今回も前回に引き続き、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(以下GA-ASI)が10月15日から海上自衛隊の八戸航空基地を拠点として飛ばしている、洋上哨戒用無人機「シーガーディアン」を取り上げる。

本当に偶然だが、この話が次回に取り上げる話(これはシーガーディアンの取材よりも前から用意していた)につながっていくのだから面白いものだ。

監視飛行の実際

通常はSeaVueレーダーで洋上を行き来する艦船の動向を監視する。それとともにAIS受信機で識別情報を取得する。もしも不審な艦船がいた場合は接近して、電子光学/赤外線センサーで現物を確認する。この辺のオペレーションは、壱岐で飛んだガーディアンでも、八戸で飛んでいるシーガーディアンでも同じだろう。

  • 2018年に壱岐で飛行試験を実施した際の、海洋監視レーダーの画面例。こんなに多数のフネがいるものかと驚いた 撮影:井上孝司

    2018年に壱岐で飛行試験を実施した際の、海洋監視レーダーの画面例。こんなに多数のフネがいるものかと驚いた

航続時間は30時間超とされているが、当然ながら余裕は持たせておかなければならない。例えば、八戸航空基地から硫黄島付近まで進出する場合、行き来に要する時間が片道7時間、さらに10時間のオンステーションが可能と見積もられた。トータル24時間ぐらいのフライトになる。

そこで、この数字に基づいて簡単な「運用表」を作ってみたところ、3機あれば24時間フルタイムのオンステーションが可能という計算になった。切れ目が生じないように、交代に際して1時間の重複時間を設けても、ターンアラウンドタイム(基地に戻ってから再発進するまでの時間)を3時間は確保できる計算。その間に整備・点検と燃料補給を行うわけだ。

実際、海上保安庁でも「フルタイム監視には3機が必要」との見立てをしているという。もちろん、これはひとつの海域を対象とした場合の話だから、複数の海域をカバーしようとすれば、必要な機数は増える。

もちろん、進出距離が短くなれば、オンステーション時間を長くできるし、進出距離が長くなれば逆になる。ただ、余裕を持たせて飛行時間を24時間とする限り、その中から基地と現場の間を往復するための時間をとられるので、2機では済まない。

安全上の不安に対する答え

シーガーディアンは、仕様上は有人機との空域共有が可能だが、それはあくまでNATOの基準においてである。日本で飛行試験を行うのに、いきなり「NATOの基準を準用します」というわけにも行かないだろう。

今回の実証飛行試験では、自衛隊の訓練空域を使わせてもらった。そこと八戸の間の行き来に際しては、事前に国土交通省の航空局と調整して、他機と干渉しない経路を確保した。使用した高度は、1,500~20,000フィート(457~6,096m)の範囲内。ただし、津軽海峡付近を飛んだときには函館空港や千歳空港に離着陸する民航機との干渉を避けるため、高度の割り当てを変えている。

ただ、他社製品も含めて、現時点で無人機が完全に有人機と分離されているかというと、そういうわけでもない。2020年9月のことだが、イスラエルのIAI(Israel Aerospace Industries Ltd.)が製作しているヘロン無人機が、テルアビブのベングリオン国際空港で離着陸を実施している。

実はこれが、民航機が出入りしている管制空域内の国際空港に無人機が離着陸した最初の事例だという。空港を閉鎖して民航機を締め出したわけではなく、ちゃんと同居した状態でだ。ヘロンはシーガーディアンと同じ、中高度・長時間滞空型(MALE : Medium-Altitude, Long-Endurance)に分類される機体だ。

話を元に戻して。シーガーディアンが離着陸する際は、八戸航空基地に据え付けた地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)からCバンドの見通し線データリンクを使って遠隔操縦する。これは目の前のことだから、伝送遅延は生じない。離陸した後は衛星通信に切り替えるが、こちらは操作に対する反応に若干の遅延がある。この辺の事情は壱岐で飛んだガーディアンと変わらない。

  • 八戸航空基地に持ち込まれたGCS。通信用のアンテナは別の場所に置かれた 撮影:井上孝司

    八戸航空基地に持ち込まれたGCS。通信用のアンテナは別の場所に置かれた

では、飛行中にデータリンクが通信途絶したらどうするか。機体の側にはあらかじめ、通信途絶したら自動的に元の飛行場(今回の場合には八戸航空基地)まで戻ってくるようプログラムされている。そこでCバンド・データリンクの接続を試みる。それがうまくいけば、遠隔操縦で着陸させることができる。

では、Cバンド・データリンクの接続ができなかったらどうするか。そのときには、自動的に周回飛行しながら燃料を消費した上で、洋上に不時着水するようプログラムされている。

さらに、衛星通信は常用するKuバンドのデータリンクに加えて、予備としてインマルサット衛星を使えるようになっている。そのための端末機とアンテナも機体に装備されている。

最後に、八戸に飛来した機体について

最後に、八戸航空基地に持ち込まれた機体について簡単にまとめておこう。

登録記号はN190TC、シリアルナンバーはYBC01、2016年の登録である。2018年7月に、イギリスで開催された航空ショー・RIAT(Royal International Air Tattoo)で展示されているが、この時は自力で大西洋横断飛行を実施した。飛行距離は約6,500kmで、20時間ほどかかった。

ちなみにこのN190TC、4月にカリフォルニア州の上空で空域共有・衝突回避の実証試験を実施した際にも使われている。これは米航空宇宙局(NASA : National Aeronautics and Space Administration)と組んで実施したもの。このときには機首側面にNASAのロゴを入れていたが、今回の来日では日本列島を描いたスペシャル・マーキングに代えられた。

ところで。海上保安庁は、ヘリコプターに加えて陸上基地から発進する固定翼機を装備しており、洋上の監視飛行に加えて、海難事故が発生したときの現場捜索や救命具投下といった用途に充てている。

翼下にハードポイントを設置できる設計だが、シーガーディアンは非武装で、物量投下も行えない。だから遭難者に救命具を投下するような使い方もできない。したがって、海難事故の現場に駆けつけた時は、行方不明者を捜索して、そこに巡視船を誘導する、といった使い方にならざるを得ない。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。