免税事業者の方にとってインボイス制度は免税事業者のままで消費税の納税を行わないか、インボイス発行事業者になって消費税の納税を行うか、その決断を迫られる制度です。2023年10月1日の制度開始時に同制度を利用するには、同年3月末までに、所轄の税務署に登録申請をしなければなりませんでしたが、2023年1月16日の関係省庁会議で事情を問わず9月末まで受け付けることが明らかにされました。

免税事業者の方もその事業内容はさまざまです。事業内容や主な販売先によってインボイス制度への対応の仕方も変わってきます。今回は免税事業者の方がインボイス発行事業者になるべきかどうかについて、事業内容や主な販売先との関係から考えていきましょう。

インボイス発行事業者になるべきなのか?

[図1]は免税事業者の方の主な販売先によってインボイス発行事業者になるかどうか検討するためのフローチャートです。

このフローチャートをベースに、免税事業者の方がインボイス発行事業者にならないケース・なるケースについて詳細に検討していきましょう。

インボイス発行事業者にならなくてもいいケース

インボイスが必要となるのは仕入先からのインボイスの受領・保存が仕入税額控除の要件となる課税事業者です。

[図1]の左側のフローのように主な販売先が消費者の場合、消費者は消費税の納税義務はありませんので消費者はインボイスを受領・保存する必要はありません。免税事業者の方の主な販売先が消費者の場合はインボイス発行事業者にならなくても売上への影響は少ないと考えられます。

ただし、小売業や飲食業などで領収書の発行を求められて販売先が事業者だとわかるようなことがあるとすれば、販売先の一部は事業者ということになります。このような場合、インボイス制度が始まるとこうした販売先からはインボイス対応した領収書の発行が求められる可能性があります。

そして免税事業者のままでこうした要求に応じられない場合は、販売先の一部を失うことになる可能性があります。販売先の一部を失うことが事業に与えるインパクトを考慮して、インボイス発行事業者になるかどうかを検討しましょう。また、将来事業者を販売先にするように事業を拡張していくことを計画している場合はインボイス発行事業者になることを検討した方が良いでしょう。

現在も将来も販売先は消費者のみという免税事業者の方は、経営的な観点からも免税事業者のままでインボイス発行事業者にならないという選択が可能です。インボイス制度になっても、免税事業者のままでいられるのであれば、これまでとやることは何も変わりません。レシートや領収書などは従来通りで良いですし、消費税の納税に係る事務処理も必要ありません。

インボイス発行事業者になったほうがいいケース

[図1]の右側のフローでは主な販売先が事業者となりますので、インボイス発行事業者になることを検討することになります。

すでに販売先の事業者から、インボイス発行事業者になるかどうかの確認や、インボイス発行事業者になるように依頼する案内などを受け取った免税事業者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

販売先の事業者が課税事業者で仕入税額を控除して納税額を計算する本則課税を適用されているのであれば、仕入先からインボイスを受領・保存する必要があります。こうした事業者の方にとっては、仕入先がインボイス発行事業者でなければ仕入税額控除できなくなり納税額が増えることになります(※1)。

これらの事業者の立場で考えれば、インボイス制度への対応準備のプロセスで仕入先へインボイス発行事業者になるのかどうか確認を始めているのは当然といえます。そして確認後には、販売先の事業者がインボイス発行事業者のみに仕入先を絞ったり、免税事業者の仕入先に対しては消費税分値下げを要求したりするような動きが想定されます。実際にそのような動きも出てきています。

ただし、免税事業者のような小規模事業者に対してインボイス制度の開始を理由に一方的に取引条件を変更しようとする場合は、独占禁止法などにより問題になる場合もあります(※2)。免税事業者の方は、そうした点も留意して販売先の事業者とコミュニケーションを取り、経営判断としてインボイス発行事業者になるのかどうか決める必要があります。

※1:インボイス制度開始後6年間は仕入税額相当の一定割合を控除できますが、販売先にとって納税額が増えることに変わりはありません。
※2:詳しくは公正取引委員会などが作成した「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」のQ7などをご確認ください。

一方、販売先の事業者が免税事業者の場合は納税の必要がないため仕入先にインボイスの発行を求めることはないはずです。また、販売先の事業者が課税事業者であっても簡易課税を適用されている場合は、売上税額だけで納税額を計算しますので仕入税額控除のためにインボイスを受領・保存しなくても税額計算に影響はありません。このケースも仕入先にインボイスの発行を求めることはないはずです。

販売先の事業者がこれらに該当する事業者のみの場合は、免税事業者のままでも取引を継続できる可能性は高くなります。ただし、このようなケースでも取引先とコミュニケーションしてみなければ、取引先が免税事業者か、課税事業者でも簡易課税を適用しているかどうかはわからないのではないでしょうか。

小規模事業者でもある免税事業者にとって、事業規模の大きい販売先とコミュニケーションをとり、さらに交渉をするということはなかなか難しいことだと思いますが、この機会にコミュニケーションを取ることで、相手の立場や考え方を知り自らがどのようにみられているのか知る良い機会でもあります。

インボイス制度開始後は、インボイス発行事業者の方が免税事業者に比べて取引機会は増えると予想されます。こうした販売先とのコミュニケーションを経て免税事業者の方がインボイス発行事業者になるのであれば、取引先のプレッシャーに押されていやいやなるのではなく、「競合より多くの受注を獲得する」「業績をあげて1,000万円を超える売上を目指す」など前向きの経営方針を立ててインボイス制度に向かっていくことが大事です。このような考え方で前に進むためにも、まずは早めのコミュニケーションを自ら積極的に仕掛けていくことをお勧めします。

次回はインボイス発行事業者になる場合の手続きなどをみていきます。