第112回で、飛行場とその近隣を受け持つ、ターミナル管制の話を取り上げた。普通、ターミナル管制というと、飛行場に設けた管制塔に管制官が詰めていて、その管制官が無線で指示を出す形を連想する。ところが世の中には例外もある。

レディオ空港とリモート空港

そもそも、トラフィックが少ない飛行場であれば、管制官が交通整理をする理由に乏しい。1日に数回しか発着がなければ、滑走路は発着する飛行機だけで専有できる。そういう飛行場だと駐機場も専有できるといってよいだろう。

先日、筆者が取材のために訪れた壱岐空港も、そんな空港の1つ。長崎空港との間を、定期便が1日に2往復だけ飛んでいる。

だから、管制官を置いていない飛行場というものも存在する。ただしこれには2種類ある。

1つは、いわゆるレディオ空港。管制官はいないが、航空管制運航情報官はいる。似たような名前が出てきて紛らわしいが、航空管制運航情報官の仕事は情報提供に限られる点が異なる。

例えば、滑走路や飛行場のトラフィックに関する情報や、気象情報だ。それを無線でパイロットに知らせるが、知らせるだけで「どうしろ」と指示することはしない。得られた情報に基づいて行動を決めるのはパイロットである。

なお、事前に飛行計画書(フライト・プラン)を提出して計器飛行方式で飛ぶ場合は、管制機関や管制官が管制承認を出したり、指示や許可を出したりする。それを中継するのも、航空管制運航情報官の仕事。

もう1つはリモート空港。こちらは、航空管制官も航空管制運航情報官もいない。ただし、飛行援助センター(FSC : Flight Service Center)から「他飛行場援助業務」の提供を受けている。

つまり、当該飛行場以外の場所から、トラフィックや気象に関する情報を無線で提供している。こちらもやはり、知らせるだけで「どうしろ」と指示することはしない。

航空管制運航情報官と航空管制通信官

つまり「管制」をするわけではなく「管制・運行に関する情報を提供するだけ」だから、航空管制運航情報官という。以前は管制通信官と管制情報官が別々にいたが、2001年10月に一本化されたそうだ。無線で情報を提供するだけでなく、飛行場の状況を巡回確認したり、各種作業に関わる調整を行ったりもするという。

このほか、航空管制通信官という仕事もある。こちらはその名の通り、無線によるやりとりだけを行う仕事。主として、レーダー管制ができない、外洋上空を飛行する航空機を対象としている。そして、無線で管制官からの指示を伝達するとか、情報を提供するとかいった業務を担当している。航空管制運航情報官と違うのは、対象が飛行場(に離着陸する航空機)ではないところ。

リモート管制塔

前述したように、管制官がいない飛行場というものも存在するわけだが、そうすう飛行場の場合、航空管制運航情報官は状況を直接、目視しながら仕事をしているわけではない。口頭によるやりとりで状況を把握していることになる。

実のところ、トラフィックが少なければそれでも問題はないのだが、さらに状況把握の改善を図ろうとする考え方もある。そこで登場したのが、リモート管制塔。英語ではremote towerというが、RVT(Remote and Virtual Tower)という名称もあるようだ。

この種のシステムを最初に開発したのは、カナダのシーリッジ・テクノロジーズ(Searidge Technologies)という会社だという。同社以外では、スウェーデンのサーブも、リモート管制塔のシステムを手掛けている。このサーブとは、戦闘機でおなじみのサーブである。

  • サーブのリモート管制塔システム

カナダにしろスウェーデンにしろ、極地に小規模な飛行場をいくつも抱えていて、それをできるだけ経済的に運用しなければならないという共通課題を抱えている。似たような状況にある国としては、フィンランド、ノルウェー、ロシア、(極地ではないが)オーストラリアといったあたりが考えられそうだ。

対象となる飛行場には、全体をカバーできるように複数台のカメラを設置する。その映像を通信回線で、管制官がいる場所まで伝送する。カメラから送られてきた映像は、管制室に並べられた複数のディスプレイに、パノラマ映像のようにして表示する。さらにレーダーを設置すれば、目視が困難な場面でも状況把握が可能になる。このほか、気象状況のデータを得る手段が必要になる。

管制官は、カメラやレーダーからの映像を見て対象飛行場の状況を把握しながら、指示を出す。管制塔から直接目視する代わりに、カメラの映像を使って間接的に目視していることになる。音声のやりとりにだけ頼るよりも、間違いは少なくなるだろう。

リモート管制塔のメリットは、1つの管制施設で複数の飛行場をカバーできることと、飛行場ごとに人を配置する負担を省いて運用経費を抑えられることにある。

リモート管制塔を導入するような飛行場ならトラフィックは少ないから、離着陸がかち合わなければ、1人の管制官が「取っ替え引っ替え」する形で複数の飛行場をカバーする運用が可能かも知れない。飛行場ごとに専任の管制官を配置する場合でも、リモート管制塔にすれば管制官を1カ所の管制施設に集約できる。

現在のリモート管制塔はディスプレイ装置を並べて状況把握に用いているが、HMD(Head Mounted Display)と仮想現実技術を組み合わせれば、ディスプレイ装置を使わずに、管制対象となる飛行場のリアルタイム映像を見られるようにできるかもしれない。ヨーロッパで実施している次世代航空管制システムの研究計画・SESAR(Single European Sky Air Traffic Management Research)で、実際にそういう話が出ている。

参考 : MULTIMODAL REMOTE TOWER IN VIRTUAL REALITY ENVIRONMENT

また、アメリカのNASA(National Aeronautics and Space Administration)では、管制業務における拡張現実(AR : Augmented Reality)の活用について研究しているようだ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。