吊るしものを搭載する際は、搭載する場所ごとに決まっている「許容重量上限」が問題になる。例えば、500kgのキャパしかないところに1,000kgのものを吊るすことはできない。もちろん、事前に搭載試験を実施していない場所に吊るすこともできない。

搭載作業の効率という問題

ところがさらに、「どこに何を搭載するか」で問題になる要因がある。それが、搭載作業の効率。

軍用機が搭載する爆弾・魚雷・ミサイルの類は、任務飛行の際に投下して帰ってくる前提だから、卸下する際の効率は関係ない。ところが、搭載する際には話が違う。しかも、戦闘任務であれば、できるだけ迅速かつ効率良く搭載したい。

そこで面白い(?)話をひとつ。F-16が搭載する空対空ミサイルの話である。

F-16は左右の翼下に3カ所ずつの兵装ステーションを備えているほか、翼端に空対空ミサイル専用の発射レールを備えている。この発射レールは、AIM-9サイドワインダーにも、AIM-120 AMRAAM (Advanced Medium Range Air-to-Air Missile)にも対応している。

実際に飛んでいるF-16の写真を見ると大抵、翼端の発射レール(ステーション1と9)にAMRAAMを、その隣の翼下にある発射機(ステーション2と8)にサイドワインダーを積んでいる。大きく、重そうなAMRAAMが翼端に、それより小さく、軽いサイドワインダーが翼下に、というのは、なんか不自然に見える。

  • 翼端のステーション1にAMRAAM、隣のステーション2にサイドワインダー、ステーション3にHARM (High-speed Anti Radiation Missile)対レーダー・ミサイル、ステーション4に増槽を搭載したF-16 撮影:井上孝司

    翼端のステーション1にAMRAAM、隣のステーション2にサイドワインダー、ステーション3にHARM (High-speed Anti Radiation Missile)対レーダー・ミサイル、ステーション4に増槽を搭載したF-16

そこで、某海外メディアがロッキード・マーティン社に問い合わせてみたところ、「翼端にAMRAAMを積むのはフラッターを抑える効果があるから」という返事だったそうだ。理屈はなんとなく分かるが、それではAMRAAMを撃ったらフラッターが出る元になりかねないのでは? とも思える。

そこで、ふと思い出して30年ほど前の航空専門誌を引っ張り出してみたら、「翼下で実施する兵装搭載作業と干渉しないように、AMRAAMは翼端に積む」との話が出てきた。兵装搭載作業との干渉とは?

搭載に専用のローダーを使うと……

サイドワインダー空対空ミサイルは小型で軽いので(といっても全長が約3m、重量が約85kgある)、数名で担いで搭載している。

  • 三沢基地で実施した演習の際に、F-16に搭載するAIM-9Xサイドワインダーを運ぶ武器員 写真 : USAF

    三沢基地で実施した演習の際に、F-16に搭載するAIM-9Xサイドワインダーを運ぶ武器員 Photo : USAF

ところが、AMRAAMになると全長が約3.7m、重量が約150kgもあるので、人力では搭載不可能。専用の車両(ウェポン・ローダー)を持ってきて、アームに載せたミサイルを兵装架のところまで持ち上げて搭載する。例えば米海軍では、MHU-83Dというウェポン・ローダーを使っており、AV-8B、F/A-18、AH-1W/Z、UH-1Y、F-35B/Cといった機体に対応する。

下の写真では、ウェポン・ローダーが側方から機体にアプローチしている。ただし翼下に搭載する場合は、前後方向からアプローチする事例もあるようだ。

  • イラク国内の基地で、F-16の翼端にAMRAAMを搭載している模様 写真 : USAF

    イラク国内の基地で、F-16の翼端にAMRAAMを搭載している模様 Photo : USAF

そこで、翼下兵装パイロンに爆弾や増槽といった大物を、翼端の発射レールにAMRAAMを搭載する場面について考えてみる。

前後からウェポン・ローダーを送り込んで翼下に爆弾や増槽を搭載する場合、平行して、翼端にAMRAAMを搭載する作業も実施できる。こちらはウェポン・ローダーを外側からアプローチさせれば良いから、干渉しない。翼端レールの隣接翼下にサイドワインダーを積む場合、これは人力だから、両者の間からアプローチできそうだ。

ところが、AMRAAMとサイドワインダーの位置を逆にすると、どうなるか。AMRAAMを載せたウェポン・ローダーを前後からアプローチさせると、隣で実施している翼下の爆弾・増槽の搭載と干渉する。翼端と同様に側方からアプローチさせると、翼端にサイドワインダーを積む作業と干渉する。

こう考えてみると、なるほど、AMRAAMを翼端に積むのは、搭載作業の効率化という観点からすると合理的なのだな、と理解できる。

今回はたまたま戦闘機が搭載する武器の話だったが、この種の「同時に複数の作業を実施する際の動線の干渉防止」は、ほかでも問題になりそうだ。例えば、空港に到着した旅客機にさまざまな車両が一斉に取り付く場面でも、同様に、留意しなければならないポイントになるのではないだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。