前回は全周を見る話をしたので、次は、前方だけを見る話を。するとセンサー機器は機体の先頭部に取り付けることになる。本来、これは真っ先に取り上げるべきテーマではなかったかという気もしているが、それはそれとして。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

レーダーや光学センサーの事例が多い

前方を見るために用いられるセンサーというと、搭乗員の目玉に加えて、レーダーと光学センサーが挙げられる。

AESAレーダー

戦闘機なら、前方にいる敵機を捜索して、捕捉追尾・交戦するための、射撃管制レーダーを搭載する。以前はアンテナを可動式にして、ある程度の範囲で上下左右を走査できるようにしていたが、近年ではビームの向きを変えて電子的に首を振れる、AESA(Active Electronically Scanned Array)レーダーの利用が一般的になった。

「送信するビームの向きを変えられるのなら、アンテナ自体は固定式でいいよね」となるし、実際、AESAレーダーを搭載する戦闘機の大半はそうしている。可動部を減らす方が、故障の原因が減るので好ましい。

  • F-15Cが搭載したAN/APG-63(V)2レーダー。固定式のアンテナ・アレイを使うAESAレーダーの一例 写真 : USAF

ところが、何事にも例外はあるものだ。AESAレーダーのアンテナ・アレイを、スウォッシュプレートと呼ばれる回転式の部材に取り付けた事例もある。その一例が、ユーロファイター・タイフーン向けに開発が進んでいるECRS Mk.2。ECRSはEuropean Common Radar Systemの略だ。

スウォッシュプレートは、機体の前後軸線を中心として回転する。ただし前面が斜めになっていて、そこにアンテナが取り付けられている。これを回転させるとアンテナ・アレイの向きが変わり、その分だけ捜索可能範囲を広げられますよという理屈。

気象レーダー

旅客機や軍用輸送機であれば射撃はしないが、機首には気象レーダーを備えるのが一般的。雨雲や雷雲などの存在を知り、回避するために不可欠のツールだ。これも前方だけを捜索するが、機体がバックするわけではないから、後方を捜索する必然性はない。

ヘリコプターでも、気象レーダーの搭載事例がある。夜間あるいは悪天候下でも飛行できないと仕事にならない、救難ヘリコプターや特殊作戦ヘリコプターが典型例。いずれも、機首に気象レーダーを取り付けている。ヘリコプターは固定翼機と違ってバックもできるが、気象レーダーは前方を捜索できればよいと割り切っている。

赤外線センサー

また、この手の機体では視覚的なセンサーも欲しいので、前方監視用の赤外線センサー、いわゆるFLIR(Forward Looking Infrared)も備えることが多い。これは旋回・俯仰が可能なターレットに収める製品が一般的で、それを機首の先端部あるいは下面に設置する事例が多い。

FLIRは、用途の関係で下方を見ることになるので、機首上面に取り付けると具合が良くない。機体が下方視界の妨げになるからだ。

  • 航空自衛隊のUH-60J救難ヘリコプター。機首から前方向きに突出しているのが気象レーダーを収容するレドームで、その下にはみ出している球体が赤外線センサーのターレット 撮影:井上孝司

レーダーはレドームでカバーする

機首にレーダーを取り付けた場合、それがむき出しになるのは好ましくない。凸凹して空気抵抗が増えるし、レーダー・アンテナに何かがぶつかったら壊れてしまう。だから、機首を平面にしてレーダー・アンテナを取り付けて、そこにレドームと呼ばれる部材を被せる。綴りは radome で、radar と dome を組み合わせた造語だ。

上にあるF-15Cの写真では、レドームは右舷側に設けたヒンジを介して横開きできるようになっている。アンテナを点検する場面があるためにこうなっている。

旅客機だと、レドームは本当にレドームだけで、ピトー管などのエアデータ関連機材は機首の両側面に設置するのが一般的。ところが戦闘機を見ると、レドームの先端にピトー管を付けていることもある。もちろん、レーダーの機能を損ねないような工夫をした上でのことであろうが。

なお、レドームは機首の先端部に取り付けるパーツだから、鳥がぶつかるなどして壊されることも間々ある。そこで予備品を確保しておいて、壊されても容易に交換できるようにしている。

レドームでカバーしていれば、鳥がぶつかったときに壊されるのはレドームということになるが、レドームがなかったらアンテナが壊されかねない。そちらの方が被害額が大きい。

  • 以前に取り上げた、ヤマトグループ向けのA321P2F。レドームと胴体の境界線や、胴体の側面に取り付けられたピトー管などが見て取れる。レドームの表面に見える線は、落雷の際に電流を逃がすための金属線(ライトニング・ストリップ) 撮影:井上孝司

ステルス機とレドーム

普通ならこれで話は終わるが、ステルス機はそうも行かない。自機のレーダーが送受信するレーダー電波はレドームを透過できないと困るが、敵機が作動させるレーダー電波をどうするか。それがレドームを透過してレーダー・アンテナに当たったら、目立つ反射源になってしまう。

自機のレーダーと敵機のレーダーで周波数帯が大きく異なるのであれば、レドームの素材に工夫して「自機のレーダーが使用する周波数帯の電波だけ通す」という工夫が、もしかすると実現できるかも知れない。しかし現実問題としては、彼我いずれも似たような周波数帯の電波を使用することが多い。用途が同じなのだから。

そこでAESAレーダーを搭載するステルス機は、アンテナ・アレイを機軸と直角に設置するのではなく、斜めにするのが一般的。たいてい、前上方向きになっているので、前方から入射したレーダー電波がアンテナ・アレイに当たると、上方に向けて反射されるはずだ。こうすれば、送信源のところに電波が戻って行かないので、探知は成立しない理屈。

また、アンテナ・アレイを機軸に対して斜めにすると、直角にするよりも面積を少し広く取れる余録もある。面積を広くできれば、アンテナ・アレイに組み込める送受信モジュールの数が増える。

ただし、すべての戦闘機用AESAレーダーがアンテナ・アレイを斜めにしているわけでもなく、機軸と直角ないしはそれに近い角度にしている事例も見かける。上に写真があるAN/APG-63(V)2がそれだ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。