プラット&ホイットニー(P&W)が2025年3月4日に、旋回流デトネーション・エンジン(RDE : Rotating Detonation Engine)の研究開発進捗について発表した。試作機を用いて、一連の試験を実施、完了したとの趣旨であった。面白そうな話だと思ったので、記事にしてみようと考えた。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

2種類の燃焼 - デフラグレーションとデトネーション

まず「デトネーション」(爆轟)という言葉が聞き慣れない。これは、「燃焼の一形態で、気体の急速な熱膨張の速度が超音速で、衝撃波を伴いながら燃焼する現象」と説明される。これを燃焼器の内部で発生させて推力を得るのが、デトネーション・エンジンである。

火炎伝播の速度は1000m~3,500m/sで、デトネーションの背後では初期圧力と比べて数十倍の圧力が発生する。この現象を利用して、機械的な圧縮を行わずに、燃料と大気の混合気を圧縮できるという。

それに対して、一般的な燃焼はデフラグレーションといい、火炎の伝播は緩やかで亜音速止まりとなる。

普通、ジェット・エンジンは取り入れた空気を圧縮するために何らかの仕掛けを必要とする。機械的な圧縮機を使用することもあれば、ラムジェット・エンジンみたいにラム圧を利用するものもある。

しかしデトネーション・エンジンでは、そうした圧縮のためのメカニズムを必要としない。すると、エンジンの構造が簡素になるとの期待が持てる。そうしたメリットを買ってのことか、P&Wだけでなく、さまざまな国のメーカーや研究機関が開発に取り組んでいる。

PDEとRDE

デトネーション・エンジンには複数の種類がある。

まず、筒型の燃焼器に間欠的に、燃料と大気の混合気を送り込むのがPDE(Pulse Detonation Engine)。その燃焼器の内部で、「混合気の充填→着火→残留燃焼ガスの掃気」を繰り返す。

PDEでは間欠的に混合気を充填するため、適切なタイミングで混合気を送り込むためのバルブ機構が必要になる。間欠的に燃焼させるからパルス・デトネーションというが、その周波数を高くするには、それに見合った開閉能力を持つバルブ機構が必要になる。

それに対して、回転円盤を用いる単一のバルブを用いるのがディスク型RDE。こちらの方がバルブ機構が単純になり、かつ、高周波数での作動を実現しやすいとされる。燃焼器は二重円筒構造を持ち、内筒と外筒の間に混合気を送り込んでデトネーションを発生させる。

デトネーションは真後ろではなく周方向に伝播することから、「回転」の名称がある。そして、排出される燃焼ガスが推力の源となる。

RDEがモノになれば、シンプルな構造を持ち、しかも効率の良い推進装置を実現できると期待できる。大気吸入型のエンジンだけでなく、燃料と酸化剤の両方を送り込むことで、ロケット・エンジンも実現できる。

もちろん、こうした新種のエンジンを開発するのに「いちいちモノを試作して動かしてみる」では費用と手間と時間がかかりすぎる。そこで研究開発に際しては、数値流体力学(CFD : Computational Fluid Dynamics)を用いたコンピュータ・シミュレーションを駆使している。また、供試体の製作に3Dプリンタを活用しているとの話もある。

実はRDEの課題として、燃焼室内筒の冷却、大気と燃料の比率を常に最適値に保つための制御、そして燃焼室の部材を精確に造ることが挙げられている。RDEの概念そのものは数十年前から存在するが、それを実際に作って動かしてみるためには、周辺技術の進化が不可欠だったようだ。

RDEを誘導弾に使う考え

P&WではRDEについて、軍事分野での利用を考えているという。具体的な想定用途はミサイルの動力源だ。そもそも開発契約の発注元は米空軍研究所(AFRL : Air Force Research Laboratory)である。

すでに、ミサイルの動力源としてターボジェット・エンジンやターボファン・エンジンを使用している事例は多い。速力よりも射程の長さが求められる、巡航ミサイルや対艦ミサイルが主な用途となっている。ときにはラムジェット・エンジンを使用する事例もある。

  • MBDAがDSEI Japanで展示していた、ミーティア空対空ミサイルの模型 撮影:井上孝司

  • 側面の張り出しがラムジェット・エンジンで、その先端に空気取入口がある 撮影:井上孝司

ただ、一度撃ったら使い捨てとなるミサイルの動力源として、複雑な構造を持つジェット・エンジンを使用するのは、あまり経済的な話とはいえない。それに、ジェット・エンジンが適切に機能するための点検整備も必要になろう。もっとシンプルな動力源を利用できるのであれば、その方が好ましい。

そこで、シンプルな構造で済むRDEが着目される図式になったと思われる。エンジンを小型軽量にできれば、その分だけミサイル全体の小型化につながるし、浮いたスペースや重量を弾頭や誘導制御に割り振ることもできよう。

同じ考え方に拠るのか、ヨーロッパではミサイル・メーカーのMBDAがデトネーション・エンジンの研究開発に取り組んでいるという。

MBDAはすでに、フランス航空宇宙軍向けとして、ラムジェット・エンジンを使用する核ミサイル(ASMP-A : Air-Sol Moyenne Portée-Amélioré)や、ラムジェット・エンジンを使用する長射程空対空ミサイル、ミーティアを手掛けている。そうした流れの延長で、デトネーション・エンジンに目を付けたようだ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。