「Vtuber」という存在を知っているだろうか。Vtuberとは、「Virtual Youtuber(バーチャル ユーチューバー)」の略で、仮想のキャラクターを利用して、人間の動きをモーションキャプチャで反映させた動画や配信映像をYouTubeに投稿している人のことを指す。
近年、盛り上がりを見せるVtuber業界だが、そこに企業の名前を背負い参入する「企業公式Vtuber」が登場している。
本連載では、会社の顔としてVtuberを導入している企業の担当者に話を伺い、その誕生秘話や担当者の想いに迫る。
第5回となる今回は、育児から社会人教育まで日本の教育を支える企業であるベネッセコーポレーションの「進研ゼミ中学講座」の公式Vtuber「なるり」。担当者である小中学生営業本部オンライン事業開発室の古岡氏に話を聞いた。
「なるり」はどんなVtuber?
なるりは、「なるほど!理解!な授業を目指すVティチャー」として2020年6月に誕生した「進研ゼミ中学講座」の公式Vtuberだ。Vティチャーという名前の通り、YouTubeでは中学生を中心とした学生向けの学習系コンテンツの投稿を行っている。
「もともと、なるりは進研ゼミ中学講座の『編集室』に登場するキャラクターとして誕生しました」(古岡氏)
「編集室」とは、ベネッセの展開する通信教育講座「進研ゼミ」において、問題文の制作や学習の手引き、また特集記事などのさまざまな教材を提供している部署のこと。この編集室には、各教科を担う実際の社員をモデルとした先生キャラが存在し、、進研ゼミの本誌やタブレットには各教科担当の先生が出演している。
なるりの誕生と共に刷新された現在の編集室の先生たちは、国語担当の赤木龍太先生、数学担当の青海聡美先生、英語担当の友沢桃先生、社会担当のレイモンド・ターナー先生、理科担当の緑ヶ丘理先生と合わせて計6人。その中でもなるりは、担当科目を持たず、「生徒のやる気を出す・継続させる」ことを担当として活動している。
なるりのYouTube内でも編集室の先生たちが登場する「空想学園パンタシア」というマンガ動画が公開されており、8話完結のストーリーとして先生たちの活躍を観ることができる。
【漫画】1話 前編 「空想学園パンタシア」勉強×脳力バトル 【マンガ動画】
「なるりは、編集室の先生の中で特殊な立ち位置にいますが、実は彼女は青海先生に開発されたARヒューマノイドという設定があるのです」(古岡氏)
このように、なるりだけでなく、先生たちにも身長や特技、性格や口癖、先生同士の関係性など丁寧にキャラクター設定が考えられている。Vtuberとして活躍するなるりだけでなく、「編集室の先生」という存在は、進研ゼミで学ぶ児童・生徒たちにとってはかなり大きな存在であることがうかがい知れる。
やる気が低迷するコロナ禍だからこそ飽きない授業ができる「Vティーチャー」に意味がある
なるりのYouTubeの主な投稿内容としては、全体を通して学ぶことや学校生活が楽しくなるコンテンツが多い。その中でも特徴的なのは、オリジナルの「勉強ソング」だろう。
数学の公式や歴史の年号、理科の元素記号など、学生時代に覚えるのに苦労した記憶がある人も多いであろう暗記事項をオリジナルの歌詞とメロディに乗せて歌うだけで覚えることができるというものだ。この勉強ソングは学期に合わせて1曲ずつ公開されており、人気のコンテンツになっているようだ。
【歌って覚えて点数アップ!?】ナルリカ・マッドサイエンス / Narurika Mad Science【中学理科】
加えて、子どもたちと触れ合う時間も大切にしており、隔週で生配信などを行っているほか、YouTube以外にも進研ゼミのオンライン授業や会員とのコミュニケーションの場に登場することも多いのだという。
「なるりは、コロナ禍で子どもの学びが停滞してしまった時期に誕生しました。もともと、休校支援などを行う前から構想としては考えられていましたが、『オンライン授業の顔』としての『Vティーチャー』の発想を得たのはこの頃です。やる気が低迷するコロナ禍だからこそ、楽しく飽きない授業ができる「Vティーチャー」が子どもたちに響いているのではないかと思います。」(古岡氏)
今回、話を聞いた「なるり」の運営チームは、担当課長を含めた計11人で構成されているという。Twitterの運営や生配信の内容を考えるほか、生配信に担当の社員が出てくることもあり、オンライン授業の部署や教材開発の部署など、いろいろな部門を横断したユニークなメンバーがなるりの魅力をより深めているようだ。
また、なるりは企業公式のVtuberとしては珍しく、さまざまなグッズ展開も行っている。アクリルスタンドやノート、クリアファイルなど、学生の気持ちを知り尽くしたベネッセだからこその「机に置きたくなる」「学校に持って行きたくなる」グッズを製作しているそうだ。
机の前だけでVtuberの企画を立てるのは難しいからこそ「まずやってみる」
ここまで説明したように、なるりは主に学習意欲を高める活動を行っているが、良い意味で「勉強」というイメージが少ないのが特徴の一つでもあるのだという。
「子どもたちにとって先生はとても尊敬できる存在ですが、それと同時に少し遠い存在でもあります。実際にヒアリングをしてみても『親しみを感じるのはお姉さんやお兄さんのような先生』と回答する子が多いです。そのため、なるりは何かを教えてくれる先生ではなく、子どもの声を代弁して一緒に理解してくれる存在として子どもたちに愛されています」(古岡氏)
YouTubeには、勉強系のコンテンツ以外にも「学校あるある」や「中学生のリアルな恋愛事情」、体育の日に合わせた「運動系企画」など、勉強以外でも学校生活を一緒に楽しむことができるコンテンツが多く投稿されている。
このイメージはYouTubeでの活動にも影響しているようで、勉強だけでなくさまざまなコンテンツを扱うVtuberとコラボをする機会を作ることができているという。「進研ゼミ」というブランドではコラボレーションが実現しないような相手であっても、「なるりちゃんとなら」と声を掛けてもらえるシチュエーションも少なくないようだ。
最後に、今後社内でVtuberを導入するか検討している企業の担当者に向けて、企業系Vtuberの先輩としてアドバイスをいただいた。
「なるりはまだデビュー2年目でまだ足りない部分ばかりですが、やってみないと分からなかったことがたくさんあります。机の前に座って考えたり調べたりしているだけでは、『VTuberを始める理由』を効果の面から的確に説明することは簡単なことではないと思いますが初めは小規模で、だんだん規模を大きくしていくという方法を取るなど、どんな方法でも踏み出してみることがとても大切だと思います。机の前に座って考える前に、ぜひ初めの一歩を踏み出してみてください」(古岡氏)