吊るしものにしろ、ひっつきものにしろ、「設計当初から織り込まれているもの」というよりは、後付けの色彩が濃い。ずっと装着したままのセンサー機器の場合、最初からそれが必要だと分かっていれば、設計時点で考慮するものである。投下することが前提の爆弾やミサイルは話が別だが。

後付けすると何が問題か

また、既存の機体を後から他の用途に転用することになった場合、必然的に「設計時点で考慮していなかったもの」が加わることになる。そしてそれは往々にして、外部に突出したり、吊るしものの形をとったりする。

そして、機体の外部に吊るしものやひっつきものが加われば、空力的な影響が生じる。小さなレーダー警報受信機(RWR : Radar Warning Receiver)のアンテナ・フェアリングぐらいならまだしも、幅も高さもあるレーダーのアンテナ・フェアリングになると、空力的影響は無視できない。

外部に突出するものが加わることで、空気抵抗が増えて速度が落ちるぐらいで済めば、まだマシ。空力的影響によって振動が発生したり、気流を乱して操縦性に影響が出たり、直進安定性が悪くなったりすれば、困ったことになる。

実際、センサー機器が「ひっつきもの」として後から加わったことで、空力付加物まで追加する羽目になった機体は多い。たとえば、オーストラリア、韓国、トルコの空軍で使用している早期警戒機、ボーイング737AEW&C(Airborne Early Warning and Control)がそれ。

  • 豪空軍のE-7A(737AEW&C)。後部胴体下面に大きなベントラルフィンが付いている

これは、ボーイング737にノースロップ・グラマン製MESA(Multi-role Electronically Scanned Array)レーダーを載せた機体だが、後部胴体下面を見ると、オリジナルの737にはない、大きなベントラルフィンが付いている。用途からすれば「ひっつきもの」だらけになるのは必然で、たとえば翼端には電波逆探知装置(ESM : Electronic Support Measures)と思われる大きなフェアリングが取り付いている。

また、海上保安庁が使用しているガルフストリームは胴体下面に捜索レーダー用の大きなフェアリングが加わっているが、併せて後部胴体下面にフィンが増設されている。これも、オリジナルのガルフストリームには存在しない。

  • 海上保安庁のガルフストリーム。後部胴体下面にフィンを追加している。ただし737AEW&Cと異なり、中心線上に1枚だけ

もっとも、ベントラルフィンを当初から標準装備している機体もあるので、「ベントラルフィンが付いている = 吊るしものやひっつきものによる空力的影響がある」と即断することはできない。吊るしものやひっつきものがないオリジナルの状態と、それらが加わった状態との間で空力付加物の有無を比較しないと、答えは出ない。

  • 同じ737の派生型でも、P-8A哨戒機にはベントラルフィンのような空力付加物がない

花かんざし状態になることも

ベントラルフィンが加わるぐらいならまだしも大人しいほうで、ひっつきものと空力付加物の両方が盛大に加わり、「花かんざし」状態と化した機体が出てくることもある。その一例が、エンブラエル製のリージョナルジェット機、EMB-145にレーダーを載せて早期警戒機に仕立てた一群。

ブラジル、ギリシア、インドなどで導入事例があるが、使用しているレーダーはブラジルとギリシアがサーブ製のエリアイ、インドが自国製という違いがある。ただしどちらにしても、胴体上部に棒状のアンテナを背負っているところは同じ。

そして、尾部の下面にベントラルフィン、T尾翼になっている水平尾翼の途中を貫通するように上下方向のフィン、さらに前部胴体の両側面にバー型のアンテナやアンテナ・フェアリングが加わり、オリジナルの外見を台無しにしてしまっている。

もっとも、ISR(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)機のマニアからすると、こういう「身も蓋もなく目的を追求した姿」が、また魅力的ということになるのだけれど。

面白いことに、大きなアンテナ・フェアリングが加われば必ず空力付加物も付いてくるのかというと、そういうわけでもない。

ボンバルディアのビジネスジェット機、グローバルエクスプレスに対地監視用の合成開口レーダー(SAR : Synthetic Aperture Radar)を追加した英空軍のセンティネルR.1戦場監視機は、大柄なフェアリングが胴体の上下に付いている一方で、空力付加物は増えていない。また、アメリカで森林火災の消火用に使われているDC-10も、胴体下面に放水用の大きな張り出しが加わっているが、これも空力付加物は増えていない。

張り出しのサイズ・形状・設置位置、それと取り付け対象になる機体の空力設計との絡みで、付加物が必要になったり、必要としなかったりということになるわけだ。

そして、後付けで加わるアンテナ・フェアリングなどのサイズや形状は、その中に収まるアンテナによって決まる。仕事をするのはアンテナを初めとする「ひっつきもの」だから、優先されるのはそちらであって、機体が搭載機器に合わせるしかない。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。