第271回から第286回まで、「吊るしものとひっつきもの」というテーマで、いろいろ書いたことがあり、幸いにも多くの読者に御覧いただいたようだ。
「吊るしもの」とは軍用機が胴体や主翼の下面に搭載する兵装が代表格、対して「ひっつきもの」とは機体の表面に取り付いている品物すべてを指す。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照。
軍用機が任務を果たすために不可欠なセンサー
その「ひっつきもの」の一つに、各種のセンサーがある。センサーというとおおげさに聞こえるかもしれないが、要は「何かを探知する手段」の総称で、例えばレーダーがそれである。搭乗員の目玉もセンサーの一種だが、これは「機器」とはいえない。
それはともかく。航空機が「仕事」をするためには、なにかしらのセンサーが必要になることが多い。一見したところでは縁がなさそうな民航機でも、前方の気象状況を知るためのレーダーは備えている。乗員ではなく乗客向けだが、最近は機外カメラを備え付けている旅客機が増えており、これもセンサーの一つではある。
これが軍用機になると、任務を果たすために、なにかしらのセンサー機器は不可欠となる。例えば「敵を見つける手段」ひとつとっても、搭乗員の目玉に始まり、レーダー、光学センサー、赤外線センサー、そして電波を逆探知するESM(Electronic Support Measures)やレーダー警報受信機(RWR : Radar Warning Receiver)といった具合に、多様なセンサーが登場する。
さらに、搭載する兵装を敵にぶつける(それが軍用機の仕事であることが多い)場面でも、狙いをつけたり誘導したりするために、なにかしらのセンサーを使う。
センサーが機能を果たせることが重要
こうしたセンサーを載せるからには、それが機能を果たせるように搭載しなければならない。「設置場所があったから載せました」といっていたら、センサーの視界を妨げる障害物がドーン。と、これでは仕事にならない。
例えば、前方を捜索するためのセンサーなら前方に視界が開けた場所に設置しなければならないし、全周をカバーしたいセンサーなら、背中かお腹に取り付けることが多い。また、複数台を分散設置することもある。
また、センサーを搭載するに際して、機体に固定設置するのか、脱着可能にするのか、という問題もある。脱着可能といってもさらに2パターンあり、「機体内部に組み込むけれども脱着可能」と「機体の外部に吊るすので脱着は容易」と、2つの派閥がある。
センサーを追加すれば機体にも影響が及ぶ
最初からセンサーと機体をワンセットで設計していれば、最適ないしはそれに近い配置を実現できると期待できる。
ところが実際のところ、既存の機体に対して後からセンサー機器を追加する場面も、よくある。また、能力向上のために、既存のセンサーを降ろして、別のセンサーに載せ替えることもある。
そうやって変動が生じれば、機体側にもいろいろと影響が及ぶ。まず、重量物が増えるわけだから、それを支えるために機体構造の補強を必要とすることがある。センサーのために機体に開口部を設けることになれば、その開口部の周囲を補強しないと危ない。
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P-3Cオライオンの胴体下面。P-3Cという機体自体がセンサー機器の塊だが、さらに、潜水艦の探知に使うソノブイを投射するための「穴」が、こんな感じで開いている。こんな開口部があれば、当然ながら機体構造の設計にも影響するはずだ 撮影:井上孝司
また、センサーの追加によって「ひっつきもの」が加われば、空力的な影響が発生する。機体が前進飛行をすれば、外部に取り付けたセンサーあるいは張り出しにも空力負荷がかかる。
もちろん、センサーとその他の機器を結んでデータや指令をやりとりしたり、センサーを動作させるための電源を供給したりといった理由から、電気配線も必要になる。これがまた機体を重くする原因を作る。
そして、センサーや、そこから得たデータを処理するためのコンピュータ、センサーを操作するためのコンソール、などといった電気製品が増えると、電力供給能力を増やさなければならないかもしれない。すると、エンジンに取り付いている発電機に影響が出る。
また、機内に設置する電気製品が増えれば発熱の原因が増えることになるので、空調・冷却能力を強化しなければならないこともある。
センサーと機体の関わり、という観点から
ここまで挙げてきた話の中には、多分に過去記事と重複するものもあると思われる。そこは御容赦いただいて、今回の「航空機とセンサー」というテーマでは、「センサーと、それを搭載する機体の関わり、インタフェース」といった部分に焦点を当てて話を進めてみたい。
具体的な話は次回から取り上げていくが、センサー機器の設置が機体の設計にまで影響したり、センサー機器の追加搭載に際して大改修を必要としたり、といった事例はたくさんある。それが、筆者のようなメカ好きにとっては面白いところでもある。
ツルンとした外見のスマートな機体には、分かりやすい「格好良さ」がある。しかし、任務を果たすためという必然性から、手当たり次第にゴチャゴチャと「ひっつきもの」を張り出させた機体にも、違った魅力があると思う。その極めつけが、MH-60Kみたいな特殊作戦ヘリコプターかもしれない。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。