「航空機とセンサー」ということで、どこから取り上げようかと思案した結果、最初のお題は早期警戒機とした。普通、早期警戒機というと想起されやすそうなのは、E-3セントリーやE-2ホークアイのように、背中にロートドームを背負った形態ではないかと思われる。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • やはり、早期警戒機の代名詞といえばこの機体。E-3セントリーAWACS(Airborne Warning And Control System)機 撮影:井上孝司

ロートドームとはどのようなものか?

E-3が分かりやすいのだが、ロートドームを見ると、中央部に白っぽい部分があり、その前後に黒いフェアリングを付けて、円盤形にまとめている。

実は、その白っぽい部分の前後両面がレーダーのアンテナで、これを回転させることで全周をカバーしている。黒いフェアリングは、いってみれば空力的な整形のため。

E-3のロートドームは、直径が9.1m、厚みが1.8mで、これが高さ3.4mの支柱に載せられている。もちろん軽量化の努力はしているはずだが、支柱を取り付ける部分に荷重がかかる事態は避けられない。ベース機のボーイング707ではそんな荷重はかからないから、胴体の補強が必要になったはずだ。

ロートドームを載せることの難しさ

ロートドームを背中に背負っていると、胴体や主翼が邪魔になり、機体の直下は見えにくくなりそうだ。「それでは機体の下方に円錐形の死角ができるのではないか」と思いそうになるのだが、たぶんそれは問題にならない。なぜか。

まず、早期警戒機は常に移動しているから、探知目標との相対的な位置関係も常に変動する。いま現在の「真下」は、少し前まで「前下方」だった場所だ。

そして、早期警戒機の真下に招かざる客がやってくるためには、まず早期警戒機の周囲から接近しなければならないから、そこで探知できると考えられる。真下からいきなり敵機が湧いて出ない限り、問題にならないわけだ。

といっても可能性はゼロではなく、直下からミサイルが発射される場面はあり得よう。しかしそもそも、そんな物騒な場所に、早期警戒機という貴重な資産を送り込むことはしない。

そもそも、下面に大きなレーダーを取り付けようとすると、今度は胴体と地面の間のクリアランスが問題になる。早期警戒機は、単にレーダーのことだけ考えれば済むわけではなくて、機体とのインタフェースを念頭に置かないと成立しない。

草創期の早期警戒機で、実際にそれをやった事例があり、例えば、ダグラスADスカイレイダーの早期警戒型、AD-2WやAD-3Wが該当する。しかし、胴体と地面の間のクリアランスに制約されて、そんな大きなレーダーは載せられないから、能力が限られてしまう。それに、胴体下面にレーダーを取り付けたら、今度は胴体や主翼に邪魔されて上方に死角ができる。

そういえば、E-3は胴体に水平尾翼を取り付けているが、同じように背中にロートドームを背負っているロシアのA-50は、軍用輸送機のIl-76をベースにした関係からT尾翼になっている。このことがレーダーの視界にどう影響しているかは気になるところ。

固定式アンテナを使用する機体

同じ早期警戒機でも、固定式のアンテナを使用する機体もある。

例えば、イギリス、オーストラリア、トルコ、韓国、アメリカ、そしてNATOで採用を決めているボーイング737AEW&C(E-7ウェッジテイル)は、ボーイング737の後部胴体上面にノースロップ・グラマン製のMESA(Multi-role Electronically Scanned Array)レーダーを載せている。

また、サーブのエリアイというレーダーがあり、これをサーブやエンブラエルのリージョナル旅客機に載せた早期警戒機もある。エリアイはMESAと違って棒状だが、電子的に首を振るアンテナで左右を中心に見張るところは同じ。

  • スウェーデン空軍のサーブ340早期警戒型。背中に背負っている「棒」がエリアイ・レーダー。この外見でお分かりの通り、主として側方をカバーする構造 撮影:井上孝司

どちらにしても設置位置が機体の背面だから、機体の補強やレーダーの死角に関しては、E-3と似た事情になると思われる。

変わったところでは、2023年の晩夏に小松基地に飛来した、イタリア空軍の早期警戒機がある。イスラエル製のEL/W-2085レーダーを胴体の両側面に取り付けているため、左右に大きな “もっこりフェアリング” ができて、ガルフストリームG550のスマートな外見を台無しにした。

レーダーを機体に直接取りつけているから、レーダーを取り付ける支柱にピンポイントで荷重がかかるようなことにはならないだろう。しかし、それをカバーするフェアリングは、空気抵抗をいくらか増やしていると思われる。

これに限らず、外部に大きなレーダーを追加で取り付ける早期警戒機では、空力的な影響への対処が不可欠。だから機体によっては空力付加物がいくつも取り付いてしまう。という話は以前にも書いたことがあっただろうか。

アンテナの構造は飛び方にも影響する

E-3やE-2のロートドームは、アンテナをグルグル回すことで全周を均等にカバーすることを企図した設計。

ところが、胴体の上面あるいは側面に固定式平面アンテナを取り付けると、そのアンテナが原因となって、全周を “均等に” とはいかなくなる可能性が出てくる。もちろん、前後をカバーするためのアンテナを別途、用意するにしても、物理的な形状・サイズの問題から、両側面と同等の能力を発揮できるかどうか。

すると、想定される脅威に両側面を向けるように飛ぶのが理想的、となる。小判型のレーストラック・パターンを描いて、長辺を脅威の側に向けるわけだ。それに、こういう飛び方をしないと、機体が敵地に接近してしまう。敵地から一定の離隔をとり続ける観点からいっても、レーストラック・パターンの長辺を脅威に向ける方が好ましい。

つまり「機体に、いかにしてセンサーを取り付けて機能させるか」という問題だけでなく、「センサーを機能させるために、機体をどう飛ばすか」という問題も出てくるわけである。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。