ウェポン・システムの分野において顕著な傾向だが、航空機の分野では軍民を問わず、多国間の共同プログラム事例が増えている。開発・製造にかかる経費と時間が増大する一方であり、ひとつのメーカー、あるいは1つの国だけではリスクを負いきれない場面が増えている事情が背景にある。これがサプライチェーンの構築にも影響している。
出資に応じた分け前を
共同プログラムにおける基本的な考えは、参加するメーカー、あるいは国がそれぞれプログラムに対して資金を投下して、研究開発・設計を行う。そして量産に至った場合には、出資比率に応じて、各国のメーカーが製造を分担する形になる。
当たり前といえば当たり前だが、多く出資して多くのリスクを負えば、その分だけ多くの製造分担という分け前を得られることになる。
その結果として、国際的なサプライチェーン網が構築されることになる。以前にも、第341回でF-35の事例、あるいは第349回でV2500エンジンなどの事例を引き合いに出して、国際的なサプライチェーン網の話については言及した。しかしワークシェアの話はあまり突っ込んでいなかったので、今回はそこに焦点を当ててみる。
ユーロファイター計画におけるワークシェア
そこで具体例として、ユーロファイター計画を取り上げてみたい。たまたま9月に、独空軍の機体が百里基地に飛来して、全国の戦闘機好きがえらく盛り上がっていたから、ちょうどいい(なにが?)。
ユーロファイター計画に参画した国は、イギリス、西ドイツ(計画開始当初)、イタリア、スペインの4カ国。そこで、これら4カ国のメーカーが組む形で、まず窓口となる会社を置くことになった。それが、機体を担当するユーロファイター社(Eurofighter Jagdflugzeug GmbH)、エンジンを担当するユーロジェット社(Eurojet GmbH)、射撃管制レーダーを担当する企業連合ユーロレーダー(EuroRadar)といった面々。
そして各国の作業分担は、イギリスが33%、西ドイツが33%、イタリアが21%、スペインが13%と定められた。しかし、出資比率(=リスク分担比率)に応じて数字を割り振るだけなら話は簡単だが、それを具体的な製造分担に落とし込むのは簡単ではない。常識的に考えれば金額ベースということになろうが、部位や部品によって価格がまるで違う。
だから、どこの部位や部品をどう割り振ればちょうどいい比率になるか、というパズルをやらなければならない。しかも、上記4カ国の航空関連メーカー、それぞれ陣容が違えば得意分野も違う。また、エンジンについては第349回でも書いたように、”花形” と目されがちなホット・セクションを誰が手掛けるか、なんていう話も出てきそうではある。
欧州情勢は複雑怪奇
ユーロファイター計画において機体の製造に関わるメーカーは、現在の名称でいうとBAEシステムズ(英)、エアバス・ディフェンス&スペース(独・西)、レオナルド(伊)という面々。そして、現時点で国別の主な生産分担はこうなっている。
- BAEシステムズ:前部胴体、カナード、胴体背面、垂直尾翼、フラップ、後部胴体
- エアバス・ディフェンス&スペース(独):中央部胴体
- エアバス・ディフェンス&スペース(西):右舷主翼、左舷前縁フラップ
- レオナルド(伊):左舷主翼、補助翼
苦笑せざるを得ないのは、同じ主翼なのに左右で製造国が異なっていたり、主翼と、そこに取り付ける動翼で製造国が異なっていたりするところ。こんな複雑怪奇なことになった原因はおそらく、国ごとにワークシェアを割り振る際の数字合わせ、もとい数字の調整にある。
しかも、当初の計画通りに製造が進めばよいが、計画進行中に冷戦崩壊に見舞われたユーロファイター計画では、各国が調達機数の見直し(削減の婉曲表現)を図った。そうなれば当然、各国の作業量にも影響が生じる。ある国が調達数量を減らしたのにワークシェアは同じです、となれば他国から文句が出かねない。実際、配分見直しが発生している。
また、計画が長きにわたって走っていれば、その途上で業界再編が発生することもある。国をまたいだ業界再編が発生して、それが進行中の国際共同プログラムに関わっていれば、これがまたワークシェアの配分に影響しかねない。
船頭が多いと船が山に登る?
国際共同プログラムの難しさというと、要求仕様のすりあわせが話題になることが多い。それは確かに難しい課題だが、いざ製造となったときのサプライチェーン網構築も難しいのである。
関わる当事国が多くなるほどに、こういう問題は顕在化しやすくなる。そして、これは近年のヨーロッパにおける国際共同プログラムの「あるある」だ。ユーロファイターだけでなく、A400M輸送機にもそうした気配がある。その点、あくまでアメリカ主導で他国がそれに乗っかる形のF-35計画のほうが、船頭が1人しかいない分だけマシかもしれない。
フランスと西ドイツ(当時)が共同で手掛けたアルファジェット練習機/軽攻撃機も、当事国が2カ国しかいないから、比較的スッキリした分担になっている。胴体の前半分はフランス、後ろ半分と主翼と尾翼は西ドイツ、といった按配になる。ただしベルギーも一枚噛んでいるため、フラップなど、一部がベルギーで作られたが。
さて。我が国の次期戦闘機を日英共同案件にするとの話が進んでいるが、これはどういうことになるだろうか。2カ国だけなら、比較的、シンプルな話で済みそうではあるが。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。