免税事業者の方がインボイス発行事業者になると課税事業者となり消費税の納税義務を負うことになります(以下この変化を「課税転換」と呼びます)。そのため申告・納税への準備も必要になります。

中小事業者で課税事業者の方は法人税や所得税の申告と併せて消費税の申告を税理士に委託されている方も多いと考えられます。課税転換を機に税理士に委託するとしても、消費税の申告・納税の基本的な仕組みを知っておくことは大事です。

今回は、課税転換して初めて消費税の申告・納税するようになる方に向けて消費税の申告・納税の基本的な仕組みや、課税転換した場合の激変緩和措置として2023年度税制改正大綱で打ち出された「2割特例」について詳しくみていきましょう。

消費税申告・納税の基本的な仕組み

納税義務と申告・納税期限

基準期間(前々事業期間)の課税売上高が1,000万円を超える事業者には消費税の納税義務が課されます。この納税義務が免除されている免税事業者も課税転換する場合は、インボイス発行事業者の登録日から課税事業者となり納税義務が課されます。

納税義務が課される事業者は以下の期限までに消費税申告書を提出し納付すべき消費税額がある場合は申告書の提出期限までに国に納付しなければなりません。

法人の場合:事業期間の末日の翌日から2カ月以内(3月31日決算の法人は5月31日まで)
個人事業主の場合:翌年の3月31日まで

申告書の提出期限と納税期限が同じですので、納付すべき消費税額がある場合はこの期限までに納税できるように資金を確保しておく必要があります。そのためにも早めに納税額がどのくらいになるか予測できるようにしておくことが大事です。課税転換した方にとって、最も大事なことはこの納税資金の確保ということになります。

納税額計算の仕組み‐本則課税と簡易課税

基準期間の課税売上高が5,000万円を超える事業者および基準期間の課税売上高が5,000万円以下でも簡易課税制度を選択しなかった事業者は本則課税が適用されることになります。この本則課税では以下の計算式で納付税額を計算します。

納付税額=課税標準額に対する消費税額(※)-控除対象仕入税額
(※)課税標準額に対する消費税額=課税標準額×消費税率
  課税標準額=事業期間の課税売上高の税込金額合計X100/110(千円未満切り捨て)

上記の100/110の割合は消費税率10%の課税売上高に対するものです。軽減税率8%の課税売上高であれば100/108の割合をかけて課税標準額を計算します。

こうして計算した課税標準額に対する消費税額から控除対象仕入税額を引いて納付税額を求めます。この控除対象仕入税額は課税仕入高に対する消費税額が全額控除対象となるわけではありません。

詳細な説明は省きますが、課税売上割合が95%未満の場合や事業期間の課税売上高が5億円を超える場合は全額控除対象とならず、より複雑な計算をしなければなりません。そのため課税転換する方には、特別な事情がない限り簡易課税を選択することをお勧めします。

その簡易課税ですが、簡易課税制度を選択できる条件は基準期間(前々事業期間)の課税売上高が5,000万円以下ですから、これから課税転換しようとする免税事業者の方は適用可能です。

簡易課税の場合は、売上で預かっている消費税額で控除対象仕入税額も計算するので課税売上高だけを集計すればすみます。計算式は以下のようになります(分かりやすくするために簡易な書き方にしています)。

納付税額=課税標準額に対する消費税額-控除対象仕入税額(※)
(※)控除対象仕入税額=課税標準額に対する消費税額×みなし仕入率

このみなし仕入率は事業の種別によって以下のように決まっています。

事業区分 該当する事業 みなし仕入率
第1種事業 卸売業 90%
第2種事業 小売業 80%
第3種事業 製造業等(農業・林業・漁業・鉱業・建設業など) 70%
第4種事業 その他の事業(飲食店業など) 60%
第5種事業 サービス業等(運輸通信業・金融保険業・サービス業など) 50%
第6種事業 不動産業 40%

本来、簡易課税の適用を受ける場合は、適用したい事業期間の始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」(以下「簡易課税選択届出」)を提出する必要があります。

免税事業者の方が発行事業者登録の経過措置を利用する場合、[図1]のように登録日の属する事業期間中にその事業期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した「簡易課税選択届出」を提出した場合には、その事業期間から簡易課税制度の適用を受けることができます。

なお、簡易課税の場合売上税額だけで納税額を計算するため、金額の大きい課税仕入があってもその仕入税額を控除することはできません。課税売上高を上回るような設備投資を予定している場合は、本則課税を適用して仕入税額控除すると消費税が還付になるようなケースもあります。

大きな設備投資を予定している場合は、税額計算が面倒になっても本則課税を適用することを検討した方が良いでしょう。このようなケースではプロである税理士に相談されることをお勧めします。

免税事業者の「課税転換」を促す「2割特例」

「2割特例」の適用と留意点

免税事業者が課税転換して消費税の納税義務を負うことに対する激変緩和措置として、2023年度税制改正で「2割特例」が導入されることになります。

2割特例とは、課税売上で預かった消費税額の20%を納税すれば良いということです。営む事業がなんであれ、簡易課税制度の第2種事業として納税額を計算することになります。

次の表は課税売上高が900万円(預かった消費税90万円)の場合の事業区分ごとの納税額を計算したものです。

事業区分 第1種 第2種 第3種 第4種 第5種 第6種
納税額 9万円 18万円 27万円 36万円 45万円 54万円

フリーランスのライターの方などは第5種に該当するため、簡易課税制度では45万円納税することになりますが、2割特例を適用すれば18万円ですみます。第3種~第6種に該当する場合は2割特例を適用した方がお得ということです。

この2割特例は事前の届出は必要なく、本則課税・簡易課税いずれを選択している場合でも申告時に適用する旨申告書に付記すれば2割特例で計算すれば良いとされています。

2割特例の適用期間は「2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する各課税期間」とされており、2023年10月1日からインボイス発行事業者になる個人事業主を例にとると、「2023年10月1日~2023年12月31日」「2024年分」「2025年分」「2026年分」の期間で適用できます。

2割特例は、発行事業者の登録日が2023年10月1日の場合、その直前まで免税事業者であることが要件となっています。

「2割特例」を積極的に活用しよう

個人の免税事業者の方が2023年10月1日からインボイス発行事業者になる場合、「2023年10月1日~2023年12月31日」の期間の消費税申告・納税を2024年3月31日までに行うことになります。2割特例は事前の届出なしで適用できますので、今、2割特例を適用する・しないを決める必要はありませんが、簡易課税と比べて2割特例で不利になるのは卸売業の場合のみなので、それ以外の事業種別であれば積極的に活用することを検討しましょう。

そして適用できる期間である「2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する各課税期間」、約3年間は2割特例を適用し、その後は基準期間の課税売上高が5,000万円を超えていなければ簡易課税を選択することを検討しましょう。

2割特例の適用期限となる事業期間の翌事業期間(個人事業主の場合は2027年)中に「簡易課税選択届出」を提出すれば、その事業期間から簡易課税制度を適用できます。すでにインボイス発行事業者の登録申請と同時に簡易課税選択届出を提出している場合も同様に2割特例の適用期限となる事業期間の翌事業期間は簡易課税制度の適用を受けることになります。

この2割特例が出てきたことで、免税事業者からインボイス発行事業者になる方の消費税の申告・納税についての不安も和らいだのではないでしょうか?

この連載を通して、免税事業者の方にとってインボイス発行事業者になり課税事業者となることを積極的に事業を拡大していく転換点として前向きに捉えて、インボイス制度に対応していく方向性を見出していただけたら幸いです。