む事例も出ている
そして、肝心の無人戦闘用機の方でも、いくつか動きがある。
例えば、クラトスはシールドAIが開発したAIエージェント「Hivemind」を用いて、MQM-178ファイアジェット・2機による、複数機・自律制御飛行の実証試験を2024年8月に実施した。この機体の話はまた、別の機会に詳しく取り上げるつもりでいる。
そのクラトスは別件で、米空軍研究所(AFRL : Air Force Research Laboratory)のLCAAT(Low Cost Attritable Aircraft Technology)計画向けにXQ-58Aヴァルキリーという実証機を開発・製作した。これに、AFRLのAACO(Autonomous Air Combat Operations)チームが手掛けているAIエージェントを組み合わせて、2023年7月にフロリダ州のエグリンで飛行試験を開始した。
これのために、先に名前が出たX-62 VISTAを用いたシミュレーション環境などを活用して、数百万時間に及ぶ熟成作業を実施したという。
こうしてみると、AIエージェントを組み込んだ無人戦闘用機を開発・熟成する場面では、同じAIエージェントを組み込める有人機を併用する場面が多いのだとわかる。それができる、“都合のいい”有人機が手元にあるのとないのとでは、開発成果に差が出てくるかもしれない。
AIエージェントを組み込めるかどうかという問題
ただ、最初からそのつもりで開発した機体ならともかく、すでにある機体にAIエージェントを組み込むためには、機体の側にも相応の受け皿が必要になる。
これについて、サーブは「グリペンのアビオニクスはハードウェアとソフトウェアを切り離して、サードパーティ製の機能を組み込みやすい設計になっている」と説明している。IT業界の言葉を使えば、アーキテクチャがオープンになっているということである。
試験・評価用の有人機だけでなく、本番の無人戦闘用機にしても、最初にインストールしたAIエージェントをそのまま使い続ける可能性は低い。継続的にアップデートしたり、システムを更新したりする可能性を考えると、やはりオープン・アーキテクチャ化は不可避であろう。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。

