前回に取り上げたテクストロン製の無人機・ダモクレスと似た形態だが、中味はだいぶ違う。そんな機体が今回の主役。イスラエルのラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズが手掛けている、Lスパイク1x(L-Spike 1x)がそれである。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
電動式二重反転ローター
現在の名称は「Lスパイク1x」だが、これは2025年10月に改称したもので、それより前は「スパイク・ファイアフライ」と呼ばれていた。スパイク対戦車ミサイルのコンポーネントを活用しているため、対戦車ミサイルではないにもかかわらず、「スパイク」を名乗っている。
テクストロン製のダモクレスと同様に二重反転ローターを使用するが、上下のローターが離れていて、その間にローター駆動機構らしきものが配されているところが特徴的。動力は電動式だ。なにやら、露カモフ設計局のヘリコプターを思わせるものがある。
上下のローターの間にカバーを取り付けた写真と、カバーがない写真の両方が出回っている。後者を見ると、ふたつのローターにそれぞれ専用のモーターを割り当てているようだ。
もしもその通りであれば、上のモーターが上のローターを、下のモーターが下のローターを回すということであろう。となると、上下のローターが離れて設置されているのも納得がいく。そして上下のモーターの向きは逆だから、同じモーターを使っていても、ローターの回転方向はそれぞれ逆になる。
また、ローターまわりを見ると、一般的なヘリコプターと同様にピッチを変える機構を備えていることがわかる。ローターは折り畳み式で、発射筒から撃ち出した後で展開する仕組み。
機体(本体?)は、その下にある箱形の部分で、ここにバッテリ、センサー、ペイロード・セクションを組み込んでいる。三脚を用いて立てるところは、テクストロンのダモクレスと同様。
機体全体の重量は2.0~2.2kg、寸法は80mm×80mm×400mm。最大速力は60km/h(急降下すると70km/h)。機体を3機と制御ユニット(CU : Control Unit)でワンセットになり、一式をバックパックに入れて持ち歩けるようになっている。
小型軽量だから個人携行も可能で、「個人で持ち歩ける火力支援手段」という位置付けになる。ただしメーカーでは、歩兵戦闘車(IFV : Infantry Fighting Vehicle)に載せて車載武器として使うこともできるといっている。
どう飛ぶのか
テクストロン製のダモクレスと異なり、スパイク・ファイアフライ改めLスパイク1xは2018年にデビューしており、実戦も経験している。だから動画も出回っており、どんな動きをする機体なのかは分かる。
動画を見ると、機体は “立った” 状態のままで飛んでおり、水平方向の移動に際しては、機体を少し進行方向に向けて傾けている。いわば、筒形の胴体を持つヘリコプターという風体である。
ターゲットを見つけて交戦するときには、上空からターゲットに向けて下降する。そのときにもやはり、機体は “立った” 状態のまま。自爆突入型というよりも、降下自爆型という言葉の方が似つかわしいかもしれない。
SPIKE FIREFLY a miniature loitering munition for the maneuvering ground forces (メーカーが公開している動画)
ペイロードは交換式
Lスパイク1xは偵察・自爆の両方に対応できるとの触れ込みだが、他の自爆突入型無人機みたいに「偵察ついでに突入する」機体というよりも、「偵察機または自爆突入型」という位置付けであるようだ。
それを示しているのが主要諸元で、「偵察」と「攻撃」で数字を分けている。重量は、LM(Loitering Munition、つまり攻撃)構成で2.2kg、CU(何の略かわからないが、偵察構成のことであろう)構成で2kg。
航続時間は攻撃任務で15分、偵察任務で30分。攻撃任務でもセンサーは必要だから、それを偵察にも使用するとすれば、偵察任務では弾頭がない分だけスペースと重量が余る。それをバッテリの追加に充てて航続時間を延ばしているとの見立てがある。
レンジについては、初期型では1.5kmだったところ、最新型では5kmに延ばしているという。ただし航続時間の数字は同じだから、通信機能を改善して通信可能距離を伸ばしたということかも知れない。
センサーは赤外線センサーと可視光専用CMOSセンサーの組み合わせだから、昼夜双方とも使用できる。これを機体の尾部(実際には立てた状態で飛ぶので下端となる)に取り付ける。立てた状態で飛んで、下方視界を確保しようとすれば、尾部に取り付けないと具合が悪い。
弾頭は爆風破片弾頭で、重量は0.35kgとの情報がある。爆風破片弾頭だからソフト・ターゲットが相手で、戦車を破壊するような使い方は想定していない。そこも、前回に取り上げたダモクレスと異なる。
「弾頭付きの攻撃形態」と「弾頭なしの偵察形態」を使い分けるのだとすると、弾頭の脱着を容易に行える設計にしておく必要がある。動画を見ると、箱形の機体の側面からバッテリらしきものを差し込んでいるのがわかる。
ただ、LM構成とCU構成の重量差は0.2kg。弾頭重量が0.35kgという数字が正しければ、弾頭の代わりに搭載できるバッテリ(またはその他の何らか)は0.15kgという計算になる。追加のバッテリとしては、いささか軽すぎるようにも思えるのだが。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。

